囁きの声
ロリっ子こそ至福であり最高なのだ。
故に、巨乳はこの世から滅ぶべきではないのだろうかと真剣に考える私はおかしいのだろうか?
「――ハッハッハ!」
「――――ッ!」
俺は顔に嘲笑を浮かべながら、猛烈な勢いで仮面へと突進する。
今、背中に姫さんは居ない。
不完全ではあるが、まぁそれはちょっとしたハンデだろう。
姫さんという縛りが消え去った今、俺は鳥のように自由となった。
それが意味することは――。
「そんなんじゃ全然届かねぇぞ! もっと撃ってみろ! もっと愉しませろ! もっと、もっと――!」
「――モ エ ツ キ ロ」
「断る!」
刹那、太陽が生まれた。
そう錯覚してしまうほど、その炎は輝かしく、そして圧倒的な熱量を周囲に放っていた。
真面に喰らったら無傷じゃ済まされなかっただろう。
なら、真面に喰らわなければ良い。
「――蒼海乱式・〈蒼弾〉」
そして、仮面が掲げていた左腕が撃ち抜かれる。
「――――ッッ‼」
声にならない悲鳴が地下牢に響き渡った。
その光景を嘲笑を浮かべて一瞥する俺。
「水っていうのはどこにでもあるんだよ。 死角攻撃なんてお茶の子さいさいだぞ。 後でメモでもしておくんだな」
「――――ッ! ――――ッ!」
「そう叫ぶな。 耳に響く」
俺は静かに刀を納刀しながら仮面を睥睨する。
降参でもするかって?
逆だよ。
「――来いよ。 一発だけ、チャンスを与えてやる。 俺はお前の攻撃を避けずに、急所を狙われても防御もしない。 言っておくが、一発だけだぞ。 俺は約束は守るが、そこまで優しい人間じゃないからな」
「――――ッ」
「オイ、野郎! オマエ、今は遊んでいる場合かァ!?」
「遊んでいるつもりはない。 これも、大事なことだ」
別に俺だって好きでこんな合理性の欠片もないことをするほど馬鹿じゃない。
俺が欲しいのは一瞬の空白。
それさえあれば、仮面は撤退するだろう。
しかし、それを安吾に聞かれては色々と面倒だ。
だからこそ、このような面倒なことをするんだよ。
仮面は俺の意図を理解したのかしていなのか。
仮面は大ぶりな大鎌を取り出し、そしてそれを神楽でも舞うかのように振り回した。
数秒後、その鎌が臨界点を示すかのうように紅蓮に染まる。
遊びも、感情も、私情もない無駄のない動きだ。
俺は思わずその動きに見惚れてしまった。
へぇ……意外とあいつ、器用だな、なんてつい思ってしまう。
「さぁ――本気で来い。 遠慮は要らん」
「――シ ネ 」
そして、仮面は風と化する。
今まで後衛でひたすら炎弾を放っていた仮面が、俺へと迫ってくる。
その動きは武道者特有の機械的な合理的さがあった。
これは、少し見習うべきか。
その光景を俺は微動だにせずに眺めていた。
心拍は一切変わらない。
汗も零れないし、緊張もしない。
――あぁ、やっぱりだ
落胆に近い感情が俺の心中を支配していた。
そして――、
「なっ……」
俺へと肉薄し、そして全身全霊の一撃を叩き込んだ仮面が浮かべた感情は――「困惑」
それもそうだろう。
なんせ、凄まじい勢いで薙ぎ払った筈の大鎌が柄の部分を残して「消えている」のだから。
「これが、俺の魔術だ」
直後、猛烈な蹴打が仮面を襲った。
仮面が吹き飛ぶ瞬間――、
「――潮時だ。 今はお暇しろ」
そう仮面に囁く。
そして、盛大に仮面が水平に飛び舞う。
ドガンッ! という破砕音と共に壁に衝突し、それだけには留まらず奥へと奥へとただの蹴りの衝撃により吹き飛んで行く。
「……追うか?」
「いや、止めておいた方が良い。 今ので相当ダメージが入ったはずだ。 死にはしないと思うけど、戦線復帰は厳しいさ。 今はそんなことより、この姫さんを回収することが大事だ。 優先順位を間違えるなよ」
「……了解」
苦々しい顔で安吾がそう吐きすてる。
そうだ、それでいい。
利益が損失を上回るなら、人は妥協する。
路傍の石より、大切な仲間を優先するよな。
現在安吾たちは襲撃を受けているはず。
つまり、俺のような戦略が必要不可欠というわけだ。
なんとも、なんとも皮肉なことだろうか。
「つゥか、オマエさっきのなんだよ。 どうやってアレを防いだ?」
「アッハッハ、言語すらおぼつかない原始人には理解できない方法で、だ」
「死ねッ」
と、何時ものやりとりを交わしながらも俺たちは階段を駆け上がる。
目指すはガバルドたちが今この瞬間も戦う、路地裏だ。
距離はおよそ数百メートル。
俺たちの常識外れな脚筋を使えば瞬く間にたどり着ける距離である。
俺は姫さんを背負い、ある程度道具の補充をし、路地裏へと向かった――。




