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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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猛攻


 れをるさんの歌って何気に作業効率上がるんですよね。

 やっぱりあの唯一無二の美声は良いわ。














「――ッッ」


 直線、と見せかけて衝突の寸前、反転。


 バックステップし一瞬の時間差をおいてレギウルスへと再度その紫紺に塗り固めれた刀身を振るう。

 リヴァイアサンが呻くほどの勢いで踏み込み、その瞬間柔らかな関節を駆使して姿勢を野生獣のように低くする。


 狙うは回避が掃討に困難な足首。

 足元目掛けて抜刀された刀身は狙い違わず――。


「ふんっ」


「チッ」


 その足首を両断する寸前、何の前触れもなく深紅の刀身が割り込む。


 まるで流れる水の如き鮮やかさを以て振るわれた紅血刀は容易く俺の『夢喰』を食い止めていった。

 

(防がれた……やっぱ双剣って厄介だな)


 レギウルスの得物は、リーチが欠けているという代償に、片手剣とは一線を画す手数が売りなのだ。

 しかもマグレで一太刀刻むことができても紅血刀に付与された魔術で一瞬で回復されるんだよな……


 本当に、つくづく厄介な男であり。


「――――」


「ハッ」


 流石にこれ以上距離を詰めるのは得策じゃないな。


 そう判断し、バックステップして後退する俺を、レギウルスは白けた表情をし、鼻で嗤っていった。

 そんな些細な挑発にも気にせず、即座に魔法陣を練り上げる。

 

「――蒼海乱式・【蒼氷】ッ」


「――――」


 それなりの至近距離で放たれた巨大な氷の刃は勢いよくレギウルスを吹き飛ばす。

 だがしかし、レギウルスはインパクトの直前紅血刀で防御することによってどうやら直撃は避けたようだ。


 喰らっても意味ない癖にそもそも喰らう確率極端に低いとかクソゲーすぎるだろ、と嘆く暇すらない。


「――刻んでやろうか」


「――――」


 魔術構築直後故に生じた硬直の隙をついて、レギウルスはどこから盗りだしたのか鋭利な短刀を投擲する。

 直線上に放たれていった短刀はまるで野球のように軌道が強引に変更される。

 野球かよ! と叫びたくなるのを何とか堪え、最小限の動きでそれを躱す。


「終わりじゃ、ねぇぞ!」


 そして、次の瞬間視認することさえ困難な猛攻が繰り出された。




















「ったく、面倒なっ」


 一瞬で氷槍により空いた距離を跳躍し、俺へと肉薄するレギウルスは無造作にその首筋へと深紅の刀身を振るう。


 水流のクッションはおそらく容易に消し飛ぶだろう。

 ならば――、


「んっ」


「――――」

 

 最小限の動作でレギウルスの投擲を躱したおかげで姿勢はかつてないほど整えてある。

 背後に水弾を展開しながらも、迫りくる鋭利な刀身を防ぐ。


「お前、強いな」


「そいつはどうもっ」


 横薙ぎ一閃と同時、ではなく一拍程度の時間差で両側から挟み込むように殺傷能力の高い攻撃を放つ。

 だがしかし、レギウルスは背中に目でもあるのか背後へ紅血刀を振るい、肉薄する弾丸を切り刻んだ。


 俺が振るった横薙ぎの斬撃は、レギウルスがその巨体に似合わず軽々と跳躍、そして鋭利な刀身を回避。

 そのまま回転し遠心力を上乗せした強烈な一撃をお見舞いした。


「――ッッ」


「本当なら、もうこの時点で膝を屈する奴が大半なんだぞ。 案外やるな、お前」


「その評価は嬉しいなー。 なら手を抜いて欲しいよ!」


「そいつは退屈だから断らせてもらうぜ」


 その一撃を後退ではなく前進することによって躱し、無防備な背後へ一文字を刻み込もうと踏み込む。

 それをレギウルスは、軽くあしらうようにそれを、左腕に握られた紅血刀で防ぐのではなく、流す。


 そして台風のように振り返ったレギウルスはその勢いを減衰させることなどなく、激烈な一撃を繰り出した。

 振るわれた一閃はおぞましい程の修練の賜物などかどこまでも洗練されており、場違いながらも美しいと思えてしまった。


 まぁ、こんなタイミングで見惚れるわけにはいかないよね。


「ハァッッ‼」


「ほう」


 秒にも満たない超短時間で幾筋ものの軌跡を虚空に刻み込んだレギウルスの斬撃を俺は必死に食い止める。

 流す余裕もなく、一進一退しながらも何とかその刃が肌に深々と刻み込まれることだけは回避した。

 

 だが――、


「それで、全力か?」


「――っ」

 

 瞬間、レギウルスのギアーが一段階上がる。


 凄まじい猛攻の中に強烈な蹴撃も追加され、レギウルスは恐ろしい手数を以て俺を窮地へと立たせる。

 

(クソっ、こいつ格闘技まで習得していやがるのか!?)


 レギウルスの蹴りはどこまでも洗練されており、それが付け焼刃などではないことは火を見るより明らか。

 付け焼刃レベルならまだ救いはあったが、こりゃあ明らかに相当な月日を武道に費やしていやがる!


 肝臓目掛けて放たれる刺突と氷弾で軌道を逸らし、紙一重のところでその刃が俺へと届くことはなかった。

 だがそれは、百あるうちの一つを片付けただけで、水面を殴りつけるような不毛さに、気が滅入る。


「おいおい、そんなもんか!?」


「――――」


「口をつぐんでないでさっさと答えろよ、スズシロッッ‼」


「うっさ」


 戦闘中は静かにしろよ、と叫びたくなるのを何とか堪え、これでは相当不利だと悟り、後退するが――、


「またお前はそうやって逃げるのか!」


「朝ドラじゃねぇんだよ!」


 その立場でそんな爽やかなな言葉を吐くなよ!


 レギウルスは後退する俺を得体の知れない動きで追尾、猛攻は減衰という概念を知らず、どこまでも高まっていく。

 竜巻の中心にでも侵入したように絶え間の無い猛攻が無作為に、それでいて驚くほど洗練されて繰り出される。


 この状況が続けばいずれ切り刻まれるのは明らかに俺。


 ならば、状況を強引にまで動かさないといけないな。


「――?」


 不意に、俺はレギウルスとは大きくそれた虚空を全身全霊の活力と魔力を込めて紫苑の刀身を振るう。

 そして――、


「なっ――」


 刹那、レギウルスの背後から血飛沫が吹き上がった。




 


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