ラスト・リ・スタート
ようやく終わった七章のaパート。
だがしかし、残るbパートを考えるとちょっと気が滅入りますというのが正直な本音。 色々と終わっているaパートですが、bパートで問題の一切合切が解決されることはなく、逆に増えちゃう可能性が高いです。
まぁ、その分bパートはスッキリするような逆転劇に仕上げたいと思います。
「――死んで、■■■■■に詫びろっ!」
「ノーコメントで」
頭上より降り注ぐ片手に鋭利な短刀をもったメイルを軽やかな動作で躱し、そのまま気だるげに回し蹴りを喰わらす。
遠心力によって上乗せされた威力は容易くその華奢な細身の体を吹き飛ばし、やがて高原に撃墜する。
「――さて、今度は僕の番だ。 退屈はさせないよっ」
「ご遠慮願えますかぁ?」
そして背後に迫るルインの刺突を戒杖刀で弾き返す。
そのままルインと重なるようにして肉薄し、一ミリ一秒もの誤差が生死を分ける他と隔絶した剣劇が始ることとなった。
初撃は鋭い刺突――に見せかせ思いっきり刃を振り落とし、更に地面へ接する寸前強引に軌道を変更。
そのまま踏み込み、閃光の如き薙ぎ払いを繰り出す。
それをルインは巧みな殺戮技巧によってそのことごとくを打ち落とす。
「ちっ。 厄介な」
「生憎、悪辣さこそが僕の売りなんだよねぇ」
「お前、絶対友達いないでしょ。 もうちょっと他人のこと気遣おっ?」
「他者を踏みにじることこそが生き甲斐。 そんな僕にとって、君のその懇願は実に相容れないねぇ」
「別に懇願って程じゃないけど」
呑気に会話交わしながらも、両者は互いに一歩も譲らず『老龍』程の猛者であっても介入が不可能と断じてしまうほどの殺陣を演じる。
甲高い金属音が強かに響き渡り、そしてそれは刻一刻とペースを上げ、今や小刻みという形容詞がよく似合うモノとなっていた。
力量は――互角。
ならば勝敗はどちらが一瞬でも気を抜いたか、という点こそが最も重要といっても過言ではないのだろう。
それがアキラとルイン二人だけの世界ならば。
「――唸れ、蔓」
「――。 クソッ」
「――――」
突如――機敏に猛攻を捌き、繰り出していたアキラの動きが停止する、否、強制的に停止させられたのだ。
そのカラクリはアキラの足首を覆う強靭な蔓である。
もちろん、アキラは即座に水滴を凍結し槍へと昇華、それによって忌々しき蔓を引き裂こうとするが、しかし一瞬意識を魔術構築へ向けてしまった。
それこそが、スズシロ・アキラの敗因だろう。
「――余所見は関心しないなぁ」
「――――」
常人から見れば決して無防備とは言えない、ほんの些細な隙。
だがしかし、今この瞬間他の誰でもないスズシロ・アキラだけを注意深く凝視するルインにとってはそれは余りに致命的な隙であった。
――そして、血飛沫と共に生首がくるくると、狂った冗談のように宙を舞う
変貌し続ける光景に目を回すアキラの思考は数秒もしないうちにやがて暗闇へと引きずられ、そしてその命の雫が零れ落ちる――、
「――死んで、■■■■■に詫びろ」
「……もうこれ何回目っ!?」
堪え切れない理不尽さを嘆きながらアキラは大地にクレーターが生じる程の勢いで踏み込み、そのまま天空へと薙ぎ払う。
「くっ……!」
「甘いというか、単調というか、無防備というか。 もうちょっと注意深くしろよな、お前」
「何を――」
横薙ぎで払われた鮮やかな蒼の刀身をメイルは紙一重のタイミングで短刀によってギリギリその刃を食い止める。
不利だと悟ったのか、メイルは万力の腕力で握っていた短刀を思い切って手放しアキラへと放り投げた。
溢れ出る鮮烈な殺気をm敏感に感じ取り、首を傾げ、容易に迫りくる鋭利な短刀を回避するアキラ。
だがあくまでその短刀はアキラの切っ先を制する目的で放たれたモノでしかない。
本命は――、
「――『龍身変幻』っ!」
「ほう――」
宙を舞うメイルの瞳孔が縦に割れた瞬間、整った爪先は鉤爪と変貌し、雪のように真っ白な細腕は鱗が鎧となって纏っている。
メイルは半龍半人。
故にこのように半端ながらも龍の恩恵を受け取ることができ、その身体能力は遥かにアキラを上回っている。
鉤爪を振り上げるメイルに対応しようと身構えた直後。
「――油断大敵だよ、スズシロ・アキラ」
「――脳漿散らせ」
「ッッ――!」
振り落とされる大爪を最小限の微弱な動作で紙一重で回避、そしてそのまま休む暇もなく次撃が迫ってくる。
頭上より幾つにも分岐して落下する万雷をアキラは戒杖刀で『反転』し、肉薄する黒塗りの刃を指先で何とかその軌道を逸らす。
そして接近する光線を軽やかに跳躍し、回避しようとした刹那――その細身を分厚い蔓が幾重にも重なり拘束した。
一瞬で氷槍を生成し、それによって拘束から何とか逃れようとするがなまじき分厚いせいでそれを容易に引き裂くことは厳しいだろう。
そうこうしている間にいつのまにやら眼前迫ってきていた光線を気合と根性を振り搾り首を全力で動かし、回避する。
だが依然として蔓の拘束は健在である、そしてそれによって生じる隙を超常の存在たちが見逃すはずがなかった。
「――ゲームオーバーってやつさ」
「――――」
そして首筋から容赦なく断ち切らされた頭部がくるくると血反吐をばらまきながら宙を舞って――、
「――死んで、■■■■■に詫びろ!」
「うん、諦めよっ」
何かを決意した様子のアキラは洗練された動作で迫りくるメイルの狂刃を躱す。
アキラは欠伸を噛み殺しながら驚くべきことに戒杖刀を納刀し、そのまま幽鬼のようにゆらめき、背後から迫りくる刺突を回避する。
「諦めたのなら躱さないでくれるかなぁ?」
「? 諦めてなんかないぞ? ただただ詰んでるなぁって結論出して、それを文字通り撤回するために準備しているだけですが何か?」
「――。 意味が分からないね」
「そうかそうか。 なら教えてあげなーい、って普段の意地悪な俺は舌出しているんだけど、今だけは寛容になって教えてやろうじゃないか」
「余裕だね。 まさかとは思うけど、戦況が読めてないのかい?」
「いいや? 多分お前よりも何倍かは読めてるし理解もしてるよ? だからこそ胸糞悪い結論出したわけなんだし」
「――――」
薙ぎ払われる黒塗りの刃をバックステップし回避、そして薙ぎ払われる鉤爪を足場に軽やかに跳躍する。
アキラは瓢箪から水滴を溢れかえらせ、そしてそれらは反転する重力によってルインたちへぶちまかれる。
「――蒼海・乱式『蒼弾』」
「――――」
縦横無尽に宙を弾丸が如き速度で浮遊する水滴をルインとメイルは巧みな刀捌きによって何とか脅威からその身を守る。
「――俺の愛刀『戒杖刀』に込められた魔術は『反転』。 文字通り触れた魔法魔術の一切合切を反射し、術師へと『反転』させられるんだけど、実は『反転』した魔力って触れた時よりちょっと減ってるんだよね」
「――――」
「疑問に思うだろ? ――一体全体その微弱な魔力はどこに消えていったって」
「――――」
「気になるでしょ。 特別に教えてやるよ。 その余剰分の魔力は『戒杖刀』にストックされ、ストックされた魔力はいつでも使用可能さ」
「――! そういうことかっ」
「おっ。 ようやく気が付いたようだな。 立派立派」
囁かれた言葉に瞠目するルイン。
アキラがこの愛刀を手にして、かれこれ二年もの月日が経った。
その二年間の間、スズシロ・アキラの愛刀『戒杖刀』が魔法魔術へと振るわれた回数は数えるのも馬鹿らしくなるほどである。
塵も積もれば山となる。
溜まりに溜まった魔力は莫大で、それこそある程度の大魔法ならば十分使用可能である。
そして、二度目の茶会の時、アキラが『黄昏の賢者』メィリ・ブランドとの交渉によって手に入れた魔術の名は――、
「――『ループ』っっ!」
「あっ。 やっぱり『管理者』の元締めみたいな存在だから知ってたの。 それなら話は早いよなぁ?」
「――――」
――『ループ』
それは『賢者』がアキラの魂にまで刻み込んだ、その規模故に発動不可能と断じられた大魔術である。
『ループ』は文字通り一定の条件を達し、莫大な魔力を代償として再度時間を巻き戻し、世界をやり直させるという大魔術。
アキラは、ちらりと魔術を構築すつメィリを一瞥する。
「メィリが俺に『ループ』を渡したのは消費魔力は莫大すぎるから発動不可能とタカをくくったから。 でもなぁ、俺の二年。 これを浪費すれば話は変わってくるよなぁ?」
「――! させるかっ!」
殺せば、殺せば確実に魔術を中止することは可能だ。
切羽詰まった表情でルインは漆黒の刃を振るい、その刀身は確かにスズシロ・アキラの胴体を引き千切り、そして更に心臓を穿っていた。
これで、これで終わりな筈。
だが――もう一度。
「あぁそう、一つ言い忘れたことがある」
「――――」
「『ループ』発動条件はなぁ、圧倒的な魔力。 そして――術師の死だ」
「――ぁ」
ようやく、ようやくルインは己の無知さに気が付き、歯噛みする。
そして忸怩たる思いを爆発させ――叫ぶ。
「スズシロ・アキラぁ! 次は必ずお前を殺す!」
切迫した表情で喚くルインへ、俺は無表情で淡々と答える。
「――あっそ」
――そして、世界が巻き戻る。




