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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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歪んだ愛を


 なんでこんな風にしたかって?

 それはひとえにアキラさんのコンセプトにあります。 アキラさんのテーマは「出来損ない」。 当たり前の心を理解できない、怪物なんですよ。

 私としてはそんな彼が少し「人間」に近づくまでの物語を書きたいなぁと考えていますが、それがハッキリと現れるのは多分11章でしょう。


 ちなみに、余談ですが『器用値』は11章で完結する予定です。















「――――」


 時刻は空が緋色に染まり上げられる夕方。


 いつもどおり学業へ勤しみ、ある程度の課題の終了を確認した俺は机の上に乱雑においてあるVRギアーとやらを手に取る。

 ガイアスの手によってある程度ログアウトログインが可能となっているとはいえ、流石に緊張なしにはログインできない。


 俺は微かな緊張に滴る冷や汗を拭いながらそれを被り、そして実に分かりやすいボタンを数秒長押し。

 そして、意識が暗転して――、


「――ぁ」


 目覚めると、やたらと豪華で壮大な天井であった。


 本来ならば不要な天井への装飾さえも美術作品を彷彿とさせる繊細な、それでいてダイナミックな模様が描かれている。

 そんな見慣れない天井を見上げていると、不意に屋敷の扉が開く。


「あ。 お兄ちゃん、起きたの」


「うん。 というかライムちゃんは何しにこの部屋に?」


 この屋敷はある荒業により「無かったこと」にされてしまったモノだ。


 辻褄合わせるこれに勝るとも劣らない壮大な屋敷が存在したりもするが、その話はまたいつかである。

 俺は微かな倦怠感と欠伸を噛み締めながら、チラリと愛らしい顔つきの幼女――ライムを一瞥する。


 俺としては意思のない傀儡を手に入れたかったのだが、どうも術式の性能が上がってるからかそれを成し遂げることは叶わなかった。

 まぁ、歪み切っているとはいえ、これもまた――、


「私は単純にお兄ちゃんの寝顔でも眺めようときたのよ。 何か文句でも?」


「ちょっとはしたない気がするけど、まぁそれはそれでもウチのライムちゃんは今日も可愛いから許す!」


「私が可愛いのはどんな自然の摂理よりも自明の理なのかしら」


「アッハッハ」


(……彼の『記憶』でこの子こんなに積極的だっけ?)


 彼の『記憶』のライムちゃんは基本的にいわゆるツンデレしてたけど、今この瞬間の彼女はとてもじゃないがツンデレてない。

 まぁ色々と察することはできるが、それでもちょっと気味が悪いかなっていうのが本音なのである。


 元の彼女を知っているからこそ、ね。


「んー。 長く寝たなぁ。 今何時?」


「もう夕方なのよ。 起床する時間帯くらいはちゃんんとルーティン化しておいた方が賢明と、私は思うかしら」


「そういわれてもねぇ。 ボクのこの悪癖は相変わらずだねぇ」


「そうね」


 すると、ベットから起き上がろうとする俺の膝に唐突に重力が。

 チラッと見降ろしてみると、そこにはいたいけな少女が俺の膝に猫のように乗っかている姿を目撃胃することができた。

 

「……当たってますよ、ライムさん」


「当ててんのよ」


「そのネタどこで知った」


 偶然、そう偶然だ。

 この世界の住人が日本の文化を知るわけない、当然だろ。

 だがどうしてもこの子は日本出身なのではないかという疑惑が浮上しているのですが。

 

 その後微睡むライムが寝付くまで俺の膝は愛らしい幼女によって占拠されていったのだった。
















「――おぞましい」


「再開してからの第一声がそれ!? 酷くない!? ねぇ酷くない!?」


「いたいけな幼女を洗脳するその行為がおぞましくないとでも?」


「アッハッハ、面目ねぇ! というかそれだけ言うと俺って相当な外道じゃん」


「ハッ」


 門を潜り抜けると、そこにはそれなりに背丈がある中年の男が佇んでいた。

 

 というか第一声が悪罵とか割と『神獣』も割と荒いな。

 それはそうと――、


「――なら、あのまま彼女を放置しておけと?」


「――――」


「思い人との逢瀬は永久に叶うことなく、ただただ空虚な日々を過ごす――そんな日々の方がつらいと、そう思うがね」


「――――」


 ガイアスはある程度俺の記憶を閲覧することが可能だ。

 それ故に、彼から奪った『記憶』や■■■本人の『記憶』も余すことなく理解しているはずなのだ。

 だからこそ、ある程度の理解は示してくれると思ったんだけどなー。


「俺もさぁ、形こそ違うけど彼女と同じような経験をしたことはあるよ。 どんなに彼女に語り掛けても、何も覚えていない」


「――――」


「なら、せめて空虚な幻想であっても、それを彼女に見せてあげたかった。 ――こんな理由じゃ、ダメか?」


「――それも、嘘?」


「さぁね。 道化師の心は不用意に除かない方がいいとだけコメントしておくよ」


「――。 そうか」


 あくまで、これは俺の身勝手な配慮。 

 それにあんな状態になったのは偶然の産物であり、俺の意思はほとんど介入していないと言っても過言ではないだろう。

 だがそれでも、この結末ならば――、


「――身勝手な価値観を他者に押し付けるな、スズシロ」


「――――」


「お前がどう思うが勝手だ。 ――だが、『主』のお言葉は今日も健在。 この意味が、分かるか?」


「――――」


 刹那、虚空から水流が現れる。


 莫大な魔力と常軌を逸した魔術構築技術により生成された水流は瞬く間に刃を形どり、俺の首筋へと添えられた。

 更に背後に幾つもの鋭利な破片が入り乱れた竜巻が無数に出現する。

 

 鋭利な破片が凄まじい勢いで廻り続けるあの竜巻に触れでもしたらおそらく塵になるまで切り刻まれるだろう。

 明確な殺意が周囲を張り詰めさせ、緊張感を催促するような沈黙が続いて行った。

 後はガイアスの指示一つでいつでも俺を両断するのは明白。


 だからこそ俺は特に抵抗することなく、ただそこに佇むだけ。


「いいのか? ここで俺を殺せば器がなくなる。 新たな器が現れるまでお前はお蔵入りになるぞ?」


「それがどうした。 『主』の勅命を実現できるのならば本望だ」


「アッハッハ、お前も案外イカれてるな~」


 殺伐とした雰囲気にそぐわない飄々とした言葉を吐き出す。

 そして――、


「――本来ならば、俺は躊躇することなくお前を殺していただろう」


「――――」


「だが、『主』の命はあくまで『人間の不殺、保護』だ」


「何が、言いたいのかねぇ?」


「俺が保護するのはあくまで『人間』。 そしてお前に執着するあの少女――あれは、ニンゲンなんかじゃない」


 

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