現状確認
やる夫ベジータ何度見ても変態ですよね
アレを作った人って絶対天才でしょ
「なっ――」
意味が、分からない。
そもそもの話、ここは地上が霞んで見える遥か彼方。
しかもジェット機ですら見劣ってしまう凄まじい速度で今もなおリヴァイアサンは悠々と飛翔している。
このリヴァイアサンはある種の密室。
占領など、到底不可能だった。
ならば――、
「裏切者……?」
「うむ、私も同じ結論なのだ」
外部からの侵入は不可能。
しかし、つい先程高く澄んだ聞き慣れない少年の声がこのログハウスにまで響き渡ったのは確かな事実。
つまり、この状況下でハイジャックが可能なのは身内しかいない。
「だが、誰が……」
「……今は、放送を聞くのだ」
異常事態の詳細が未だ不明慮故に、無策に行動を起こすのは余りにも愚かな行為だと厳しい視線で早まろうとするレギウルスに告げる。
レギウルスは「チッ」と舌打ちし、幼馴染の助言に従って大人しく占領者の指示を仰ぐことにした。
『あっ。 一応言っておくけど、これは君たちの身内はあんまり関わっていないよ。 無関係! お分かり?』
「――――」
そのあっけらかんとしたカミングアウトに唖然としてしまう。
この飄々とした少年の言葉が正しいのならば、一体全体どうやってこの密室への侵入を成し遂げたのか。
情報が開示される度に溢れ出す疑問に眩暈を起こすメイルを横目に、レギウルスはジッと少年の声に耳を傾ける。
『それともう一つ、君たちの勘違いを正してあげよう。 俺の目的は君たちの掃討――では、ないんだよ』
「――――」
最も手早く思案できた候補が本人によって叩き落され、瞠目する。
「ならば何故――」
『何故? 別にそれを教える義理も義務もないよね? 立場を考えたら?』
「――――」
まるで、そこら中に盗聴器でも設置されているかのよう、に容易にメイルの疑念を解消してしまう。
『宣言しよう。 ――ただ今、ウチの妹がリヴァイアサンの捜査権限を強奪した。 この意味、分かるよな?』
「――――」
宣言された言葉に、レギウルスとメイルは押し黙るばかりだった。
魔人族には人族とは異なり、龍艇船のような高度な技術は未だ発展していない――というか『付与魔術』がない時点で不可能だ――。
故に調教師と呼ばれる人々がリヴァイアサンなどの飛行可能な魔獣を使役して、こうして運搬に利用している。
リヴァイアサンの背中に特殊な素材で建設されたログハウスを建てるのには凄まじい労力が必須となるが、それでも有り余るほどの利益が存在する。
そしてリヴァイアサンなどの魔獣は基本的に調教師が裏切らない限り他者の支配をうけないので、ハイジャックなどとは無縁の存在であった。
だからこそ、この異常事態は本来有り得ないのだ。
第三者による介入の支配は不可能なリヴァイアサンが、何故――、
『まぁ、そこら辺は王国の機密事項だ。 できるのなら墓までもっていってほしいなって思ってみたり。 ――まぁ、この大空がお前らの墓標になるかもしれないがな』
「――――」
仮にこの少年の言葉が真実ならば、確かに宣言通りこの大空で幾多もの儚い命が散っていくことになるだろう。
現状を理解し、そして次の問題は今ではなく未来となる。
言うまでもなく、脅迫には必ず何らかの要求が存在する。
今この場でメイルたちの命が健在なのはその要求故であり、それが果たされれば用済みとばかりに見殺しにされる可能性もある。
『そろそろ俺の要求について、不安になってくるお年頃みたいだな』
「――――」
『端的に告げる。 ――『傲慢の英雄』、レギウルス・メイカ。 あんたが欲しい』
「なっ――」
何の突拍子もなく出てきた幼馴染の名に呆然と目を見開くメイル。
何故、このタイミングで――、
『ああ、それとついでもう一つ。 俺の二つ目の目的はこの無意味な戦乱の終結だ。 まぁそこらへんの解釈は勝手にやってくれ』
「――――」
色々と聞き逃せないカミングアウトであったが、メイル的には唐突な求愛宣言に愕然とする他ない。
まさかこの少年は、ホ――、
『言っとくけど、別に求愛しているわけじゃないからな? ただ単に戦力的な意味合いで欲しいだけだからな?』
「な、なんだ……」
「――――」
急激なタイミングで現れたライバルが実は勘違いだと判明し心の底から安堵するメイルを複雑そうな眼差しで眺めながら、レギウルスは問いかける。
「それで? なんで俺なんだ?」
『そこら辺の話はまた後でね。 俺の要求に従ってくれたら、教えてやってもいい』
「――――」
真意、手段、素性、それらの一切合切が不明。
現在明瞭のなっているのは、自分たちがまんまと、このやけに高い声の少年の掌で踊らされていたことだけ。
レギウルスは目を鋭く細める。
『うん。 状況理解は済んだ?』
「――――」
『言いたいことは幾らでも有る。 だがしかし、そのどれが誤って俺の逆鱗に触れるか定かではないから口をつぐむ。 やれやれ、これでは会話が進まないな』
「――――」
『とりあえず、色々と話し合いたいことがある。 幹部レベルの連中はリヴァイアサンの中枢室へ集まってくれない? あっ。 それは幹部以下の一般ピーポーは死にたくなかったらそこで大人しくしててね』
そう一方的に自分の意見を喋り散らかした少年は、『んじゃサヨナラー。 幹部ピーポーはまた後でね』と言い残し通信は途絶えていった。
「……聞いたか」
「……面倒なことになったのだ」
「はぁ」と重々しい溜息を吐く二人。
「それで、どうする参謀(笑)」
「(笑)は不要なのだ。 ……致し方ない。 こんなところで無作為に部下を皆殺しにさせられるわけにはいかないからな」
「まぁ、そうだよな」
そしてメイルは流れる水のように胃薬を服用しながら部下に指示を与え、全てが終わると中枢室へと向かった。




