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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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メィリ・ブランドの食卓


 あっ。

 月曜日の更新、ちょっと時間ズレてるし。 まぁいいや












――時は、過ぎ去っていく。


「お嬢様、お嬢様。 主様が呼んでおりますよ」


「無視して。 それとお嬢様は止めて」


「それが……主様曰くかなり切迫した事態らしく、一刻を争うのだとか」


「……そう。 なら話は別。 言ってやってもいいかしら。 案内して、メイド」


「委細承知。 ……話は変わりますが、そろそろ私の呼称をメイドから変更していただけないでしょうか?」


「私のことをお嬢様扱いしなくなったら考えてやるわ。 ほら、さっさと案内して。 一刻を争うんでしょ?」


「えぇ。 何でも王国の中でも珍しいロリータファッションなるモノを偶然手に入れることができたとか。 きっとお嬢様も大喜びですね」


「帰るわ」


 屋敷での日常は波乱もなく、ただ淡々と窓の外の変わり映えのない光景を眺める日々であったが、唯一の誤算が言うまでも無く名目上はメィリの保護者であるメシアことお兄ちゃんである。

 

 何が面白いのかメシアは任務が万事解決した時には大抵「お土産」と称しメィリに貴族連中でさえ見惚れてしまうような洋服を着せたがるのだ。

 しかも、フリフリの。

 

 メィリ・ブランドはあくあでも外見上に限った話では幼児と称しても何ら問題のない発達具合だが、実のところ精神年齢は異なっている。

 一体全体何を加えたのかメィリは特異体質で、それ故に肉体が朽ち果てることもないし、逆に成長することもない。


 しかも幾ら肉体を残虐に抉られようと速度自体は地を這う芋虫レベルであるが首を断絶されようが一週間の月日で無傷となる。

 だがどうもメィリの特異体質の効果が及ぶ範囲は肉体に限った話らしく、悲しいかな、精神年齢を正確に計測すると中年レベルなのだ。

 

 そう――メィリ・ブランドは幼女であって幼女ではない。


 そんな中年の精神を兼ね揃えたメィリさんがロリータファッションをお気に召すはずがなく。


 保護者の帰宅直後にはフリフリドレスを着せたいメシアとロリ扱いだけは何としても回避したいメィリによる鬼ごっこが開始されるのはもはやこの屋敷において実に日常的な風景なのである。


「……はぁ。 全く、あの男は何なのかしら。 まさかロリコ――」


「――あの男とはボクのことかい、メィリちゃん?」


「神出鬼没なロリコンって鳥肌誘うわよね」


「傷ついた! 何度も言うけど、ボクはロリコンなんかじゃなくて、健全におっきい方が好きななんだよ!」


「変態ね」


「変態ですね」


 開き直ったかのような巨乳好き宣言にメィリは路傍のゴミでも見るかのような蔑んだ眼差しでメシアを見据える。

 絶対零度が如き視線に涙が溢れかえりそうになりつつ、それでもメシアは騎士としての名誉を何としてでも死守しようと奮闘する。


「ちょっと!? 何!? ボクはただただ大衆心理を説いただけだよ!? というかアスカ君まで便乗しないでくれるかな」


「これは失礼を。 変た――ご主人様」


「ボクは紳士であって変態などではない? いいね?」


「ハッ」


 メィリの嘲笑は、今日も絶好調なのであった。

















「――? あら、お兄ちゃんはどこに?」


「本当に今更なのですが、その呼称で主様をお呼びするのですね」


「癖よ、癖」


「あらそうですか」


「……何よその意味深な眼差し。 不愉快だわ」


「これは失礼を。 ただ、少々食べてしまいそうな程可愛らしく照れ隠しするお嬢様がお可愛かったもので」


「照れ隠しとか冗談じゃないのよ!」


 微かに肌を赤く染めながらそう猛然と抗議するメィリの姿が露骨に彼氏でも隠す娘のように思えて一層深く微笑むメイド。

 そんなメイドに怪訝な眼差しを送りながらも、メィリは慣れた手つきで食卓に座り一瞬で生成した鋭利な短刀で肉厚な豚焼きを切り分けけて行く。


 しかし、本来ならばメィリの対面で下らない雑談を交わしていた細身の青年の姿が見当たらず、忙しなくチョロチョロと視線を彷徨わせている姿が本当に愛らしい。

 何だかんだ言って意外とメィリの精神年齢は低い。

 

 かつての環境が環境だったせいで社会経験と言えるようなモノはほとんど存在せず、彼女の数十年で唯一手に入れたのは暴力を俯瞰した眼差しで受け入れられる狂った価値観か。

 故に過ぎ去った時間の割にはメィリの精神は左程成長しておらず、また「親」といえるような存在にこれまでロクに触れあってきていなかった弊害か。


 この少女は口先では突き放すような発言が目立つが、それでもこの一年の間彼が積み重ねてきた信頼が功を奏したのかメイドでも理解できるほどに、心の奥底に堪え切れないほどの親愛の情がきっとあるのだろう。


「主様も罪な人ですよね」


「何か言った?」


「いえいえ何も」


 突如として饒舌だったメイドが押し黙り、そんな彼女を胡乱気な眼差しで見つめるメィリ。


 そんな何気ない姿からもこの一年間の成果がハッキリと実を結んだのだと理解できる。

 屋敷に彼女が足を踏み入れた当初、メィリは誰にも心を開かず、ただぼんやりとした毎日をおくっていた。

 だがそれもメシアが不在の時だけ。

 

 ただひたすら空元気なメシアに、メィリは困惑しながらも根は割と優しいのか稀に付き合ってあげてもいた。

 そんな日々も穏やかに過ぎ去り、主の空元気の甲斐もあってこうしてメィリが多少とはいえ心を開いてくれたのだ。


 これに勝る歓喜などこの世界に存在するのだろうか。


「何ニヤニヤ一人で笑ってるのよ。 お兄ちゃんみたい」


「流石に主様扱いはちょっと……」


「違いないわね」


 当時はほとんど本音を口に出さなかったメィリも丸くなり――本音で罵倒するのが丸くなったのかは議論の必要があるが――こうしてメイドにも偶に本音を零してくれるようにもなった。

 

 まだまだ成長の余地はあるが、それでも一年前を思い出すと大躍進である。

 

「……メイド、あんた偶に魂飛んでるわよ。 メイドはメイドとして振る舞うのが流儀なのよ」


「その通りですわね。 あっ。 事後報告になるのですが、主様は何やら緊急の任が入ったらしく、大慌てで屋敷を出ていきました」


「意外と騎士も大変なのね」


「えぇ、そうですね」


「……どうしてあんたが誇らしげな顔するのよ」


「いえいえ。 なんとなくですよ」


――きっと、嵐に前触れなのないのだろう。


 この世界に「運命」なんていう馬鹿げた理なんて存在せず、ただただ無慈悲に迫る『死』に身を委ねるしかない。

 だからこそメィリは今この屋敷で平穏を謳歌している。

 そして安泰が崩れる予兆も、また――、


――不意に、何かが崩れる生々しい音が響き渡った。


 



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