和気藹々……だと良かったなぁ
一方通行さんとペテ公の声優が一緒で爆笑しました
「――――」
余波を喰らって倒壊していない。リヴァイアサンの岩肌の頂上に建設されたログハウスに重苦しい沈黙が訪れれていた。
無言だ。
誰も彼もが視線を彷徨させ、その居た堪れない空気に神経を擦り減らしていた。
まぁ、そりゃあそうだろうなと苦笑しながら納得する。
もしこの場に俺という異分子が存在していなければそれなりに喧騒が溢れる騒がしい光景となっていたのかもしれない。
だがしかし、非常に残念なことに、この場に居座す面子の中に俺という潜在的敵対者が入りこんでいるのだ。
人族は目視次第駆逐を。
そしてその逆も然り。
そんな狂った価値観が当然のように許容されているこの世界において、乱闘に突入しないだけまだマシなのかもしれない。
だがしかし、暴動こそ無くとも異種族同士の会話な無い。
なにせ名実ともに人族と魔人族は不俱戴天の存在なのだ。
故に俺という存在が歓迎されるはずがなく、この部屋か醸し出される陰湿な虐めのような空気が晴れることは――、
「……なんだよ、この空気」
「――っ! レギっ!」
怪訝な表情をしつつ、全身におびただしい量の包帯を巻いた『英雄』ことレギウルス・メイカが入室。
レギウルスは先刻の決闘で相当な重傷を負ったの我が妹ライムちゃんに治療を受けていたが故に到着が遅れたのだ。
ちなみに俺の傷は真っ先に治癒してもらいました、はい。
俺としてはレギウルスが妹に怨念が勢い余ってその儚い(?)命を奪ってしまったら、ここまで積み上げてきた策謀が台無しだ。
だが、顔色は優れないものの彼の状態は健全そのもの。
どうやら憤怒の刃にその身を侵されることは無かったらしい。
命拾いしたな、レギウルス。
閑話休題。
「レギ……心配したのだ」
「おいおい、俺を何様と思っている? 生ける伝説の『英雄』だぞ? この程度の傷掠り傷にすらカウントされねぇよ」
思わぬ幼馴染の姿に感極まり抱きしめようと特攻するメイルを避けることなく、そのままレギウルスはされるがままに抱きしめられている。
レギウルスの身を案じるメイルを親愛のこもった眼差しで眺めながら、それでも『英雄』として気丈に振る舞う。
明らかにこの二人は、ここが公衆の場であることを遠く彼方へ忘却してしまったようである。
そう――理想のバカップルが、そこには居た。
端的に言おう、俺は今奴を殺したい。
「おいジューズ、あいつらいつもあんなカンジなのか……?」
「察してくれ」
「――――」
一瞬無意識に放ってしまった殺意に機敏にビクッ、と肩を震わすレギウルスであった。
人生の墓場にでもいってろ。
だがしかし、レギウルスの登場によって肩身が狭くなる雰囲気が晴れ渡ったことは癪だが事実なのである。
しょうがない、爆破は許してやろう。
「ゴホンッ」
「――。 済まないのだ、ちょっと気が動転してて……」
咳払いで感極まったメイルを窘め、俺を鋭い眼差しでレギウルスを睥睨する。
「ケッ。 イチャつくなら人前ですんなよ。 慈愛の女神のように寛大な俺だが、リア充に対してのヘイトは凄まじいぞ」
「果たしてそれは寛容と言える姿勢なのだろうか」
失礼な。
さて、閑話休題。
「――――」
役者が全員出そろった今、むざむざと時間を無為にすることはせず、ログハウスの一角は即席の会議室となっていた。
メイルは心なしか剣呑な眼差しで俺を見据えながら質問する。
「まず一つ、全ての前提条件なのだ。 ――これ以上、お前は私たちに敵対する意思はあるか?」
「うーん、一概にも言えないな。 お前たちが襲撃してきたら反撃もするけど、でもでも俺個人としてはこれ以上敵対するのは得策じゃないかなって思ってみたり」
「妙な口調なのだ……」
この口調のモデルは一方●行でも読了してくれたら分かると思う。
断言するが、俺がさっき言った言葉に嘘偽りはない。
これ以上不用意に脅迫でもすればまだ種族間との溝は深まるばかり。
もうこの時点で色々外道な行為もしているが、その点記憶を消しても些細な問題しか発生しない事件は揉み消す所存だ。
我ながら何とも都合のいい魔術を持ったなと感心する。
「あー、それじゃあ負け犬から一言いいか?」
「答えらない質問だったら口をつぐむからな」
「ハッ。 俺とお前お互いの尊厳をチップにした賭けはお前の勝利で幕を閉じた。 俺が聞きてぇのはその先だ」
「ほう」
「お前は俺が欲しいといったが、具体的に何をすればいい? まずはその点を明瞭にしてもらわないと、当事者である俺が不安で仕方がない」
確かに、そういえばあんまり深く言及していなかったなと思いだす。
「まず目先の目標は魔人族と人族の和平。 そうでもしなきゃ『老龍』は打ち倒せないからな」
「……なぁ、一つ疑問なんだがァ、本当に『老龍』の野郎きやがるのか? 正直信憑性がホロウ並みに薄いぞ」
「そもそも幽霊に実体なんてないと思うがね。 あー、それに関してはノーコメントで。 ぶっちゃけ証明する手段はない」
「――――」
「まぁ――それも、後少ししたら否応なしに理解できると思うんだけど」
「?」
怪訝そうな顔をするメイルは、次の瞬間大きくその瞳を見開くこととなる。
――轟音
それと共に勢いよく頑強なログハウスが倒壊し、爆風じみた風圧と共に手榴弾のように破片が散弾のようにぶちまけられる。
「何なのだ!?」
「襲撃……ってこったぁ。 一応言っとくけど俺は無関係だからな」
最もたる心当たりである俺を瞠目しながら視線で問うメイルを適当にあしらう。
そして事態はそのような些細な疑念を晴らす余念すら消失してしまう程に切迫していく。
土煙が晴れると――黒ローブを纏った手段が衝撃を完全に殺しきり、着地している姿が見えた。
唐突な襲撃。
だがしかし、それに対する対応な余りに迅速で幹部連中は即座に得物を構え、何時でも戦闘に移れるように構えを整える。
――不意に、一りのローブがこちらへ進み来る。
ゆらゆらと、幽鬼のような足取りで、こちらへ足を進める黒ローブを俺たちは剣吞な視線で射抜く。
そして、こちらへ歩み寄った黒ローブはその輪郭を隠していたフードを外した。
鮮やかな紫紺の髪、鋭い琥珀色の瞳を細めるその姿は間違いなく――、
「――ヨ、セル……?」




