作戦模索中ナウ
「――まずはこの場で一番常識人そうなメイルに質問。 魔王城って、どんなトコロなの?」
「えっ!? 知らなかったのだ!?」
「いや、考えてみろ。 俺ってばニンゲンなんだぞ? これで逆に知ってたらそれはそれでヤバいだろ」
「ってことは――」
「もちろん、現状完璧にノープランだぜ!」
「レギ、このバカを投げ飛ばす程度の余力を残っているのだ?」
「もちろんさっ(爽やかな笑顔)」
「止めよ? レギウルス君も他人を殺めることにもうちょっと忌避感をもとうね?」
晴れやかな笑顔で起き上がるレギウルスから後ずさりながら俺は慌てて余命を一刻でも増やすために釈明する。
「もちろん、ある程度のプランはちゃんと組んでるよ? でもさあ、それでも情報収集が一番大事だよね?」
「――――」
「特にこの瞬間には魔王幹部が四名も集まっている。 これを好機を言わずして何と言うのだろうかと問いたい!」
「諜報は最初から万全にしろよ、ロリコン」
俺の言い訳はガバルドによってにべもなく切り捨てられてしまう。
「まあ、このバカを擁護するワケじゃないが、策謀において情報は金銀財宝にも勝る。 見くびるのは策を考案してからでも遅く無いと思うぞ」
「ふむ……確かにな」
ガバルドのフォローに考え込むメイル。
そして考えがまとまったのか、大袈裟に溜息を吐いて嘆息した。
「……承知したのだ。 不本意ながらも、魔王城の構造について教えてやるのだ」
「ガッハッハ、これで晴れて俺たちは反逆者だな」
「言うな、レギ」
その自覚はあったのか恥じ入るように俯くメイル。
まさ確かに、国のためとはいえそれ相応のリスクが生じるし、そもそも謀反行為故に躊躇するのは当然か。
それでも結果的に了承してくれたメイルに感謝を。
「まず一つの要点としては、魔王城は絶対鉄壁の城塞によって囲まれ、更にそれを突破したとしても深淵のような崖が待ち構えている」
「うーむ、それはなんとも原始的な」
「まあ原始的っていうバカの意見には賛成なのだが、確かにこれじゃあ並大抵の奴じゃ城に入ることも叶わないな」
「まあ、そうだな」
イメージとしてはスケールが超巨大な監獄と言ったところなのだろうか。
監獄は中からの脱走はもちろん、外部からも侵入にもそれなり耐性がある。
だが――生憎、こちらには強力無比な鬼札が居るのだよ。
「おいおい……俺の妹のことを忘れてもらったら困るぜ」
「ロリコンがなんか言ってるぞ」
「無視だ無視。 ああいう面倒な輩にはそれが最適解なのだ」
折角格好つけたというのに酷い言われようだ。
絶対監獄?
ハッ、そんなモノ、自由自在に『転移』の魔術を扱えるライムちゃんが味方陣営にいる以上、恐れるに足らず!
『転移』を駆使すれば、どんな城壁だろうが一瞬で侵入できるだろう。
だがしかし、その思惑はアッサリと破れることとなった、
「――おいアキラ。 お前絶対『転移』使おうと考えてるだろ?」
「――ほう、よくわかったな。 お前も俺の理解者ってことか」
「自害したくなるおぞましい事実を俺に突きつけるな」
どうして俺の周囲の人々はこうも直接的な罵倒を躊躇わない奴が多いのだろうかと心底疑問に思う。
「アキラ、一応言っておくがな、魔王城を囲う城壁の一切合切はフェイク。 その真意は単純にあるアーティファクトの隠蔽だ」
「嫌な予感がしたから泣いていい?」
「勝手に泣け。 ……城塞の内側に仕掛けられたアーティファクトは『審議の天秤』。 端的にいうとアレに登録した者以外の一切合切の干渉を拒む」
「オーマイガー!」
あれ? これ詰んでねと虚ろな眼差しになる。
成程、確かにそれじゃあ幾ら『転移』を使っても無駄足だし、最悪魂が外れるとかそういうカンジのリスクも存在するな。
「……まあ、それの解除方法は後々考えるにして、魔王城の中はどうなってるの?」
「魔王が居座る魔王城にはおぞましい程の傭兵が彷徨い、巡回していやがる。 それも魔王城に抜け道なんてないぞ」
「うわあ……無理げーだわ」
「ついで言うと魔人族以外の奴が一歩でも魔王城に足を踏み入れたら盛大に警鐘が鳴り響く手筈になっている」
「お、おう……」
「ちなみに魔王様のお部屋を守護する騎士団は相当に強力で、レギと遜色ないレベルの団長までもが在籍しているのだ。 普通に考えれば突破は不可能だが、何か策は?」
「一欠片もないね☆」
頭蓋に靴底が陥没した。
「まあ、そんな冗談はともかく、今ので色々と情報は入手することは叶った。 色々と可能性を検討したいから、まずは地図でも書いてくれ」
「無理なのだ?」
「は? どうして?」
「鼻が曲がりそうな体臭のせいだろ」
「いやいや、きっとメイルはゴブリンと遜色ない醜悪な顔面が見るに堪えなかったんだ!」
「…………(無言で号泣)」
優しさを是非とも道徳で学びなおして欲しい。
「大丈夫だわ、私はお兄ちゃんがヘドロのように臭くても、ゴブリンみたいな顔をしてても愛してるから」
「それフォローになってないよ?」
妹の無垢な優しさに頬を強打する。
「――で、実際の理由は?」
「……魔王城の構造って、随時入れ替わるのだ。 唯一魔王様が控える王室はその対象外なのだが、それは慰めにならないのだろう?」
「スゴイや! 不幸が今更になって押し寄せてくるよ!」
まあ、確かに六百年もの間一度たりとも侵入者が神聖なる王室に足を踏み入れたことがないと評判な魔王城だ。
これくらいは覚悟していたがいざ直面してみると存外込み上げてくるモノがある。
「あれ? これ無理ゲーじゃね?」
「はあ。 まあ、それに関しては同意するのだ。 それで、策は?」
そうメイルは急かすように催促する。
だがしかし、俺はノーと言える男。
「……詳細を確かめる必要がある。 今の大まかな仕掛けの大体の対処法は思いついたけど、場合によっては不可能になるのもあるから」
「ふむ……それもそうか」
メイルは少々熟考し、何故か盛大に顔をしかめこう提案した。
「私とレギは多分このメンバーの中で最も魔王城に足を踏み入れる頻度が高い。 情報源としてはそれなりに有能なのだ」
「うげえ……嫌だなあ」
「おいおい、まるで今にも嘔吐物でも吐き出しそうな顔だな」
「事実だよ」
みんな俺のことをマゾと勘違いしている節がある。
「取り合えず皆は俺たちが作戦を立案している間に休憩を済ませておいて。 ちなみにライムちゃんも重要なメンバーなので居残りね?」
そうじゃないと暴走して客船吹き飛ぶからね?」
「ん、当然の義務」
「またおぞましいロリコンが何か言ってるのだ」
酷い誤解である。




