スズシロ・アキラの絶命
権能っていうよりかは応用って言葉が正しいですね
――分からない。
何もかもが、どうしてこんなにも胸が悲しくて、そしてあの少年を思い出すと心が烈火の如く燃え滾るのだろう。
何故、何故、何故!
答えを幾ら手に入れようと、結局のところそれは叶わない。
メイルはただ自然と、いつも隣を寄り添ってくれていた■■■■■の腕を握ろうとし――愕然とする。
「――ぁ?」
どうして、自分は誰かの手なんて握ろうとしていたのだろう。
有り得ない、そんなこと絶対にありえない。
メイルは貧民街出身であり、故に人一倍悪意には敏感である。
――なにせ、誰もメイルというか弱い少女を守ってくれやしないのだから
メイルがあの暗闇から生き残るには必然的にどのような相手でも対等以上に太刀打ちでいるような、そんな『力』が必要だった。
幸いにもメイルの血には龍の遺伝子が宿っている。
彼女が裏側の世界を牛耳るようになる日はそう遠くはなかった。
――君のその力は実に素晴らしい。 勝算に値する。 ――ぜひ、私たち魔人族のためにその鉤爪を振るって欲しい
その強大さは遂に魔人城にまで届き、魔王直々の勧誘に乗ったメイルはたちまち猛者揃いの魔人軍の中でも重鎮となり、それなりに満足のできる生活を謳歌していたはずなのである。
――ならば、何故だろう
何かが、何かが違う。
しかしその肝心な違和感がおぼつかなかった。
「――■■■■■って、誰?」
不意に何と無しに呟かれた言葉に、今度こそメイルは呆然となる。
誰かの名を呼んだ気がする。
でも、その誰かの名前が霞んでいて。
「誰……? 貴方は――■■■■■は、誰!?」
「――それが、君の望みかい?」
「――――」
錯乱した精神状態なのにも関わらず、メイルはあの暗闇によって培った生存本能を遺憾なく発揮し、突如として現れた気配を察知。
そして華奢な右腕を変幻させ、綺麗に整えられた爪先は鉄材でも容易に断ち切れそうな鉤爪が現れる。
その爪を、突如として現れた気配――黒衣の青年の首筋へ向ける。
「おっと。 誤解させて悪かったね。 安心するといい。 僕は別に君を害するつもりはないし、帰れと言われたら素直に帰路につこう」
「――――」
メイルは静かに視線で続きを話せと告げる。
「でも、果たしてそれは答えを探し彷徨う君にとって望むことなのかい? ――■■■■■のこと、知りたいんでしょ?」
「――っ!」
「どうやら、図星だったようで」
「――。 どうして、分かった」
「さぁね。 そこら辺は秘密だよ。 ――さて、少女に問う」
「――――」
その言葉が告げられた瞬間、黒衣の男を中心として針が刺さるような、そんな莫大な鬼気が溢れ出す。
――勝てない
数多の修羅場を潜り抜け、それによって鍛えてきた観察眼は確かに黒衣の男とメイルとの実力は隔絶していると告げていた。
今、彼の不興を買えば殺されるかもしれない。
それだけは避けなければ、まだ、まだ■■■■■の名を聞いていない。
「――君が焦がれる存在、■■■■■のことを、思い出しかい?」
「――――」
注意深く、相手の顔色を伺って答えを告げるべきであった。
だというのに、メイルは本能に導かれ、気が付けば頷いている。
その返答に満足そうで悪辣さが垣間見える笑顔を浮かべながら、黒衣の男はメイルへ手を差し伸べた。
――それは、共犯者の誘い。
「――ちゃんと、教えてよ」
「もちろん、全てか終わったら全部話してあげるよ」
こうして、二人の『契約』は結ばれていっただった。
「――死ねっ! 死んでしまえっ! ■■■■■を私から消したことを冥府の底で詫びて、そして死ねっ‼」
何度も、何度だって執拗に、メイルは手元のナイフを狂ったように無防備なアキラへと振り落とす。
「――あがっ」
「死ねっ! 腐ってしまえ!」
悲鳴すらない、アキラの頭部から鋭利な切っ先が引き抜かっるたびに生々しい脳漿が高原にぶちまけられる。
断末魔の叫びは再度振り落とされたナイフによって中途で終わってしまい、何も残されないままスズシロ・アキラという存在が消えていく。
確かに、身体強化さえすればある程度の傷は何とか対応できる。
魔力によって強化された肉体は頑強で強靭なことはもちろん、自然治癒能力だって常軌を逸すレベルだ。
即死するレベルの傷ならば、まだなんとかなった。
だがしかし、脳天への刺突によって生じた即死級の致命傷を与えられれば、幾らアキラとはいえ存命は不可能であった。
「ああああああッッッ‼」
「――――」
瞳から大粒の涙を流す悲痛に満ち満ちた顔で泣き叫びながら、メイルは全身全霊の膂力で憎たらしい男の脳天を薙ぎ払った――、
「――死んで、■■■■■に詫びろっ!」
「うん、断る」
突如として頭上より堕ちてきたメイルをまるで見てきたかのように軽やかに最小限の動きで回避、そしてそのまま無防備な少女の首筋へ一太刀。
だが寸前のところで身の毛もよだつ執念によってその刃は空を切り、メイルは歯噛みしながらルイン陣営へバックステップする。
そしてその直後、全力の一撃が空を切ったことにより重心が狂ったアキラへ、強烈な殺意と共にルインが躍り出る。
繰り出された薙ぎ払いをバックステップすることによって回避するが――、
「――脳漿を晒しな」
そんな台詞と共に生み出された光線が脳漿を貫いていた――、
サブタイトルは涼宮ハルヒシリーズを意識しました。
ああいう本って巻数が不明瞭ですよね。




