結ばれた約定
「――断る」
「――――」
つい先程俺に決闘を申し込まれた大男――レギウルス・メイカはこいつマジで何言ってやがるんだよ的な眼差しを向けてくる。
うん、説明不足だったようだ(涙目)。
伝わらない、この思い。
「だから言ったろ。 賭けだよ賭け」
「賭け……決闘とやらのことか」
「そういうこと。 理解できた?」
「ハッ。 疑問もクソもあるかよ。 んなことして一体全体何の意味がある? 何もねけだろうがぁ」
「――――」
確かに、前提知識がそれだけならそういう反応になるよね!
でも俺だって豆腐メンタルなんだから、そこまでボロクソ言われると頬に水滴が浮かんでしまうだろう。
「いいか? 賭けってのは両者一定のリスクの上で、それ相応の利益がある場合にのに成立されるんだよ」
「ならその利益ってのはどうなんだよ?」
「もし俺がお前に負ければ、この船の占領は解かれる手筈になってるし、自分のことはどうしたっていいぞ。 奴隷にでも使えば?」
「いらん」
涙が零れてきそうだ。
「あぁ、それとついでに亜人国を覆っている結界も俺が消してやろう。 アレはそういう仕組みになってるからな」
「そんなの実行する保証が――」
「この世界のルール、忘れたの?」
「――――」
この不可思議な世界はシステムによって支配され、そのシステムは住まう人々にある『規則』を課している。
世界観によって色々と異なっているが、少なくともこの世界の『規則』は「約束を破れないこと」。
一応破ること自体は可能だが発狂して死ぬらしい。
「この世界においての『約束』は、正直者嘘つき問わずにありとあらゆる人々を戒める。 ここまで言われて、まだ分からないか」
「――面白い。 その無謀な決闘、受けてたとう」
「ちょっと、レギっ!」
出そろった前提条件を考慮し、受けた方が己へ利益がより生じると悟ったのかレギウルスは鷹揚に頷きながら了承の意を示す。
そんな無鉄砲なレギウルスの決断を咄嗟に咎めるメイル。
もちろん、脳筋なレギウルスだって考えなしに頷いたワケがない。
「安心しろ。 ――俺が負けると思うか?」
「――――」
不敵に微笑みレギウルスからは途方もない頼もしさを感じられる。
そう、そもそもの話『傲慢の英雄』ことレギウルス・メイカは直接勝負に関しては恐ろしい実力を発揮する。
そして彼の戦績に黒星がついたことは一度たりともない。
だからこそ誰もがレギウルスが負けるわけがないという先入観をもち、事実それはあながち間違っていない。
負け惜しみみたいだが、俺が魔術を解放すればレギウルス程度容易に消去することは可能だが、それは余りにも愚策。
「不殺」なんていう面倒極まりない縛りで、果たして俺はレギウルスを打ち倒すことができるのだろうかと不安にもなる。
だが――、
「んなの今更だ」
どうせこれからもレギウルスを遥かに超越した連中を相手にすることになるんだ。
ならば――この程度、ウォーミングアップですらないね。
――そして、スズシロ・アキラとレギウルス・メイカをチップにして世界の命運を大きく左右する大博打が今、始まる。
『えー、改めて決闘のルールの確認を。 対戦者の殺害は全面的に禁じ、それを破った者は例外なく発狂して死に狂うわ。 もちろん、お兄ちゃんがそうなったら私が世界滅ぼすんだけど』
「……好まれているな」
「いい妹だろ」
響くアナウンスに、複雑な表情をする俺を、どこか憐れむような眼差しで見つめるレギウルスさん。
同情するなら真面な愛をくれ。
『それと、武器の使用は無制限よ。 相手が死ななければどんな武具も容認するわ。 まぁ、それでお兄ちゃんを傷つけたら殺すけど』
人と魔人族が手を取り合う未来は永遠に訪れないのかもしれない。
『その他の細かい規則は面倒くさいから割愛するわ』
「適当だな」
「適当なのだ」
妹の株が暴落するばかりだ。
懐から――正確にはアイテムボックスから愛刀の代用品を取り出しながら俺は渋い顔でそう思案する。
アイテムボックスから出てきたのは、夢のように鮮やかな紫紺の刀身の片手剣サイズの太刀である。
これは別にメイドインルシファルスじゃないが、それでもそれなり強力な魔術が付与されている品物だ。
まぁ、レギウルスとの剣劇で刃先が崩れるなんていう不始末は起こさない程度の品質は保証しよう。
『じゃあ――「約定」を』
「――――」
ちなみに、魔術師故にシステムが適用されない俺のために『誓約』の魔術を扱っているが、ぶっちゃけどうでもいい。
どうも「約定」ってのは妙な感覚で、一瞬脳内を無断で盗みられたような不快感が俺を苛んでいった。
だがそれも一瞬のことで、今や完全に元通り。
『約定は果たされたわ。 後は勝手に喧嘩することね』
「喧嘩なんて生易しいモノじゃないんだけどな……」
「……お前も、少し可哀想だな」
「……うん」
ついに同情の意思を明確に示されてちょっとショボンとする。
「――さて」
「――――」
不意に、空気が張り詰められる。
俺は腰に下げた『夢喰』の柄を力強く握り、重心を落とし抜刀の構えをとる。
それに呼応してレギウルスは鞘から深紅の刀身を晒し、手慣れた手つきでそれを無造作に振る舞わす。
ちなみに俺はレギウルスと違ってちゃんとウォーミングアップは済ませてある。
そんな俺たちを傍観という形で見守る幹部ピーポーは、信頼をレギウルスへ、敵意を俺へ向けていく。
『それではお兄ちゃんことスズシロ・アキラによる世紀の大博打』
「――――」
足元に魔力を集中させ、直線勝負となる上で重要な要因となる脚力へ際限なく莫大な力が宿っていく。
目を鋭く細め――、
『――スタートなのよ』
「――ッッ」
そして、ライムちゃんの掛け声と共に一陣の疾風となった俺たちは猛然と衝突していった。
ツインテール幼女か無口系幼女
あぁ……ヤバい、どれも尊過ぎるんですけど(≧∇≦)




