ユメクイ
元ネタはまふまふさんのあの楽曲です
サビの部分、マジ好き それとイラストの幼女も!
突如として現れた気配。
それに反応し、最高峰の斬撃と咄嗟に放つレギウルスは十分以上に一人の戦士として優秀だと言えるだろう。
だが――今は、その優麗さが仇となる。
「――ッ!?」
「ハッ」
振り返りざまに横薙ぎ一閃を繰り出すレギウルスがその瞳をわなわなと大きく見開く光景がよく見える。
何故レギウルスがこうも驚嘆しているのか。
その理由は、先刻己の背中を切り刻んだ刃の所持者が刃を振りかぶったその空間に存在していなかったからだ。
咄嗟に上空を確認するが、もちろん無人。
そして『夢』へと意識を傾けた代償は、死神が強引に取り立てることとなる。
「さて――そろそろその辛辣な評価、改めてもらおうか」
「――ッ!」
肉薄し、鋭利な刃を振ろうとする俺に気が付く、迎撃にと視認することさえ叶わない速度で振り払うが――一歩、遅い。
「ハァッ!」
「ぐっ……!」
レギウルスの間合いへ潜り込み――無防備な心臓へ、刺突を。
心臓が鋭利な切っ先によって弄ばれ、そのショックにレギウルスは口元から盛大に吐血することとなる。
俺は突き刺した『夢喰』を強引に引き抜き、その拍子に心臓から噴水のように鮮血が溢れだし頬を湿らす。
だがしかし、追撃しようとした俺の切っ先は無造作に、それでいいぇ流れる水の如き鮮やかさを以て放たれた斬撃が制す。
「お前……何をしやがった?」
「それを教えるとおもうか? まぁ脳まで筋肉で構成されちまった脳筋にはちょっと難し過ぎたかなぁ?」
「――ッ!」
「おいおい、憤慨が軌跡に現れているぞ」
俺の挑発にレギウルスの堪忍袋の緒が切れ、激昂した彼は絶え間の無い猛攻を無慈悲に繰り出した。
だが、どうもその軌跡には焦燥に似た感情が体現されており、どうも精彩を欠いているようというのが俺の評価だ。
本調子じゃない『英雄』の猛攻なんて誰が喰らうかよ。
「ほっ。 んっ」
「クソっ、ちょこまかと……!」
さっきの攻防でレギウルスの実力が隔絶したモノであることは痛い程否応なしに理解することができた。
そして、レギウルスが気分でその手腕が左右されることも。
挑発して、混乱して、焦燥されれば本調子には程遠くなっていくよな?
我ながら小物臭いが、まあそれでも勝てるなら万々歳。
強烈な刺突によって深々と刻み込まれた傷跡を紅血刀で治癒しながらも、レギウルスは再度精彩を欠いた動きで――、
「レギ、落ち着くのだ!」
「――――」
外野から投げ入れられた野次、というか忠告に一瞬レギウルスの体が硬直。
「――仰せのまに」
直後、レギウルスはバッタを思わせる大仰な動作で初めて後退、絶え間の無い猛攻を放ったせいで乱れた息を整える。
そんな予想外な展開に俺は眉を顰める。
「チッ。 余計なことを」
「これくらい、幼馴染として当然なのだ」
「あ”? リア充かよ爆発しろよ」
誇らしげに胸を張るメイルの瞳には明らかに親愛以外の感情が混じっており、それに妬心が爆発しそうになる。
そう、なんだかんだいって俺は未だ沙織に振り向いてさえもしてくれないというのが悲しい現状なのである。
つまること、リア充への憎悪はそれなりで。
「――爆発させてやんよ、『英雄』ッ!」
「ハッ。 ロリコンが何言ってんだよ」
お互い不敵な笑みを浮かべ、再度刃を交えっていった。
「ハァッ!」
「――――」
首元、心臓、ついでとばかりに肝臓へと刺突が繰り出される。
放たれた刺突のうち一つが急に軌道を変更し、横薙ぎ一閃を喰らわそうとする。
足元に魔力を集中さえ脚力を強化しながら 後退し、しかしながら毎度のことレギウルスは開いた距離の分だけ距離を縮めてくる。
それはまるで鏡でも見ているかのようだった。
「ったく、本当に厄介だなぁ!」
「お前もなっ!」
至近距離からの水滴弾丸を発射する。
炸裂音と代わりに金属同士が奏で合う金属音がリヴァイアサンの戦場に響き渡る。
レギウルスは肝臓目掛けて放たれた水弾を巧みな技巧で蹴り上げ、まるでサッカーのように跳ね代えす。
想像を絶する速力で放たれた水弾の制御を即座に解くが、それでも水滴程度の質量が凄まじい速度によって散弾と化す。
(クソッ、余計なことやっちまった!)
これらに一切合切を見切るのは到底不可能。
ならばと瓢箪にストックした幾多もの水をぶちまけ、それがリヴァイアサンの肌を汚す寸前、温度を操作し氷結させる。
氷盾は軋みこそしたものの、何とか散弾の被害から免れることができた。
「超次元サッカーかよ!?」
「なんだ、さっかーって」
「あっ、そういうばこの世界サッカーっていう概念存在しなかったな!」
そもそもこのご時世。
サッカーなんていう遊戯、戦時中のこのタイミングに流行っていたら、それはそれで大問題だろう。
……さて。
「今更だけどお前、強いな」
「ハッ。 命乞いでもする気か?」
「しねぇしやりたくねぇしそもそもする必要性はねぇよ。 まぁ――そろそろ、ギアーを上げようって話」
「――――」
俺は明後日の虚空へと連撃を繰り出す。
閃いた刃はその距離感覚を完全に無視して、レギウルスの胴体、肝臓、足元を切り刻んでいく。
「――『ユメクイ』」
「くっ……! またか!」
不可思議な斬撃に瞠目するレギウルスだったが、どうやら未だそのカラクリがつかめていないらしい――、
「まぁ、一つ分かったこともあるけどな」
「――――」
「現れた刀身、鮮やかな紫紺だった」
「――――」
「無言は、肯定と受け取るぞ」
(チッ。 流石『英雄』、もう気が付きやがったか)
あんまり長続きしない小手先技とは解釈していたが、にしてもこうも容易に見破られるとは思ってもいなかった。
だが、ここで怖気づくわけにはいかない。
「――喰らうぞ、お前の『夢』」
「ハッ。 やってみろよ」
そして再度、紫紺の刀身と深紅の双剣が交差する――




