シルファー・ルシファルス
惰性でいつもより長く書いてしまいました。
これで七章みたいにマイペースにならないことを祈ります
蒼炎を弾き返した俺は、多少動揺をあらわにするルインへ一太刀浴びせ、そのままその足首を蹴り上げる。
「くっ――。 案外やるねっ」
「正確には俺自身の技量じゃなくて攻略サイト見たようなモノなんだけどなぁ」
「――――」
そう呟き、流れるような動作で再度その寝首を掻こうと鮮やかな軌跡を描きながらその刃を振るう。
ルインは刃がその首筋へ接触する寸前猛烈な勢いでバックステップするが当然距離を離すわけがない。
空振った勢いを殺さず、そのまま俺はルインへ猛攻を繰り出す。
鋭い刺突、鮮やかな横凪ぎ――と思わせ上段、鮮烈な切り払い、更に猛攻に対応することばかりに集中して注意がなっていないその腹を踏み締める。
俺だってレイド程ではないにしろ、それなりに身体強化技術は高いわけで、結果勢いよくルインの体が吹き飛んだ。
俺はそのまま追撃を――、
「――させないよ」
「――。 邪魔臭いなぁ」
しようとした直後、進行方向へ鮮烈な光線を繰り出された。
その光線があの時のように俺の脳天を貫き、脳漿を引きずりだす――その寸前、何とか身を屈めて回避。
そのまま俺は勢いを殺さずに、ルインへと猪突猛進に突っ込んだ。
そして――一文字をルインの腸に刻み込んだ。
「がはっ」
「――――」
実力では俺とルインは互角。
ならば――情報という面においてこちらを上回る他方法は無い。
そして現状、俺の魔術はそれを行うにおいてなんら障害も無く、故にこのような優勢な状況を作り出していた。
ルインの胸元から吹き上がる血飛沫が俺の頬を湿らせ、俺はそれに頓着することなく止めを刺そうと肉薄し――、
「やれやれ。 まさかこの保険を使う時が来るとは、よもやよもやだねぇ――来い」
「承知。 ――〈歪界〉」
刹那、本来この高原に足を踏み入れるはずのない存在が大気を激震させ、鼓膜を破くような方向をあげていた。
「――愚者には裁きを、愚者には鉄槌を、愚者には永久の眠りを」
「――――」
「――今ここに、『龍』としての威信を示すッ!」
虚空に莫大な魔力と圧倒的な技巧によって空間に歪みが生じ、その挟間から漆黒の鱗をその身に纏った龍が這い出てきた。
その光景に戦慄しながら、俺はぽつりと、消えそうなか細い声色で現れたその存在を、静かに口ずさむ。
「――『老竜』、デファンス」
「――愚者には、死の裁きをッッ‼」
そして、現れた六匹の龍が一斉に俺へと襲い掛かってきた。
「――――」
おそらく、原理は強制転移とそう違っていないだろう。
核を弄って『転移』の有効範囲を増加して、それによりこの巨体を高原に晒し、俺へと猛然と突っ込んできた。
(クソッ、ただえさえルインとメィリの相手で精一杯だったのに、よりにもよってこれかよっ! 容赦ねぇな!)
そう内心で悪態を吐きながら、俺はジッと食い入るようにこちらを睥睨する龍たちを睨み返す。
勝算は――絶望的。
この状況下、まず迫りくる相手の一切合切を薙ぎ払うのは到底不可能、つまること次の選択肢は抜け道。
おそらく、この屋敷の異常事態に主であるヴィルストが気が付いていない筈はないのだろう。
ならば、のらりくらりと時間を稼いで――、
「――一つ、残念なお知らせがある」
「――――」
悪意に満ち満ちたその言葉を聞いた瞬間、直感的に嫌な予感が脳裏をよぎり、何とかそれを振り払おうと――、
「――ヴィルスト・ルシファルスは僕が封印した」
「――――」
絶句。
信じられない、そして信じたくもない。
もしそれが真実だとしたら――俺に勝機は一切無いということとなる。
俺はそれを何とか否定しようと、声を張り上げる。
「――。 ブラフか?」
「いいや、君にとっては、非っ常に残念なことであり、そして僕にとっては最高なことだよ。 これは真実だ。 かつて、彼ではない彼女が生み出した、アーティファクト。 それを使わせてもらったよ」
「――――」
そしてルインが取り出したのは歪な、そこら中に呪詛が張り巡らされた物体である。
その物体からは、莫大な魔力、それも最近慣れしたんだ魔力の残滓が溢れ出している。
間違いない――この魔力、ヴィルストのモノ。
どうやら本当に、ルシファルス家当主はルインの悪辣な手管によって封印にまで追い込まれてしまていたらしい。
その事実に愕然としながら、同時に疑問も生じる。
――一体全体ルインはどうやって、天下無双ともいっても過言ではない魔術を保有するヴィルストを封印したのか
そしてその答えは他でもない眼前で嘲笑うルインの口によって説明された。
「――やっぱり、気になるよねぇどうやって彼女を封印したのか。 アッハッハ、あぁ、本当に滑稽だっ」
「――――」
「百聞は一見に如かず……見るがいい! これがその答えだッ!」
唐突に、広大な高原にその少女が現れる。
微風にたなびくその長髪は鮮やかな桃色であり、その双眸は猫科を彷彿とさせる丸みを帯びたモノであった。
庶民と言うよりかは、令嬢と形容するべき容姿である。
その少女の名は――シルファー・ルシファルス。
「……シルファー?」
「――――」
目の前で佇む少女を、俺は食い入るようにまじまじと見つめる。
何度凝視しようにもその少女の存在は変わらず、ただそこに佇んでいるだけであった。
「――いやぁー、協力的で何よりだ。 彼女のおかげで容易にヴィルストを封印することもできたし、こうして君が動揺するのならば何よりさ!」
「シルファーが……?」
「そうさ! この子は居場所を作ってあげると僕が提言したらすぐにその誘いにのったよ! やっぱり彼女は彼女なりにこの不明瞭な状況が不安だったようだね! まったく、何とも居た堪れないことだねぇ!」
刹那、暗闇に閉ざされていた俺の感情を燃え滾る烈火が支配し、激烈な衝動のせいか視界が深紅に染まる。
――こんな、こんな感情、俺にもあったんだなって
そんな物語を俯瞰したような客観的な感慨と、それと相反する激情が互いにぶつかり合い、そして体が突き動かされる。
――殺せ!
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
「お前が、言うなぁぁぁぁああッッ‼」
「――。 そうこなくっちゃ!」
激情をあらわにし、俺は戒杖刀を片手に猛然と全ての諸悪であるルインへと飛びかかっていた。
――その直後、頭がザクロのように弾け飛ぶ
「――ぁ?」
「――――」
愕然とその光景を凝視するが、そんなことしても眼前で噴水のように噴き出る鮮血が止まるはずがない。
俺はただ呆然と――己の脳天を短刀で貫くシルファーを刮目していた。
「――御免ね、アキラさん」
「――ぁ」
そして、次の瞬間悲鳴もなしに躊躇うことなくシルファーの脳天へと突き刺さった短刀が確実に華奢な少女の命を消し飛ばしていた。
――声が、聞こえた
誰の声かも分からない、ただ、喉が潰れてしまうか心配になるほどの大声で絶叫するその声はけたましく鼓膜を震わせた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ‼」
余談、もちろんシルファーがヴィルスト封印に加担したのはルインが彼女を憑依したからです。
そもそもの話、シルファーはあくまでも記憶を失っているだけであり、魂にまで刻み込まれた情報は健在です。
その魂に反する行動――より具体的にいえば父親であるヴィルストの封印に加担することなど世界が滅ぶとしてもないでしょう。
それともう一つ、無感動さに頭を悩ませるアキラがこんなにも激怒しているのは言うまでも無くメィリによる干渉故です。




