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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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蒼の悪夢


 イブさんの歌存外作業用BGMとして優秀なんだと再認識

 でもMVに可憐でいたいけない幼女登場させて欲しかったです

 














 魔術において、最も重要な要因はイメージ。


 例えその術師自身の技巧が稚拙な品物であろうとも、想像力旺盛であれば大体の事象は巻き起こすことが可能だ。

 想起という作業は魔術の極地『天魔術式』に到達した『神獣』も使用しているらしく、その有用性は疑うまでもない。


 水。

 水と言っても一言で表すことは困難で、その概念から派生する新たな概念は、この世の中に幾らでも存在する。


 そのどれもが正解であり、不正解。

 イメージに明瞭な定石など存在しないが故にそれなりに困難な作業だが、慣れてしまえばそれほど苦ではない。


 そして、想起するのは太陽が燦然と輝き波打つ、どこまでも水平線が広がっていたあの時眺めた海だ。

 そうして想像された光景は掌を起点として現世に干渉し――直後、下らない幻想が現実と変貌を遂げることとなる。


「術式改変――『蒼ノ水平線』」


「――――」


 俺という魔力源を中心に放射状に大質量の大波が宙を思う存分舞い、そして重力に従いリヴァイアサンの岩肌を削り取る。

 やがて俺の着地と共に無尽蔵の魔力を喰い尽くし、それでも足りないとばかりに溢れ出す水流の勢いは強まるばかり。


「お前、何をしたッ!」


「さぁな、自分で考えてみろよ、『英雄』ッ‼」


 傷口を氷結させることによっていささか強引な気がするが止血を済ませ、勢いよく鉄塔を大空から投げ捨てる。


「……自ら得物を捨て去るとは、随分と余裕なこったぁ」


「実際余裕綽々だからな」


「――――」


 えらくプライドを傷つけられたからなのか鳥肌が立つような凄まじい殺気と怒気を放つレギウルス。

 そんなレギウルスを落ち着けようと相棒であるメイルは声を張り上げる。


「レギ、一旦落ち着くのだ! 相手はレギの猛攻で満身創痍なのだ! 焦らなければ容易に勝てる相手だぞ!」


「……すまん」


「いい彼女を持ったもんだな。 爆発すればいいのに」


「ハッ。 彼女なんていう関係じゃねぇぞ」


「おやおや、強情だな」


「――――」


 一瞬怒髪冠を衝きそうになるが、先程のメイルの助言と忠告を思い出したのかすぐさま雑念を振り払い、構える。

 俺は流れる水流をすくい、虚空に彷徨わせやがてその水流は一本の鋭利な刀へと形作られることとなる。


 そして刃を形成した水流を一瞬で氷結させる。

 強度はたかが知れているが、まぁそれでも破損したらされたらで適当に修復しておけばいいだけの話である。


 『術式改変』にまで到達した今、この程度の芸当文字通り朝飯前である。


「……隠してったワケじゃねぇよな」


「礼を言うぞ、レギウルス。 お前のおかげで俺はまだ強くなれそうだ」


「ハッ。 残念ながら今日がお前の命日だぞ」


「言ってろ」


 不敵な笑みを浮かべ、紅血刀を構えるレギウルスを見据えながら、俺は中指を立てて、啖呵を切る。


「殺して、喰らい尽くす」


「――蒼に染めてやんよ」
















 初撃は、レギウルスが倒れ込むような動作で投擲した鋭利な短刀であった。

 首筋の頸動脈を引き千切ろうと放たれた短刀は明らかに様子見の意図が込められているが、それで手加減されているわけではない。

 弾丸を彷彿とさせる速力で放たれた短刀の初速は音速さえも上回っているだろう。


 だが――遅い。


「ふんっ」


「――――」


 踏み込み、それと共に強く握った氷結剣を、横薙ぎに迫りくる短刀を切り裂いてしまおうと振るう。

 心地のいい音と共に、一瞬で氷結剣が砕け散る。

 だがしかし、この程度何の障害にもならない。


 氷結剣が砕け散った瞬間、虚空を舞い踊った水滴を、即座に氷結させ、再度刃を形を形成していく。

 ちなみに、破砕していった氷結剣は俺が直接修復しているわけではなく、単純に破損すれば自動で再生されるような魔術を編みこんでいる。


 何度も何度も砕け散り、そしてその度に修復される度に短刀をチェーンソーのよう刻み込み――そして、ついに短刀が金属音を奏で、砕けた。


「……妙な剣だな、ソレ」


「考察はどうぞご自由に、っと」


 そして俺は、短刀を迎撃する直前から想起し編みこんでいった術式を解放する。


「――『蒼乱』」


「――――」


 魔力消費の観点から吐き出された後あえて接続を切っていた幾多ものの水流を、一度に集結させる。

 空中に浮遊する海流の産物の物量は凄まじく、それこそ東京程度の土地なら容易に呑み込んでしまいそうだ。


「さて……洗濯機の気持ち、味わってみたいと思わない?」


「遠慮しておきたいってのが本音だな」


 その異様に冷や汗を流しながら戦慄するレギウルスが頬を引き攣らせながら、そう苦し紛れに答える。

 そんな素直になれないレギウルス君へ、俺は笑顔を見せる。


「いやいや、遠慮なんてせずにあの時みたいに自分の欲望に忠実に従いまたまえ。 でも安心して! そういうお年頃だからガールフレンドに趣味を露見されたくないんでしょ? 大丈夫! 分かってるから!」


「全然分かってねぇよ!」


「それじゃあ――吞みこめ」


「クソっ――」


 轟音。

 

 重厚な質量の塊は、落下する瞬間凄まじい水飛沫と衝撃をリヴァイアサンに響かせながら、レギウルスへと迫る。

 だがもちろん、この程度の脅威ある程度の重傷を与えることはできるだろうが、それでも致命傷には程遠い。

 

 だから――、


「あっ、がぁっ」


「アキラさんからの心遣いです♡ 存分に楽しんでね」


「テメェっ」

 

 凄まじい物量の化身と衝突し、その直後レギウルスの体中の至る所から血飛沫が舞い上がることとなった。

 

 原理は単純。


 実を言うと、波打つ水流の中にちょこちょこと氷結し常に回転する鋭利な刃を忍び込ませていたのだ。

 流石に人間には散らばった破片の一つ一つを視認することなんて到底不可能なのである。

 そして同時に鋭利な刃が入り混じったこの水流の一切合切を躱すのもクソゲー。


 つまること――、


「お前の血液のストックが尽きるか、俺の魔力が先に尽きるか、比べっこだな。 ――精々頑張れ、『英雄』さんよぉ」


「クソがぁッッ‼」


 レギウルスの負け犬的な遠吠えと共に、波打つ水流はその巨躯を切り刻みながらも世界を吞みこんでいった。




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