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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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グール


 グッバイ宣言、です














「――そういうことだ、少年。 あまり大人を舐めるな」


「――――」


 そう言い放つと、男は踏み込みと同一のタイミングで豪速球でも放つかのようの幾つものナイフを投擲する。

 避けろ。

 そう本能がけたましく警鐘を鳴らしていながらも、体は満足に動かすこともできない。


 呼吸すら覚束ず、拍動は刻一刻と微弱になっていく。

 脳天目掛けて放たれたそのナイフを今この瞬間避けるのはどのような達人であろうとも到底不可能――ならば、避けない。


「――『天衣無縫』ッ!」


「――――」


 そして放つ。

 改変魔術の極地、万象を否定し、世界の秩序を狂わす禁術――『天衣無縫』。


 今回の対象はもちろん飛翔する短刀だ。

 流石にナイフそのものを捉えて消去するのは神仏の御業なので、軌道予測を組み立て、そこへ漆黒の球体を設置する。

 

 投擲されたナイフは予測通りの軌道を描き――そして、世界から消失する。


「何をしている、少年」


「――っ」


 いつのまにやらこちらへ肉薄していった黒衣の男は、メスでも握るかのような構えでナイフを振るう。

 身体を蝕む痺れは凄まじく、特に酷いのが背中と四肢だ。

 もはや思う通り動かすことさえも叶わないこの状況。


 死力を尽くても動かせるのはまだまだ麻痺が浅い首筋のみ。


 ならば――、


「ワン●ーススタイル!」


「――――」


 犬のように歯で太刀の柄を握り、首筋の関節を巧みに動かしてその刃をいささか強引ではあるが、確かに振るう。

 その一撃は歯で咥えられたとは思えない程洗練されており、流れる水の如き自然さを以て黒衣の男を迎撃する。


「くっ――」


「はむはむむがぁ(甘いんじゃボケェ)!」


 万が一のために鍛錬しておいてワン●ーススタイルがどうやら功を奏したようである。

 俺としてはご満悦だ。

 よし、今の一撃に無理をしたおかげか霞んでいた思考がようやくクリアになり、研ぎ澄まされていく。


 俺は咥えいた太刀を落としながら、呟く。


「――別に、動かなくてもある程度は戦えるんだぜ?」


「――――」


「――蒼海乱式・『蒼穿』ッ!


「ほう」


 構築、生成、加圧の手順を一瞬で済ませ――刹那、初速に関しては音速さえも上回る弾丸が放たれた。
















――蒼海乱式・『蒼穿』


 生成した魔術を圧縮して、弾丸並みの強度にまで加圧された水滴を凄まじい速度で吐き出す魔術である。

 だがしかし、超常的存在ならば視認しての回避は容易い品物だ。

 『蒼穿』が重視しているのは純粋な威力と貫通力。


 故に達人には容易く見切られるが――果たして、眼前の男はどうだろうか。


 見たカンジこいつの身体能力はそこまで高くはない。

 達人レベルの技巧にまで到達しているのは純粋な接近戦への才能ではなく、投擲や劇毒といった陰湿なモノ。

 偏見かもしれないが――俺はこいつがこれを防ぎきれないと判断している。


 ――果たして。


「――っ」


「――――」


 ――そして、血飛沫が噴水のように吹き上がった。

 

 それと同時にケタケタという不気味で気色の悪い笑い声が木霊する――脳天を撃ち抜かれたはずの黒衣の男から。

 確かに大量に出血こそしているが、それでも倒れやしない。

 単純に回復魔術でも習得しているのか。


 それとも――、


「――お前、本当にニンゲンか?」


「――――」


 無言。


 俺は『天衣無縫』で強引ながらも体を蝕む劇毒を解除し、それ故か吐き出した血反吐が消え去っている。


 そういえば、俺の魔術に関しても色々と謎が多かったな。

 まぁ、そこら辺の考察は後――最優先は、眼前でケタケタと気色悪い笑みを浮かべる、この黒衣の男の推察だ。

 アイテムボックスから新たな刀を取り出しながら、俺は黒衣の男を見据える。


「口をつぐむか? ならお前の代わりに俺が代弁してやろう。 ――答えはノー。 お前は人間などではない」


「……黙れ」


「なんせ脳天を撃ち抜かれて生きていやがるんだもんな。 普通に異常の一言じゃ済まされねぇし――」


「――黙れと、言っている!」


「あっ。 ようやく喋ってくれたんだ。、 嬉しいなー」


「――――」


「それにその過敏な反応。 やっぱり図星か」


「――――」


「知ってるか? 沈黙って俺の故郷じゃ肯定と同義の意味を持っているんだぞ。 ……推し量るに、アンデット当たりか?」


「……妙な故郷なのだな」


「あぁ、嫌ーな故郷だ。 なにせあの子以外、全員狂い果ててるんだからなぁ」


「――――」


 口をつぐむ黒衣の男へ俺はそう親し気に語り掛ける。


 脳天を穿たれて無傷に治癒されているなんていう軌跡、普通じゃ有り得ないことは明々白々だろう。

 考えられる可能性は、アンデット関連、もしくはそういう魔術なのか――それとも、『月』が関係しているのか。


 ?


 何故、俺はほとんど無意識的に『月』なんていう得体の知れないモノを一つの可能性に加えたのか?

 自分でも理解できない事象に目を剥く俺だったが、どうやら事態は俺に思考なんていう当然の権利さえも与えてくれないらしい。


「よく看破したな。 そうだ、私は『グール』、人ならざる者だ」


「へぇ。 面倒だな。 俺って神聖な力全く持っていないんですけどー」


「それはよかった。 ――何の抵抗もなく殺せる」


「――ッッ」


 予備動作無しの投擲。


 咄嗟に振るった白銀の刀身がそれを切り裂くが、しかしながらたった一振りでは飛翔する脅威のい一切合切を防ぎきることは不可能。

 ならば――物量で押し殺す。


「魔力のストック消し飛んだわ。 責任とって死ねよ――吞みこんでしまえ」


「――――」


 最低限の魔力を残して、俺は虚空に凄まじい物量の水塊を生成し、黒衣の男へと押し流していった。

 しかもレギウルスでさえも傷を刻み込んだ氷の破片付きだ。

 これを生成するのに相当に魔力を消費したが、これで奴の弾幕に巨大な穴が開くのならば万々歳である。


 そして、黒衣のグールを波打つ大波は容易に呑み込んでいった。



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