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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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道化師とお粗末な道化師












「――どうだったかい、『賢者』との茶会は」


「――ぁ」


 景色が一転する。


 背景は永遠にも感じられる激闘の戦場――ではなく、そこは数多の書類が綺麗に整理整頓された静謐な空気を醸し出している部屋である。

 訪れた『死』とその復帰とのタイムログに、視線が点々とし必然的に焦点すらも定まっていないだろう。


 そんな俺は眼前のおっさん――ヴィルストは咎める。


「――? どうしたのかね?」


「……あぁ、スミマセン、ちょっと寝不足でしてね。 それと、少々寝ぼけていまして――今日の日にち、教えてくれませんか?」


「ふぅむ、寝不足はよくないよ? それとも夜眠れないことでもやっているのかい?」


「下ネタ止めてくださいって」


「ふむ、済まない。 えぇっと、今日は金木犀の十七だよ」


「――。 感謝します」


「うん。 私が言えることじゃないけど、寝不足は良くないよ。 それに君は成長期じゃないか。 背が伸びなくなるかも」


「ご忠告、感謝します」


「この程度、当然さ」


 そう嘆息し、俺は一度己を落ち着かせるように瞑目する。


(金木犀の十七……あの惨劇からジャストで一か月前だな)


 余談だが、この世界は独特の暦を反応しており、月をそれぞれの花で、日程はシンプルに数字によって表している。

 そしてそれによると残る猶予は――およそ、一か月。

 会話の内容からしておそらくあの悪辣な『賢者』との初対面の直後なのだろうと推測する。

 

 それが多いのか少ないのかは分からないが、それでもストック分の魔力で一か月んも遡ることができたから万々歳だと言えるだろう。

 さて……問題は。


「――スミマセン。 『賢者』との初対面の感想を語る前に一つ」


「――――」


「ちょっと、彼女に話忘れたことがありましてね。 お手数ですが、もう一度あの高原へ続く扉を開いてくれせんか?」


「……それは、緊急の内容かい?」


「えぇ。 迅速に解決したいんですよね。 どうか、お願いします」


「――――」


 と、俺は恥も外聞もなくヴィルストへ首を垂れる。

 ちなみに、あんまりやりたくはないんだけど、もしそれが必要ならば土下座すらも視野に入れている。

 だが、どうやら俺の懸念は杞憂だったようだ。


「ふむ。 君がそこまで懇願するのならば、私も動かざるをえないね。 ――いいだろう、『賢者』との扉を開いてあげよう」


「――! 本当ですか!」


 俺の予想だともうちょっと交渉(?)に苦戦すると思っていたのだが、かなり呆気ないというのが本音である。

 俺は怪訝な眼差しでヴィルストを凝視する。


「そんなに私が快諾することが意外かい?」


「ま、まぁそうですね……」


「単純な話だよ。 ――私と君は、きっと同類だ。 同胞には、しきあるべき対応をしなければ、ね?」


「は、はぁ……」


 同類?

 一瞬ヴィルストの顔面を思いっきり殴打したくなったが、流石にそれは非合理的な極みなので、自重する。

 

 ヴィルストがぱちんっ、と指を鳴らすと同時に消失していた高原へと続く扉がどこからか出現した。

 まったく、一体全体この屋敷には幾つの魔術が付与されているのやら。

 はんば呆れながらも、これはヴィルストの厚意に感謝の意を示す。

 

「――感謝しますよ、ヴィルストさん」


「不要さ。 ――頑張ってきなさい、アキラくん」


「了解っす」


 そして俺は、全ての決着を付けるための第一歩を踏み締めたのだった。
















――思えば、この高原に足を踏み入れるのもなんやかんやで四度目なのだろう


 そう思うと少し感慨に浸りそうになるが、別に幸福の象徴とかそんな神聖な場所なんかじゃないしというか何十回も死んでるので何とか中断する。

 そして突如として来訪した俺という存在へ好奇の眼差しを向けるのは一人のいたいけな幼女である(ただし性格は保証しない)。


「――おや。 まさか今日二度も貴方に会えるとは。 光栄ですわね」


「ハッ。 腹黒が何いってやがんだよ、ゴミ屑って思ってるならゴミ屑って正直に言っちゃえばいいのに」


「――。 言いがかりですか?」


「いんや? 実際見て聞いてきたから、別に戯言なんかじゃないぞー」


「――――」


 突如として再来した俺に何の前触れもなくその本性を見破られた『黄昏の賢者』は目を細めながら、こちらを睥睨し、問う。


「――で?」


「御免。 俺一文字で一切合切を理解できるほど高等な存在じゃないの」


「はぁ。 ――何故、戻ってきたのですか? 話したいことがあるのならばさっき言えばよかったのですのに」


「ああそうか、お前にとっちゃ初対面つい先ほどだったっけ。 失念失念」


「ふざけるのが目的ならば、回れ右し扉をくぐり帰路についたらどうでしょうか?」


「ハッ」


 にこやかな顔で吐かれた苛烈な毒を俺は花で笑い飛ばす。

 そんな俺を不愉快そうに睨むメィリへ俺は堂々と中指を立て、敵意と殺意を表明しながらも律儀に宣言する。

 

「俺が要があるのだ、『黄昏の賢者』メィリ・ブランド。 お前だ」


「――――」


「宣告しよう。 ――三分。 これがお前の最大余命だ」


「――! 襲撃っ!」


「聡明なこったぁ。 やっぱり俺たちみたいなゴミ屑とは一線を画す知能ですね。 パチパチパチパチ」


 殺すと、そう宣言されたと認識しても可笑しくはない宣言を受けたメィリは『賢者』の異名をほしいままにしてきた圧倒的な技量で魔術を構築。

 いつでも対抗できるように準備を整えたメィリへ俺は脚力を最大限まで跳躍し――その華奢な体へ、回し蹴りを放つ。


「――その愚かさ、死をもって償うのですよ。 スズシロ・アキラっ!」


「――獣宿・【獅子】ッッ!」


 そして、第二ラウンド初陣の幕が開けたのであった。

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