『強欲』な騎士と『強欲』な大貴族
私最近ラブライブってロリという至高の存在がいないとそこまで自分にとって面白いモノではないということが理解できました。
ロリこそ至高。 特に無口ロリ最高。
なお、価値観には個人差があります。
「――――」
屋敷の一角に、重々しい沈黙が響き渡る。
その静寂はまるで首筋に鋭利な刃でも押し付けられたかのような、そんな禍々しい緊張感を演出している。
最悪、彼の不興を買えば俺が消し飛ぶ可能性だって幾らでも有る。
彼にとって、俺でも娘――シルファーは己の命よりもなおかけがえのない存在であることは理解できる。
今その激情が迸っていないのは彼の厚意故。
だが今、俺はその行為さえも無為にしたのだ。
その代償が、命で支払う可能性だって幾らでも有る。
だがしかし、今後の戦局で彼の手腕が発揮する場が幾らでも有るし――何より、俺はシルファーに頭を下げたい。
それが身勝手で都合のいい理屈なのは理解できている。
だからこそ、俺をそれを曲げない。
――不意に、冷や汗が溢れ出す緊張感を醸し出す静寂が破裂する。
「――アッハッハっハッハ」
「――――」
それは、狂ったように、愉快そうなそんな響きがあった。
いつのまにやら周囲を張り詰めていた緊張感は薄れていっていた。
ほっと生死の挟間から逃れることが叶ったことに安堵する俺へ、ヴィルストは目を細めながら告げる。
「実に身勝手極まり言い草だ。 下らない。 君の提案に私が答える必要性も義理も義務も、当然ながら存在しない」
「――――」
「だが――実に、好ましく『強欲』な意見だよ」
「――ぁ」
花が咲いたようにはにかむヴィルストの微笑み――どこかで、見たことがあると感じてしまったこれは錯覚なのだろうか。
何故、俺はこんな思いを抱いているのだろうか。
過去、ヴィルストに似ているような人を俺を見たことがあるのか?
記憶を海を漁ってみるが、どうしてもその微笑が見つけることはない。
何よりも欲したヴィルストの「肯定」よりも、俺の心を響かせたのは何故かはにかんだ姿が『彼女』と重なってしまうことだった。
『彼女』?
そして遂に、俺は違和感の核心と同時に禁忌へと触れてしまう。
「――誰だ、そいつは」
覚束ない記憶に戸惑う俺へ、ヴィルストは優しく語り掛ける。
「あぁ――やっぱり、君と私は似ているね」
「――――」
何故、『彼女』なんていう顔すらも霞む奴がヴィルストに重なって見えるのか、心底疑問で頭が無遠慮に弄られているようだ。
「君も……そうなのかい」
「――――」
「君の困惑は、私のと共通のモノだよ」
「どういう……」
「君はきっと、私のことを他の誰かと重ねてしまった筈だ」
「何故、それを……」
他者の表情からそいつに何らかのイレギュラーが発生していることぐらい誰でも――ましてや大貴族が理解できないわけがないだろう。
だが何故、彼はそれをそこまで明瞭に言い当ててしまったのだろうか。
思いつく結論は――、
「――私が、そうだったように」
「――――」
「私も、君を見た瞬間身に覚えのない既視感に愕然としたよ。 君がね、『彼』に見える。 名前も顔も分からない、『彼』に」
「――――」
「それに、君と私は本当に似ている。 きっとその性根の先は瓜二つだと、私は思うよ。 だからこそ、君に娘を託した」
「でも――」
「喧嘩をすれば、仲直りすればいい。 当然でしょ? それとも、また拒まれるのが怖くて逃げるのかな?」
「……ハッ」
なんとも、意地悪な物言いだ。
そこまで言われて、言われっぱなしじゃどうしようもない愚図に成り果てちまうな。
そうなったら、沙織に見せる顔がない。
俺は不敵な笑みを描き、宣言する。
「改めて言いましょう。 ――俺はシルファーに突き立てたナイフの分、相応の『罰』を受ける。 その覚悟は、問いだすまでもないですよ」
「ふっ。 ――やっぱり、君と私は『強欲』だねぇ」
「ヴィルストさんはともかく、俺が強欲なのは認めますよ」
「――。 いいとも、――のよしみさ。 助力してあげよう」
「――感謝を」
快く俺の身勝手な言葉を吞みこんでくれたヴィルストへ、再度深々と頭を下げる。
それに目を細めながら、ヴィルストは「そういえば」とばかりに問いだした。
「それで、協力というのは? 具体的なプランは、あるのかい?」
「――この無意味な戦争を、手を取り合い終止符を打ちます」
「ほう」
俺の暴言ともいえる発言に一瞬息をのむヴィルストへ、問いかける。
「ヴィルストさんはこの戦乱、どう思いますか?」
「虫唾が走るね。 ――特に、あの悪趣味な顔面を思い浮かべれる腐ったシステムにね」
「? 何のこと――」
「あぁ。 なんでもないよ。 こっちの話。 それと、おそらく君と私の意見は一致すると思うが、異論は?」
「もちろんナッシングですよ」
よし、最低限の確認は整った。
それを悟ると、俺は懐から二種類の大ぶりな太刀を鞘ごと外す。
「俺が求めるのはヴィルストさんにしかできないことですよ。 ――一つは国レベルを封印可能な『大祓詞』・「封」が付与されたアーティファクト。 それと、俺の愛刀の改良です」
「……『大祓詞』を、どこで知ったのかね?」
「シルファーに『付与』された魔術に関しては、一目で判別できましたよ。 そういう体質ですからね」
「ほう……」
もちろん、嘘である。
だがこれを説明しようとするとそれなりに時間が必要となってしまうため、『付与』の時間を差し引いてなるべく早く終わらせたい。
故に今回は不本意ながらも虚言を吐くことにしたのだ。
「それを、何に?」
「愛刀の改良は単純に戦力強化ですよ。 念のためです。 あっ。 それと、愛刀の改良にはそれなりに時間が掛かると思うのですが、優先するのは『大祓詞』の方でいいですよ。 『大祓詞』は必須ですからね」
「ふむ、そうかい。 それならば私も助かるるよ」
「アッハッハ、それと愛刀に付与された魔術については、説明するまでもないですよね?」
「もちろんだよ。 私を誰だと思っている?」
心なしか誇らしそうな表情を作るヴィルストに安堵する今日この頃。
「『付与』には、それなりの時間が必要となるでしょうから、完成した『大祓詞』は明日貰いにいきますよ。 もちろん、報酬も――」
「不要だよ。 財産ならば腐るほどある。 そんなことより、娘との再会を約束してくれれば私は満足だよ」
「そうっスか」
どこまでもマイペースなヴィルストにちょっと驚嘆しらのは内緒である。
――そして、夜が明ける。




