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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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■■■・■■■■の困惑


 実を言うと、私もかつてメィリちゃんと同じ境遇だったんですよね。 流石にここまで凄惨じゃないですけど。


 今回の話は、私にしては珍しく妙に感情移入してしまいそうです。











「――やぁ、お嬢さん。 久しぶりだね。 まぁ、とはいっても二時間くらいしか別れていないんだけど」


「――――」


「んん? だんまりかい? もうちょっと喋ったらどう? 女の子って笑ったりする方が可愛いんだよ? 知ってる?」


「――――」


「うりゃあー。 徹底的な無視! 心にしみますなぁ!」


「――――」


 眼前、■■■の目の前で悠然と堂に入った動作でいっそ堂々と紅茶を飲み干すメシアを怪訝な表情で見つめる。

 飄々とした彼の態度を見るたびにどうも■■■はどこか苛立ったようなそんな不思議な感情が現れる。


 鬱陶しい。

 本当に鬱陶しい。

 そんな思いの丈を睨むことによって伝えようとするが、「やっぱり女の子は睨む顔も可愛いね。 似合ってないけど」とのらりくらりと受け流される。


 そんな停滞する状況に嫌気がさし、■■■は「はぁ」と思い溜息を吐きながら、仕方がなく言葉を紡ぐ。


「――鬱陶しい、喋らないで」


「――――」


 言ってやった。

 思いの丈を思う存分に吐き出した■■■は、彼女の父親のように踏みつけにされる恐怖さえも覚悟し、本音をぶちまけた。

 メシアはその拒絶の意思に口をつぐむ。


 ぶたれる痛みを堪えようと、一足先に瞳を閉じる■■■だったが――想像していた苦痛はいつまでたってもやってこない。


 否、そればかりにメシアは俯き、肩をプルプルと震わせている。

 もしや、■■■の言葉が彼を傷つけたのでは、と浮上した可能性は浮いた瞬間叩き落されることとなる。

 有り得ない。


 『大人』とは、他者を嬲り見下すことで悦に浸ろうとする者たちのことを指す。

 ■■■はそれをこの短い一生の中吐き気がするほど身に沁み、そして自然と理解していた。

 つまり、これすらも■■■を油断させ、嬲り悦に浸るための演出でしかないと判断した■■■は、来るべき苦痛に備え、再度瞼を閉じる。


 そして――、


「――ようやく」


「――――」


 不意に、少年のように澄み切った呟きが■■■の鼓膜を震わした。

 メシアは無礼千万な振る舞い、言動を行った■■■へ罰を――、


「――ようやく、喋ってくれた!」


「――は?」


 与えずに、そればかりか■■■が発した言葉に喜び、何の誇張もなく跳ね上がってその歓喜を表現していた。

 そんなメシアに呆気にとられる■■■だったら、次の瞬間考え直す。

 そうだ、きっとこれすらも憎たらしい演出。


 油断しきったところで、まら奴のように■■■を蹂躙するのだ。

 そう分かったのならば、続け様に放つ言葉はもう決まっている。

 

 そして少女は、静かに、されどどれだけ鈍感な者でも理解できるほど険のある声色で歓喜するメシアを糾弾していった。


















「――取り繕うのは、止めて」


「ん? 何かな何かな? ボクは見ての通り正真正銘、心の奥底からキミの声に喝采しているのだが」


「嘘。 またそうやって、私を騙すんでしょ、『大人』。 ぶつならさっさとぶって勝手に悦に浸って」


「……うーん、ちょっとお兄さん何言ってるのか分からないね」


「この期に及んでまだとぼける気?」


 身に覚えのない■■■の糾弾に、不思議そうに戸惑うメシアだったが、次の瞬間何かを察したかのように嘆息する。

 己の内心を無遠慮に探られ、ようやく激怒しその本性を晒すのかと心待ちにしていると――その声の内容は、あまりに予想外であった。


「……実はね、キミに一つ、隠し事がある」


「――――」


「――ボク、まだキミの名前知らないんだよね……御免ね? そういうところ察して、だから起こっているんだよね?」


「……は?」


 放たれた言葉は余りに予想外。

 名前?

 何故、このタイミングでそのような些末なことに気にするのだろうか。

 否、それすらも■■■を油断させるためのクソったれな演出――、


「――別にさぁ」


「――――」


「何か勘違いしていると思うけど、別に普通はその程度の悪口で罰したりしないよ。 最悪でも注意警告程度で済むのが常識さ」


「嘘。 だったら私が過ごした日々は何だったの?」


 日常のように虐げられ、口を開く権利さえも奪われたあの頃が普通であり、そうでなければそれこそが異常となるのだ。

 それが、数十年間ずっと殴られ蹴られ人としての尊厳を踏み躙られ続けられてきた哀れな少女の揺るぎようのない価値観。


「――違うよ」


「――――」


「親っていうのは、子供に愛されるように日々汗水を流して努力し、子供に愛情を注ぐ。 そんな存在だよ」


「……有り得ない、そんなこと」


「……こういうことを言うの嫌だけどさぁ、キミ、明らかに異常だよ。 それを正常と自然に受け入れているのだからなおタチが悪い」


「――――」


「教えてあげるよ。 親が平然と子供へ暴力を振るい、悪罵の限りを尽くす。 ボクたちにとって、それは『異常』。 決して『正常』なんかじゃなく、おぞましいモノなんだ」


「そんな――」


 ならば、ならば何故■■■は『異常』で、何故あんな耐え難い苦痛を味わい地を這わなければならなかったのか。

 何故、何故、何故!?


「――止めな、キミじゃあ僕には勝てない」


「……えっ?」


 絶対の信頼をおけるはずの価値観がこうもあっさりと崩され、その事実にいつのまにやら錯乱していた■■■はまるで理不尽な現実を否定するように、『何か』を吐き出していた。


 無意識的に吐き出されていた『何か』は神が如き天性の再によって即座に増幅、拡散、構成され不可視の刃となってメシアへと放たれる。


 だがしかし、その刃はメシアの肌を割断するどころか触れることさえ叶わぬまま、虚しく消えていったであった。

 そんな認め難い現実に再度愕然とする■■■へ、メシアは神妙な顔で問う。


「――キミ、名前は?」


「――――」


「やっぱり、これからも付き合うキミの名前も知らないっていうのは少しいただけない気がしてね」


――答えなければ、ならないのだろう


 きっとこれから何度も紡がれるその言葉を、■■■はその魂に従い、口に出した。


「――メィリ。 ただのメィリ」


「そうかい。 良い名前だ」


 そう微笑むメシアの姿はどこまでも優しく、まさに『親』であった。




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