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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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未開の地


 ゲネルが爆死しました












 瞬間、世界は切り替わる。


「……はっ?」


 転げ落ちた俺は呆然とそう呟いた。


 ちょっと何が起きているのか分かりませんね。

 見渡してみると、そこに荒々しいブロックなんて一つもなく、ただ地平線までひたすら草原が広がっていた。

 嫌な予感しかしないんだが……


 というか、なんかデジャブを感じる。

 これが気のせいであって欲しい。


「強制転移か……? だが、座標が全然違うぞ?」


「……情報が少なすぎるな」


 確かに、これだけで全てを理解するのはどんな名探偵でも到底不可能だろう。

 まずは情報収集、か。

 安易にあの部屋の入ってしまったのは失策だったか。

 きっとこの展開は神ですら予測できなかったであろう。


 だからこそ、責めないで欲しい。

 俺だって故意でやった訳じゃないのだ。

 そもそも、あんなモノをダンジョンに置いた奴が悪いのだ。

 だからガイアスさん、そんな氷点下の如き冷たい目で俺を見ないでください。


 心が痛いから。


「はぁ……。 ここは俺ですら知りえない未開の地。 慎重に物事を進めろ。 ……分かったか、アキラ」


「……ハイ」


 俺のあの安易な判断がこのような事態を巻き起こしてしまったのだ。


 とてもじゃないが拒否できる状況ではない。

 それに、慎重という意見には俺も賛成だ。

 こういう想定外のアクシデントが起こった時、人は大抵慌て、そしてどうしようもない大惨事へと発展させていく。


 故に、常に冷静さを保たなければならないのだ。

 うん、よく理解しているよ。

 だからさぁ、もうそんな眼差しで俺を見るのは止めよう?

 

 俺は強引にガイアスの視線から避け、思いっきり立ち上がる。

 

「……ん? なんだあの山?」


 起き上がって背丈が大幅に上昇したからか、先程まで見えなかった景色が鮮明に見えるようになっていた。

 俺から見て東に富士山ですら匹敵する程の大山があった。

 

「……? 魔力?」


 不思議なことに、その山からは微かな魔力が漂っていた。

 基本、魔力の残滓は魔法を使用した際に周囲に薄く拡散される。

 この魔力はその残滓と同じ類のモノだ。

 だが、それにしては魔力が大きいような……。


 それはあくまで、初級中の初級である(火玉〉にすら満たない魔力量だ。

 だが、それでもやはり通常の残滓とはどこか隔絶している。

 この差は一体何なのか……


「……成程」


「ん? なんか分かったのかガイアス?」


「確かに分かった。 だが教えないぞ。 悪巧みが大好きなお前のことだ。 どうせ悪用でもするのだろう」


「誰がバイキ〇マンだ!」


「それ子悪党の代名詞だろ」


「……そうともいう」


 なんだかちょっとショックだ。 

 さすがに、もうちょっと褒めて欲しいと思わなくもない。

 まぁ心にもない称賛はそれはそれで嫌いなんだけどな。

 

 結局、どれだけ強請ってもガイアスがあの山について何かを語ることはなかった。

 情報収集なら後ででも十分できると自分に言い聞かせ、俺たちは例の山の反対方向へ進むことにする。


「……魔獣、居ないね」


 見渡す限り、モンスターどころか俺たち以外まったく生物反応が無い。

 しかし、そんな俺をガイアスは冷たく見つめる。


「……そう思えるのも、今のうちだぞ」


「どういう意味だコラぁ」


「…………」


「ねぇちょっと黙らないでくれない!? 不安になっちゃうでしょ!」


 何故か意味深な言葉を言い残して沈黙を続けるガイアス。

 無茶苦茶不吉なんですけど。 

 かつて未だ、ここまで不穏を招く言葉があっただろうか。

 否、否である。


 こ、これが放置プレイ……!

 ゾクゾクしちゃってる俺はおかしいのだろうか……


「……ッ!」

 

 不意に、俺が常時使用している気配探査機に反応が。

 気配からして、おそらく魔獣か。

 どうやらこの平和そうな高原にもしっかりと魔獣は存在するらしい。


「分かっているな?」


「当然」

 

 気配の大きさは基本的にその主の強さに比例している。

 例えばスライムの気配は真正面に居てもほとんど探知機が反応しないほど近く、逆にガイアスなどの規格外な連中と相対した場合、稀に探知機がその負荷に耐えきれずに崩れ去る、なんていう現象も発生したりする。


 今回の場合、甘めに見てオーガ、過小評価するとゴブリン程度。

 遺跡に住み着いた魔獣たちにすら及ばない強さだ。

 

 現在、俺はルインの計らいによって、システムからほとんど関係が切られている。

 当然、ステータスも一般人レベルだ。

 だが、それでも自身を強化する術がない、という訳ではない。


 例えば、魔力による身体強化。


 これはガイアス曰く「できて当たり前」らしく、魔術なんて概念をほとんど知らなかった俺ですら簡単にできた方法だ。

 基本、魔力を込めれば込める程筋肉が魔力によって強化され、より致命傷へと導く一撃を繰り出せるようになる。

 

 今ではもう既にシステムに頼っていた時よりも十分強くなったという自負がある。

 ちなみに、俺自身のシステムへの繋がりが切断されたとはいえ、持っている所持品までもがガラクタへ成り果てることは無かった。

 

 『神威』とやらにも、なんらかの縛りがあるのか、それとも単に、ルインが見落としていたのか……

 それはルインと再会でもした時に聞くか。


「えいっ」


 足元に魔力を込め、超速で魔獣へ接近。

 そして指先一点に魔力を集中させ、衝撃と共にそれを解き放つ。

 デコピンで脳内を砕かれた魔獣は断末魔すら許されず、力なく崩れ落ちた。


 ……ん?

 なんだ、この妙な気配は。

 生物……ではない。

 気配が皆無なように見えて、魔力の残影が残っているから俺でもハッキリと読み取ることができた。


「……死霊魔術か?」


 と、困惑している俺へ、その気配の主――やけに生々しい目玉は、


「先輩、なにしてくれるですか!」


 と、至極当然のように俺へ会話を試みたのだった。


 その澄んだ声音が耳元に滑り込み、そしてそれが意味するモノを咀嚼した俺は満面の笑みで一言。


「人違いです」


「嘘だァ!!」


 甲高い声音が高原に響き渡ったのだった。




 余談ですが、普通魔力操作による身体許可は良くて二か月で習得できる類の技術です。

 ガイアスなどの規格外メンツから見たら簡単に思えますが、それでも昔の人達はこれを扱うのに相当苦労していました。


 アキラさんがこれを簡単に使えたのは圧倒的な魔術への才能と、神獣の器という特殊な立ち位置だったという二つの理由故です。

 

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