ロクでなし『騎士』と王国の『英雄』の、決断
中年口説いてどうすんねん!?
BⅬか……!? BⅬなのか!?
今回の話はらしくもなくかなり熱烈なアキラさんが見られますよ。
まぁそれが本心なのか、それとも妄言の類なのかは私も分かりませんが。
「……策は?」
「――――」
ぶっきらぼうにそう問うガバルドは、端的に「手駒になるかはそれを聞いて判断する」と告げている。
まぁ、それで無策で特攻しろとかいうクソ野郎の指示なんてどんな愚物でも聞かないわなと納得する。
「もちろん、ちゃんとあるさ」
「口では幾らでも吐ける。 だがそれを実現できるかは、それを実行させられる奴に理解させるのが道理なんじゃないのか?」
「アッハッハ、仰る通り」
「――――」
眼光でへらへらすんなと告げるガバルドを無視しつつ、指先をもてあそびながらも淡々とまるで赤子に言い聞かせるように語る。
「一番の問題は、『傲慢』。 これ共通認識でオッケー」
「おっけーなる言葉の趣旨は理解できぬが、まさかその程度も察することのできない愚物とでも思ったか?」
「理解させろって言ったのは誰かな?」
「ハッ。 ある程度の前提知識なら得ている。 俺は存外気が短いぞ。 説明するのならばもっと簡略化しろ」
「へいへい」
やれやれ、冗談が通じない奴は俺の天敵であると再認識。
俺のペースに呑まれてくれないのはちょっと困るが、それでもこれ以上不用意に彼の神経を逆撫でればどうなるか。
不本意だが、さっさと説明するか。
「亜人国へ最速で向かい、色々と細工してそれから『傲慢』を叩きのめす。 後はお前の部下が勝手にやってくれるでしょ。 理解できた?」
「あるに決まってるだろ」
「アッハッハ」
険しい眼光を俺へ向けるガバルドの表情はどこまでも厳しい。
「『傲慢』を殺す? そんなことができるのならば苦労していないさ」
「だろうな」
「それも、お前の口ぶりだと騎士団の介入はないのだろう? 俺とお前で『傲慢』を? 自分でも情けないと思うが、無理臭いぞ」
「――――」
『傲慢』の実力は隔絶し、完全に常軌を逸している。
ガバルドとは異なる要因によって魔力が一片たりとも存在せず、その分彼の単純な膂力は異常の一言。
なにせ龍艇船に勢いよく激突しても、あの程度の傷だもんな。
しかもレギウルスには紅血刀がある。
奴の深紅の短刀で断絶された箇所を巡っていた血液は吸い寄せらせ、彼はそれを糧にどんな重症さえも否定する。
確かに、規格外の一言である。
だがしかし、そんな彼にも天敵がいる――俺だ。
俺の魔術はどのような例外なく万象を否定し、存在ごと消しついでとばかり喰い尽くされることとなる。
レギウルスの紅血刀はどのような傷をも治癒することが可能だが、それでも存在否定には効力を発揮しないだろう。
そしてそれを成し遂げるのは余りに容易だ。
だが――その選択肢は、この戦局において余りに愚かなモノである。
「あぁそうだ。 一つ訂正」
「――?」
「――別に俺、一言も『傲慢の英雄』レギウルス・メイカを殺すとか言ってないよ」
「は?」
唖然とするガバルドの顔は、いつまでも眺めていられるような、そんな愉快なモノであった。
「どういう、意味だ」
絞り出すように吐き出された言葉はどこまでも低く、感情が抜け落ちており、だからこそガバルドの動揺が嫌でも理解できた。
まぁ、この世界の住人――もっと限定すると人族ならば当然の反応だよねと妙に落ち着いた心境で思案する。
魔人族は史上最大の忌々しき害悪であり、発見次第遠慮容赦無くその首筋を鋭利な刃で撫でるのは今や不文律となっている。
生かした方が圧倒的に優位となることが明白な状況ですら、策謀が繰り出す指示は「殺せ」の定文一択。
俺には到底理解できないが、それでもそれに最も間近で見てきたガバルドにとって俺の選択はあまりに荒唐無稽だと納得できる。
ならば、俺がその下らない価値観をぶち壊してやろう。
「俺の中間地点の目標、聞きたい?」
「――――」
無言は肯定の証だと解釈しつつ、俺は清々しい笑顔でこの世界の禁忌に何ら躊躇することなく触れる。
「――俺はさ、そろそろ人族と魔人族が互いに歩み寄って手を取り合うべきだと思っているんだよな」
きっと、その言葉を公衆の眼前で吐き出せば相当な反発が生じ、良くて死刑、悪くて拷問だろうと容易に推測できる。
だが、人族と魔人族の戦乱を心の奥底で下らないと吐き捨てるガバルドならば、そんな妄言に耳を傾けると、そう判断したまでだ。
「――はっ?」
「信じられないか、俺みたいなやつがこんな平和主義なことを言うのが」
「――――」
もちろん、ガバルドが愕然としているのがそんな下らない理由ではないとは分かるが、それでも俺は妄言を吐く。
今はガバルドに俺の言葉を脳が理解するまでの時間を稼げば、それで万々歳なのである。
「お前、そんなこと言ったらどうなるか――」
「あぁ、安心して。 人払いは済ませている」
「そういう問題じゃないっ! 俺がいるんだぞ! 王国の『英雄』の前でそんな言葉、冗談じゃ済まされないぞ!」
「うん。 そうだね」
「理解できん! それを理解しておいて何故、俺に告げたのだ」
「アッハッハ。 ちょっとした誠意と、俺なりの餞別だね」
「――――」
視線だけで文字通り人を殺せそうな恐ろしい眼光で俺を睥睨するガバルドを軽薄な口調であしらう。
「下らないと思わないか? この戦いを」
「――――」
「食糧問題から始ったこの戦乱が、結局は人死にしか生み出さいのは最前線で戦うお前が一番理解できているはずだ。 ――『英雄』ッッ‼」
「――っ」
らしくもなく声を張り上げる俺に怖気づくように後ずさる『英雄』を逃さないように、離れた分だけ距離を詰める。
「お前はこの戦争で、一度でも心の奥底から笑えたか!? 晴れ晴れとした気分で、誰かと笑い合う光景を、見たことがあるか!?」
「――――」
「暴力はいつだって強者の都合のいい道具だ。 それに振り回される奴らを、お前は許容できるのか!?」
「……んなわけ、ねぇだろ」
「――だったらッッ」
水平線の彼方まで俺の声が響くように必死に声を張り上げ、そして吠え、宣言する。
「――終わらせようぜ、この不毛な戦を。 そんで誰かと笑い合える日常が当たり前になる日々を作り出そうぜ、『英雄』」
「――ああ」
――そして、停滞した秒針が今、動き出す




