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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
172/584

ずっと、ずっと


 ある展開のために緩急の「緩」です。

 数話程度で「急」が来ますよ












「――――」


 舞台が移り変わってやたらと壮大な屋敷へと。


 『ループ』により一か月前に舞い戻った俺は裏で色々と企てていたのだが、それでも立場としてはシルファーの護衛だ。

 それに俺はこの先何の手も打たなければ何者かに――ほとんど『厄龍』あたりだろうと推察する――に記憶が奪われることとなるだろう。


 ならば世界中の中で最も信頼できる俺が直接護衛すればいいだけのこと。


 最悪この屋敷には今この瞬間も雑務に追われるおっさんことヴィルストがいる。

 核爆弾が炸裂したような惨状を覚悟すれば容易に『厄龍』――ルインを撃退することは可能だが……流石にそれは勘弁したいな。

 

 それはそうと――、


「お前いつまで布団の奴隷になってんだよ」


「アキラさん、女の子に奴隷とか言っちゃダメですよ。 というかアキラさんこそどうしてこんな豪雪の中で生身なんですか!?」


「気合」


「ひぇ……薄々思ってたんですけど、アキラさんって人間なんですかね?」


「今凄く傷ついた! こう見えて俺繊細なんだぞ!」


「繊細な人は鼻水さえも凍えるこの季節をそんな装備で乗り切れませんよ。 うぅ……寒いです」


「人間って大変なんだなぁ」


「認めた! この人今認めましたよ!」


 布団にくるまり、この屋敷にまで伝わってくる豪雪により生じた冷気に体を震わすシルファーを眺め、俺は心底呆れたとばかりに溜息を吐いた。


 それでいいのか貴族令嬢(笑)。


 どうもシルファーは人一倍温度の変化に弱く、今日のような異常気象にでも遭遇すればこのようになる。

 シルファーは文字通り箱入り娘だ。

 それにこの状況も相まってやたらとこの令嬢は季節の変化に慣れていないのかもしれない。


 ちなみに外界の現象の一切合切を遮断するこの屋敷であるが、ほとんど屋敷から出られないシルファーを慮ってヴィルストがせめてもと外界の空気だけはこの屋敷に通している。

 故に晴れ渡った晴天の日には屋敷に温かく、思わず昼寝でもしてしまいそうなそんな朗らかな空気が醸し出さる。


 しかしながら今日のように豪雪の日にはそれが仇となり、今この屋敷には温もりが恋しくなるレベルを遥かに上回る豪雪の気象が演出されている。

 

 この世界の気象は日本のようにある程度規則性のあるモノなのではなく、ランダムに晴天、豪雪、干天、竜巻などに移り変わっている。

 ちなみに、それはこの国限定らしい。

 

 故に農作物を育てるのに適さず、この国とは打って変わって日本さながらの気候の亜人国から大抵の食物は取引しているらしい。

 難儀なことだ。

 

「シルファーさんよ、父上殿から課せられた宿題は大丈夫なのか?」


 ルシファルス家当主のヴィルストの娘はたった一人。

 必然、彼女が次代当主となる可能性は非常に高く、故にヴィルストはシルファーへの教育のために宿題と称して座学を学ばせているのだ。


「…………この気候で、勉学に勤しめと?」


「親父さんに叱られても知らんぞ」


 親父さん、という単語に反応し、シルファーの体がぴくりと微動する。


「あぁもうっ! 分かりましたぁ! 分かりましたよ! でもアキラさんも手伝ってくださいよねっ!」


「ハッ。 俺に一般常識は通用しねぇ」


「何ドヤ顔で情けないこと宣言するんですか」


 もちろん、最近この世界に来訪したばかりのこの俺は歴史などの分野はともかく、異文化の政治なんて理解できる気がしない。

 つまること――、


「頑張れば、きっと何となるさ!」


「今猛烈にアキラさんの憎たらしい顔面を殴りたくなったんですけど、殴ってもいいですか?」


「もう殴ってる。 シルファーさん殴ってる」

 

 良い笑顔で親指を立てる俺の頬筋は、シルファーの華奢な拳により軋ませていった。
















「ったく、もうちょっと手加減しろよなシルファー。 俺だって痛覚ぐらい感じるんだから」


「人間じゃないんしょ? なら幾らでも殴ってって何の問題もないですよね?」


「倫理をもう一度勉強した方がいいよとだけ言っておく」


 それが淑女の発想か。


 あの後シルファーは猛烈な集中力を発揮し瞬く間に課題を片付けた――わけもなく、十分に一度は脱線し恐ろしい集中力(哀)を遺憾なく発揮し、本来たった三時間で終わるモノを七時間かけて片付けていた。

 これが次世代の淑女か……


「……その形容し難い眼差しは何なんですかね」


「俺の中で淑女の概念がお前のおかげで粉々になったよ」


「アキラさん、血液型を確認しておきましょうか」


 輸血を想定した台詞な気がするけど、シルファーのような淑女(笑)がそんな物騒なことをするわけないよね!

 ない……よね?


 不安になりながらも、これ以上のパワハラも勘弁なので論点をすりかえ有耶無耶にすることにした。


「んじゃ、俺はそろそろ帰宅しますわ。 あっ。 それと明日はちょっと急務で護衛の仕事はパスするぞ。 まぁ、流石に四十六時中永遠と監視されるのっては結構ストレスだろ?」


「? どうしてですか?」


「???」

 

 時刻は日本時間でいうと深夜零時が目前に迫っている頃。

 忘れがちだけどこの世界はプログラムの産物であり、そして俺は現実世界の一員としてこの世界に借り物の器で来訪しているだけに過ぎないのだ。


 故に永遠とこの世界に居座ることもできずに、この時刻になると我が家に帰りつかなければならないのだ。

 それに明日は学校もある。

 故に俺としては早く目覚めなければならず、こうして帰路についているのだ。


 にしても――、


「またまたぁ。 異性の、それもやろうと思えば容易に軍隊滅ぼせる異性と二人きりって不安以外の何物でもないでしょ?」


「あ、アキラさん私の事そんな風に……!」


「待て、何故このセリフでお前は頬を染める」


 何故か俺の指摘に頬を赤く染め、恥ずかし気に視線を彷徨わすシルファーさん。

 そんなシルファーを俺は胡乱気な眼差し見る。 

 今の話に恥じらう要素ってあったっけ。


「――別に、そんなの今更ですよ。 もしアキラさんが性欲旺盛な子だったら今頃大変なことになってますからね」


「淑女って笑顔でそんな生々しい話するっけ」


「これでも一応は配慮しているんですよ。 ――それに、なんとなくアキラさんはそういうことはしないって、分かってますから」


「――そうか」


 一瞬、何かが溢れ出しそうになったが何とか堪え、手慣れた手つきで笑顔を作り、そうただ一言拙く返事することしかできなかった。


「アキラさん」


「――?」


「――ずっと、ずっと一緒にいてくださいね?」



 その言葉に一瞬泣き出したくなりそうになった。

 寸前のところで堪え、他愛もない雑談を交わし俺はログアウトを済ませたのだった。





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