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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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死屍累々













「……流石に、倒したか?」


 そう誰にまでもなく自分を言い聞かせるように呟く。


 水流を自由自在に渦巻く氷の破片と爆流をたとえそれがグールなどという訳の分からない種族が破れる筈がない――、


「――とでも、思っていたのか」


「――ッッ」


 背後に、気配。


 即座に構えていた太刀に全身全霊の魔力と膂力を込め、勢い良くその鉄筋であろうとも豆腐のように断絶する刃が振るわれる。

 だがしかし――一歩、遅い。


「――ッッ!?」


「大人を舐めすぎといったでろう、少年」


 脳天へ、強烈な刺突が振り落とされる。


 脳漿が冗談のように宙を舞い、べちゃりという生々しい音が鼓膜を震わせた。

 脳と言う人体において最も重要たる器官が無遠慮に抉られたことにより思考が急に暗転し、世界から音が消える。

 

 世界がスローモーションになることもなければ、またあの時のように走馬灯を夢見ることも、無い。

 

「私たちグールは存外強靭だ。 せめて冥府の土産とするがいい」


「――――」


 何を言っているのか、分からない。

 

 そして黒衣の男は、ゆっくりと幽鬼のように俺へと近づくと――また、またその頭蓋を鋭利な切っ先で弄んだ。

 嗤い声が、聞こえた気がした。


 ケタケタ、ケタケタ、ケタケタと――、
















「――そういうことが、少年。 余り大人を舐めるな」


「――――」


 黒衣の男はそう小さく呟き、懐から取り出した小振りなナイフを百点満点の姿勢と勢いで投擲する。

 反射的に体が躱そうとするが、そもそも劇毒に侵され神経が狂い果てているので真面に動くことは叶わない。


 だが――思考は、前よりも数段晴れやかだ。


「――蒼海乱式・『蒼穿・連星』」


「――ッ! 妙な弾丸だな……」


 構築、生成、加圧。

 もはや、手慣れた動作を数瞬の暇で巡らせ、すると虚空に圧縮された水滴の弾丸が生成されていく。

 

 宙を浮く幾つもの水滴は微かに渦を巻き、その直後正確無比に狙いを定め、迫りくるナイフと黒衣の男へ殺到する。

 流石に異常な程強靭であるグールであっても苦痛は感じるらしく、撃ち抜かれた左腕を抑えながら黒衣の男は退避を選択した。


 その隙に、術式が構築される。


「――『天衣無縫』」


 全身を巡り苛んでいた劇毒の存在そのものが否定され、それによって体中の至る所から発せらた痺れも納まる。


「まぁ、これでようやく同じ土俵か」


「――ッッ‼」


「うわぁ。 キッショ」


 にこやかに微笑む俺の視界に移ったのは、文字通り大量の血反吐をぶちまける直視することさえもできぬグロテスク映像。

 子供が見たら数週間は一人でトイレにすらみいけない絵面だ。

 成程、確かにこれは『グール』だなと納得する。


 この異常なまでの生への執着、明らかに常軌を逸している。

 というかそもそも、システムに『グール』なんていう種族なかったぞ。

 そういえば、猫耳は居たけど狐耳の亜人は存在していなかったな。

 

 痛烈な違和感、というか疑念。


 何かが、何かが今『厄龍』ルインの何かに引っかかった気がしたが、しかしその肝心の輪郭は霞んで見える。

 そして俺は振りかざされたナイフの光景に、ようやく今が死闘の最中であると我に返る。


「余所見かッ!」


「そりゃあな! 俺グロ映像耐性あんまりないから」


「ハッ」


「鼻で嗤われたし。 傷ついた! 俺今むっちゃ傷ついた! 慰謝料として俺の手間省いて自害してくれると嬉しいなぁ!」


「戯れ言を」


 またも嘲弄されながら、投擲。


 正確無比なナイフの投擲であるが、慣れてしまえば退屈――うぉっ!?

 短刀を迎撃しようした瞬間、何かの拍子に、猛烈に加速していき俺の頭蓋を砕こうと飛翔していく。

 何とか首を傾げるようにして回避する。 危ねぇ……!


「おいおい、まだ余力を?」


「今死ぬお前には関係のない話だ。 ――『加速』」


「――――っ」


 肝臓を射抜こうと空を踊り舞う短刀は、不規則な軌跡を宙に描く。

 その緩急は実に不安定であり、地を這う亀の如き速度の場合もあるが、一気に音速を超越した速力で加速することもある。

 殺到するそれらの軌跡の一切合切を避けるのは到底不可能。


 ならば――消す。


「――『天衣無縫』」


「――――」


 薄く伸ばした暗黒の物質を展開し、そして押し寄せる幾多ものの短刀がそれに呑み込まれ、世界から消えてしまう。

 最終手段、『天衣無縫』!

 ただし難点はこの魔力消費。


 もう既に魔力は限界を迎えているし、早々にケリをつけなければ不味そうだなと推し量り――肉薄する。


「ふんっ」


「お前、投擲技術はそれなりだど武術は素人に毛が生えた程度だよね」


「――――」


 無造作に振り払われた鋭利なナイフが空を切り裂き、至近距離で放とうとしたナイフも同様に明後日の方向に飛翔していった。

 指摘した通り、この壮年の男の近接技術はあまりにも稚拙で拙いモノであった。

 捌くのは、容易い。


 あと一歩、あと一歩。


 そして――、


「そろそろ、この無意味なゲームを終わらせたいからな。 いい加減、倒れろや。 ――『天衣無縫』ッッ‼」


「――――」


 その意識を、刈り取る。












「――彼らを捨て駒にして、本当に良かったのですか?」


「――――」


「陽動ならばもっと適任の者が――」


「――煩い」


「――ッッ。 失礼しました」


「――――」


「では、改めてご報告を。 ――準備は、整いましてございます」


「――――」


「貴方様のお望み通り――この世界に、癒えぬ傷跡を。 絶え間の無い悲鳴を。 そして――世界に、等しく滅亡を」


「――――」


「アーティファクトの回収は済みました。 ――いつでも、始めれます」


「――殺せ」


「――――」


「殺して、奪って、抉って、嗤ってやれ」


「御意っ」




 今回の場合、『天衣無縫』で奪ったのは「存在」ではなく「意識」です。

 ちなみに消された脳細胞の代わりに違う脳細胞がそれを担当されることとなるので、一応意識は戻ります。 時間こそかかりますが。

 『ループ』を手に入れたことによりアキラ君の『天衣無縫』もそれに呼応して繊細な消去も可能となりましたと解説してみたり

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