極光
最近ちょっと莉犬くんがマイブームです
可愛いと格好いいの両立とか神かよ。
でもマイエンジェルはまふまふさん一択です! \(^_^)/
――刹那、上がった帳が一国を覆い尽くす。
大樹を中心として周囲に解放された暗黒は瞬く間に亜人国を呑みつくし、そしてそれは外界の一切合切を遮断する障壁となる。
暗黒に呑み込まれていった亜人国を、愕然とした眼差しで絶句するメイルたちへ、俺は笑いかける。
「これは、『老龍』と同種の……」
「『大祓詞』。 言っとくけど、これ手に入れるのに相当神経擦り減らしたからな?」
「――――」
――『大祓詞』
それはヴィルスト・ルシファルスが娘へせめてもの自衛用にと『付与』した魔術の総称なのである。
そして、あのアーティファクトに付与されたのは『大祓詞』の中でも、封印に特化した『封』なのである。
本来の用途は『老龍』をそうしたように扱いきれない強大な敵の再起の機会を奪い去るためである。
そしてその対象は――無制限。
ついでに補足すると、『封』によって溢れ出した戒めは内からも外からも破ることは、到底不可能。
つまり、巧く利用すれば本来圧倒的強者を永久に戒めるその鎖は不動の結界と変貌を遂げることとなる。
「理解、したかな?」
「……あぁ。 否応なしにな」
「それはなによりだ」
「ハッ」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるレギウルスを愉快そうに嘲弄する。
こいつらも『大祓詞』の名前こそ知らないだろうが、その凄まじい気配と魔力で大抵の奴は察することができるだろう。
『大祓詞』で封印したモノは外界の影響の一切合切を拒み、そしてそれは容易に叶うこととなってしまう。
だが――、
「ハッハッハ――馬鹿にするなよ」
「――――」
つい先程まで苦々しい表情をしていたレギウルスは、ふと何かに気が付くと俺を嘲笑うように薄く嗤う。
まぁ、流石に気が付くよな。
「確かに、アレは俺たちじゃ傷つけることはできねぇ。 だが、それでも十分だろ。 なんせ、アレたしか外界の刺激を受け付けないんだろ? それなら、王国との貿易なんて、到底不可能だろうなぁ? 数年後王国は干からびているだろうな。 もちろん、魔人国は栄光を築き上げているだろうさ」
「アッハッハ。 果たして、そうかな?」
「――?」
確かに、これでは彼の仰る通り魔人族たちの本来の目的が方法こそ異なるが、それでも叶ってしまったことになる。
だが――彼らは舐めすぎている、稀代の魔術師の実力を。
「どうでもいいけど、これを生成した製作者は自分のことをよく口癖のように『強欲』だって言ってたよ」
「それがどうした――」
「――俺も今、本当にそう思う」
そして、亜人国を覆い尽くしていた帳が、一瞬陽光のような、煌びやかな光が溢れ出した気がした。
「――今だ、レアスト」
直後、『龍』すらも葬る大矢が、帳から飛翔し、目が焼失してしまう程の眩しい極光を纏いながらレギウルスへと飛翔していった。
おそらく、山勘が溢れださんばかりの殺意に呼応したのだろう。
予備動作ともいうべき煌きを視認した瞬間、レギウルスは血相を変え佇み幹部たちを通り抜け、更に装備した紅血刀を抜刀する。
そしてその外見に反した軽やかな動きで跳躍、アーティファクトを駆使して虚空に足場を生成し、それを踏み砕く。
何重にも重ねなければ耐えることは困難な程の踏み込みと裂帛の気合と共に、深紅の刀身が無造作に振るわれた。
「――ッッ」
放たれた大矢は狙い違わず自ら肉薄するレギウルスへ――正確には、彼が握る紅血刀に接触し、けたましい金属音を奏で合った。
鼓膜がいつ破れても可笑しくはない甲高い破砕音と共に、振るわれる紅の刀身は一瞬の抵抗の後猛然と迫りくる大矢を切り刻んでいった。
分断された大矢は二方向に散弾のように無作為に放たれ、無慈悲にもリヴァイアサンの背中へと深々と突き刺さる。
「――――!」
形容し難い方向が大空に響き渡った。
「今のは――」
「見ての通り。 これで分からなかったら心底ガッカリだよ」
「――――」
緊急事態に瞠目するメイルへ、俺は挑発でもするように語り掛ける。
それに一瞬猛烈な殺気を放ったメイルだったが、それよりも先刻の極光の解析が最優先だと理解したのか熟考する。
大矢が放たれる直前、亜人国の――もっと限定すると、大樹が一瞬煌いた光景はメイルも視認しているはず。
そして、大矢の進行方向から察することができる発射地点は――、
「――亜人国?」
「ビンゴっ! よくできました!」
「……有り得ない。 封印されているのならば――」
己の結論に唖然とするメイルをしたり顔で眺めてみる。
そう、先刻の大矢は遠距離射撃の申し子、長耳族の長でありホモ疑惑も健在なレアストくんが放ったモノだ。
つまり――、
「内側からの干渉は、可能?」
「そういうこと! ちょっと面倒な貿易になりそうだけど、ちゃんと金品は先にガバルドが渡してくれたよ」
「――――」
そう、あの不動の結界は、実を言うと内側からは幾らでも外界に干渉することが容易となる特別性なのだ。
本来ならば、一つのアーティファクトに付与可能な魔術は一種のみ。
だが、アレを付与したのは一体全体誰だと心得ている?
かつて王国を創立した立役者の一人である『四血族』の一角の当主であり、間違いなくこの世界で最高峰の魔術師だぞ?
魔術の複数付与なんぞ、彼にとっては朝飯前ですらない。
貿易の件については、ガバルドが既に手をまわしている。
アレを展開すると王国からの干渉は不可能になるので、こうして先にガバルドは数年分の貿易において必須となる金銀財宝をレアストへ支払ったのだ。
ガバルドがこれまで『英雄』として稼いできた金品はあまりに膨大で、彼自身も使い余していたらしい。
ちなみに、失ったガバルドの財産を返済するのはもちろん俺である。
それを考慮するとちょっと現実逃避したくなるな……
「さて――状況は否応なしに理解したようだな」
「――――」
「――それじゃあ、お互いのためにもう一度話し合おうか」
苦虫を噛み潰したような苦々しい表情をするメイルへ、俺はそうしたり顔で宣言していったのだった。
アアアアアアアアアアアアアッッ!!!???
消し飛んだ! 書いてたデータ消し飛んだ!




