三度目の茶会
最近、謎に名探偵コナンにハマりました。 個人的には灰原ちゃんが押しです? 理由? ロリっ子だからに決まっているじゃないですか
扉を抜ければ、もうこちらの勝利は確定したようなモノだ。
ルシファルス家初代当主という顔も名前もしらない男が作ったこの屋敷は『不壊』的な魔術が『付与』されているのか、外界からの一切合切を遮断している。
必然、ディフェンスが醸し出す瘴気の影響は無いだろう。
それにこの屋敷は砦にもなり得るし、ひとまず『老竜』やその眷属たちのサイズからして侵入することいは容易ではないだろう。
諦めるわけではないし、あくまで休憩目的だ。
屋敷の設備を巧みに利用できればデファンスを打倒できる可能性も十分存在する。
「――俺を逃がしたことをせいぜい後悔しろよ、デファンス」
「――――」
俺の背中を追いかけるデファンスをせせ笑い、俺は扉を締め切った。
「はぁ……とりあえず、これ一安心だな」
浪費した魔力を補充するために喉を潤しながら魔力回復ポーションを飲み干し、俺はそう嘆息する。
現状、デファンスがこの屋敷は破砕する気配は見られない。
とりあえずこれで一男逃れたようだな。
「――ヴィルストとの合流が先決だな」
現状俺にはこの屋敷へ足を踏み入れる権利こそあるも、当然まだまだ就職一か月の俺に信頼を寄せる筈がなく、故に機能を発揮することはできない。
ヴィルストとの合流が現状最優先事項か。
ヴィルストが居座る部屋が意外と限られている。
そもそもの話この屋敷にそびえたつ部屋のほとんどがハリボテであり、部屋としての機能を果たしていない。
俺もようやく慣れてきたが、初心者には目的の部屋まで向かうことすら覚束ないだろうし、事実俺も彷徨った。
脳内地図を辿り、俺はヴィルスト所在地候補地の一つ、執務室へ向かった。
ヴィルストは紛うことなき『四血族』の一員であり大貴族である。
ヴィルストがこの騒ぎに気が付いていない可能性も結構少ないと思うが、それでもい外界の干渉の一切を拒むこの屋敷ならまだ有り得る。
望みをかけて、俺は執務室へ続く扉を開いた。
「……チッ」
しかしながら眼前に広がっている光景の中には誰一人として生ける生物が存在せず、ただ乱雑に書類が散らかっていた。
悪態を噛み殺し、次の部屋へと向かおうとした瞬間――違和感。
「散らばっている……?」
ヴィルストはそのキャラに違わず書類などは綺麗に整理整頓する男だ。
俺としては怠惰な姫さんにヴィルストの爪の垢を煎じて飲んで欲しい。
その情報を知っているからこそ、俺はその違和感に気が付くことができた。
何故、散らばっている?
それだけ切羽詰まった状況。
もしくは――身内にしか伝わらない、何かのメッセージ。
「――ッッ」
俺はヴィルストの隠された真意に従い、乱雑な書類を漁る。
しかしながら何度も書類を食い入るように凝視しようと俺に理解できるような暗号など何一つありやなかった。
(俺の考えすぎか……ん?)
ふと、適当にぶちまかれた書類の上に乗る辞書レベルの分厚さを誇る、やたらと仰々しい本が俺の視界に入った。
その本自体は何の問題もない。
俺が気にしているのは――その辞書に挟まった一枚の付箋。
「――――」
俺は何かに導かれるように付箋を手に取り、それを確認した。
――『逃げろ』
整った筆跡が定評のヴィルストにしては、やけに荒々しく描かれたその三文字を目にした瞬間、様々な修羅場により培ってきた警鐘機がけたましくサイレンを響かせた。
――不味い。
何が不味いのか、その詳細は理解できないが、それでも何か異常事態が巻き起こっていることだけはただ漠然と理解できていた。
何かを行動に移そうと本能がそう提言した時には何もかもが手遅れであったことを、俺は数秒後悟。
そして――世界の情景が切り替わった。
「――。 おや、久しぶりだね、ゴミ屑君」
「――――」
相も変わらず自己主張が激しい太陽が放ち燦然とした陽光がテラスによって遮られ、その雪のように真っ白な肌を死守する。
その異常事態に戒杖刀を構えながら、俺は静かに目の前で悠然と場にそぐわない態度で紅茶を飲み干す幼女を睥睨する。
「――どういう了見だ、『黄昏の賢者』ッッ‼」
俺は凄まじい怒気を放ちながら、幼女――『黄昏の賢者』メィリ・ブランドへ啖呵を切った。
「さぁね。 ただ一つボクが言えることは――この場所こそが、キミの死に場所となる。 ただこれだけだよ」
「――――」
死に場所……ね。
推し量るに、この屋敷に備わった『転移』と『空間歪曲』を核を弄ってこのように自由自在にしたのだろう。
その方法自体は割とどうでもいい。
どうでもよくないのは――、
「退路を塞ぎ込んだってこったぁ」
「正解だよ。 キミは人間としての矜持なんて何一つない愚物だからね。 主からの伝言だ――『是非とも、楽しんで欲しい』と」
「けっ。 前から思ってたんだけど、お前も『厄龍』も性根見事に腐りきってるな。 お仲間じゃないか」
「キミには劣るよ。 ――さて、状況は理解できたと思う。 ……克服勧告は不毛そうだし、今度はちゃんと殺す」
「ハッ。 この局面を見越しているからのあの『誓約』かっ。 単にわが身可愛さにあんなヘタレな契約を結んだと思っていたが、少しは見直したぞ、クソ賢者」
「好きなだけ囀るといい。 なにせこれが人生最後なのだから」
「寛容なこったぁ」
実を言うと、退路が防がれたとはいったものの、俺の【天衣無縫】を使えば容易にこの領域から突破できる。
現状俺はメィリと敵対することは『誓約』によって叶いやしないが、それは逆説的に敵対しなければいいだけのこと。
反撃すらも禁止されているとはいえ、それでも回避すること程度なら容認されているはず。
ならば――十分勝機がある。
この高原からの脱出を果たした後はヴィルストと合流して――、
「――残念だねぇ」
「――ぁ」
体の内部を無遠慮に鉄ヤスリで撫でられたかのように、そんな激痛と共に俺の胸部から黒塗りの刀身が生える。
そう、漆黒の刀身だ。
過去、それも数分前俺はその刃を見たことがある。
それの所有者の名は――、
「ゲームオーバーってやつだよ、スズシロ・アキラ」
近衛騎士最強の男、レイド・アレスタである。




