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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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似非侍ⅤS仮面ローブ


 字面だけ見ると、酷い











――豪風が、吹き荒れる。


 それは爆熱が生み出す熱であり、人の常軌を逸する動き、そして空を変幻自在の動きで踊り舞う水滴によって発生した風だ。

 俺は霧に紛れながら、襲いかかる爆熱の温度を宿した炎玉を避ける。

 

「――強いな、お前。 もしかして幹部とかそういう類か?」


「バ セ ロ」


「話が通じねぇな、オイ!」


 仮面の宣言と共に空中に幾つもの花火が咲き乱れる。

 

「捉まれよ、姫さん! 落っこちても知らねぇからな! まぁ、炭になってこの星の温暖化を進めたいのなら、止めはしねぇけどな!」


「――――ッ!」


 俺は背中に乗っけた姫さんを片腕で支えながら、空中で身をひねって回転し、迫りくる炎玉のことごとくの軌道を反転させる。


(クソッ……分が悪ぃな!)


 これが、姫さんというハンデもなく、このような狭苦しい地形ではなく広大な大地での戦いであったのならば、結果は明らかに違っていた。

 だが、非常に残念なことにここは地下。

 とてもじゃないが、太刀を振り回せるような環境ではない。


 しかも相手はそろそろ俺が魔法を使えないことに気が付いたはずだ。

 まぁ、正確には、魔法じゃなくて魔術なんだけどな。

 確かに俺はガイアスの魔術を扱える。

 だが、それはあくまで借り受けているだけにすぎない。


 修練も足らず、とてもじゃないがガイアスのように自由自在とはいかないんだよなー。

 しかもガイアスの魔術と仮面の炎の相性は最悪。

 死角に水滴を忍ばせたって、爆熱で蒸発されるのがセオリーだ。

 

「クソッ、もうちょっと手加減しろよ!」


「キ エ ロ」


「ああそうだった、お前言葉理解できない原始人だったんだな! 俺もお前みたいな原始人知ってるぞ」


 心なしか、弾幕が苛烈になったような気がした。

 なんだ、感情あるじゃん。

 まぁ、そんなこともうとっくの昔に知ってるんだけどね。


 だが現実問題、一体どうやってこの危機を乗り越える?

 刀は真面に触れず、姫さんなんていう足枷までセットだ。

 更に言うと、もう俺はガイアスの魔術を使えないだろう。


 先ほども言ったように俺が扱えるのはあくまでも一部。

 具体的には、一定時間俺の魔力を染み込ませた水しか操作できないのだ。

 ガイアスのように無尽蔵じゃない。

 天才でも最初から最強じゃないしね!


 さて、どうする?

 ストックもこの戦いでほとんど尽きた。

 残る水はペットボトル一本分程度。

 あれぇ?

 これ、詰んでない?


 まぁ、こんな危機ルインと敵対した時点で今更だ。

 この程度で挫折していちゃ、ルインなんかに勝てないよな。

 

「――じゃ、そろそろ少ーし本気出しますか」


「ウ セ ロ」


「ハッ」

 

 だが、そう宣言しても依然状況はしない。


 ここから階段にまで至る道のりは一方通行。 

 まるで俺の退路を塞ぐかのように仁王立ちする仮面。

 まず、俺が全力を出すに当たっての条件は大きく二つ。


 ①・月彦、もしくは安吾と合流し、そして姫さんを預ける

 ②・地下からの脱出


 本当は前者を早々にクリアしたいが、それには必然的に②を達成しないとそれが果たされることはないよな。

 まず優先すべきは地下からに脱出。

 

 俺はちらりと後方を一瞥する。

 背後にあるのは血まみれの死体と、牢屋だけ。

 ここは奥深い地下。

 天井を破って逃げることは可能だが……果たしてそれを仮面が許すか。

 

「さてさて……クソゲー極まりないな」


「――――」


「ま、不可能とまでは言えないなー」


 これらを達成できる可能性は低い。

 だが、0ではない。

 現状これしか合理的な手段がない以上、挑むしかないんだよなー。

 

「――上等」


「モ エ ロ」


「残念。 俺が萌える相手は沙織しかいねぇんだよ」


 刹那、余波のみで肌をやすやすと焦がすような業火が降り注いだ。

 

(数が多い……!)

 

「おいおい……これは厳しな!」


 俺の戒杖刀で反転できるのは、一振りに一回のみ。

 つまり連撃には相当弱いわけだ。

 加えて問題なのは姫さんがどれだけもつか。

 

 今はまだ大丈夫。

 俺の水滴がその柔肌をコーティングしているから、熱風で肌が焼ける、なんてことはまだないだろう。

 そう、まだ。


 だが、この先のことは正直分からない。

 水のストックが尽きるのは時間の問題。

 今この瞬間それが尽きても然程不思議ではないだろう。

 

 ……最悪、俺自身の魔力を使うか。

 だが、それは余りに非合理的である。

 俺が自身の魔術を解放した場合、まず間違いなくこの仮面は「消える」。

 「死ぬ」、ではなく「消える」だ。


 消えたら、おそらく蘇生はできないだろう。

 もしそうなったら、俺が企てた計画が水の泡となるだろう。

 それだけは何としても避けたい。

 殺さず、されど生かさず。

 

 本当に、この世界はクソゲー極まりないな。


 そもそもこの魔術はまだ制御しきれていない。

 制度での話なら、おそらくガイアスの魔術よりも低いだろう。

 アレが暴走でもしたら、俺は当然のこと姫さんも消えちまう。

 やっぱり、あの魔術は防御に回すか。


(ま、やるかやらないかじゃないな。 ――やるんだよ)


 それが、合理的だから。


 そう活き込んだ刹那――、



「――ガッハッハ、俺様参上ッッ‼」



 天井が破砕音と共に破れ、そして空から野生人が降ってきた。


 いや、お前かよ。




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