騎士の矜持
多分、ルインよりも【円卓】の面々の方が設定多いと思われます
それもこれも、【円卓】が中二心をくすぐるから悪いと思います!
「――――」
激震が、迸る。
それは突きつけられた無理解に愕然としている俺らを叩き起こし、正気のままでこのふざけた光景を直視させるかのように。
そもそも何もかもが、不明瞭だ。
王都に何らかの脅威――それも厄災レベルのモノが迫っていることは周囲を漂う異質な瘴気から薄々察することができる。
だが現実は仮定した最悪の予想を遥かに上回る自体だということに、この時俺はようやく気が付いたのだった。
「――――!」
「ッッ――」
これだけ禍々しい気配から距離が離れているのに、その方向は間近で耳元に囁かれたように容易に鼓膜を震わせた。
その咆哮は『音』だというのにも関わらず激震を伴っており、いつ鼓膜が破けても不思議ではないだろう。
「おいおい……一体何なんだよっ!」
「……………………来るぞッ!」
物静かなレイドにしては珍しく声を荒げたその直後。
――視界を、金色が覆った。
「――――ッッ!」
本能的に抜刀していた戒杖刀を振るわなければ一巻の終わりだっただろう。
何の前触れもなく俺たちへと飛来した万雷を、俺は今日に至るまで染み込ませた技量を以て迎撃する。
刃は刀身が触れられる最大面積で雷に接し――反転させる。
どうやら雷自体が一つの個体扱いされたのか、魔力によって編まれた万象を反転させる鮮やかな蒼の刀身は術師へと余すことなくそれを跳ね返した。
「レイドさん、得物は?」
「……………………無論、持ち合わせている」
「――――」
そして生じた一瞬の暇に、レイドは懐に隠し持っていた鞘から黒塗りの刀身を抜き去り、洗練された動作で構える。
最低限の時間は稼げた。
現状、襲撃者の情報の一切合切が不明。
しかしこの惨状からして、まず間違いなく無関係なんていうことはないだろうと赤子でも理解できるだろう。
「……………………軽率に距離を詰めるな。 まずは相手の全容を少しでも読解しろ」
「――。 了解」
焦燥感に突き動かされないように感情を制限し、俺はジッと眼前土煙を巻き上げる高層ビルさながらの建築物を睥睨する。
襲撃者、そして国境ごしにでも伝わった禍々しい気配の主はまず間違いなくこいつだ。
レイドはその瞳に宿る激情を何とか堪えながら、それでも最低限騎士としての品位を維持するように声を張り上げる。
「……………………敵対の意思が無いのならば刃を納めよ。 これ以上の狼藉、近衛騎士として到底見過ごすことはできん。 投降するのなら、それなりの待遇は保証しよう。 だが、貴様のその刃が王国の民へと振るわれるのならば――俺は、貴様のその蛮行を見過ごすことはできん
「――――」
返事は――無い。
お飾り同然の交渉ともいえない交渉は失敗に終わったようだ。
まだ全容の確認はできていないが、それでもこの襲撃者による被害者はそこらの災害よりも断然酷いだろう。
最悪、国としての機能が失われ兼ねないこの状況。
――そもそも、それだけの蛮行をやっておいて、すいませんで許されるはずがないのだ。
実際に見てきたわけではないが、『付与魔術』だなんていうチートさながらの相伝魔術を保有するヴィルストがいるのならばシルファーの心配は不要。
ならば――俺が、否俺たちが成すべきことは既に魂から理解できている。
「レイドさん、連携はできますか?」
「……………………残念ながら、個人戦法が常だ」
「そうっスか。 なら最低限互いの刃が刺し違えないように注意してください。 それと、治癒アイテムは」
「……………………無論、秘薬ならば腐るほどある」
「それは重畳。 ――俺たちで片付けますよ」
「……………………至極当然、それこそが騎士としての責務だ。 誰に言われずとも、騎士ならば誰もがそうする」
「ですよねー。 なるべく死なないでくださいね?」
「……………………必然っ」
と、決意を固めていた直後再度上空から垂直に万雷が文字通り雨のように降り注いでくる。
その雷に宿った魔力量は『賢者』ですら身震いするであろうほど。
追尾なんていう面倒極まりない可能性も視野に入れながら、俺とレイドは一斉に散らばっていった。
どうやら俺の懸念は杞憂だったようで地面で撃沈した万雷は獲物を追いかけることなく接地の瞬間周囲へ発散し消えていった。
その光景を見届けながらも、俺たちが向かうのは一点。
――即ち、万象の諸悪へと。
「……………………覚悟っ」
「ほわっ」
そう短く呟くと、レイドは電光石火が如き速度で気配の主へと駆ける。
(ひぇっ。 一体どうやったらあんな速力出せれるんだよ……!)
レイドの常軌を逸した瞬発力に戦慄しながらも、俺は頭上へ迫りくる万雷を軽やかに避けながらも気配の主へ向かう。
幸い気配の主はそれ以上の激烈な迎撃をすることなく、いっそ誘っていると錯覚しそうになるほどに手薄だ。
……明らかに誘導されているな。
だがまず間違いなくこの禍々しい気配を無遠慮に周囲へ放っている存在こそがこの異常事態の元凶であるとみて間違いないだろう。
故に引き下がるわけにもいかず、何とか迎撃に耐え気配の主が待つ建築物に入り込むことができた。
「――。 よし、侵入成功っ!」
「……………………油断するな」
「流石にこの異常事態の中油断できるほどの男じゃねぇよ俺は。 ――それよりも」
俺はそっと目線を眼前の獣へ向ける。
そう――襲撃者は紛うことなき獣畜生の類であった。
硬質な鱗は鋭利な刃のように艶があり、容易に削り取ることは叶わないだろうと遠目でも察することができる。
頭部には歪曲した禍々し二本もの大角が生え渡っている。
その身に纏う鬼気は並みの戦士ならば即座に失禁しているだろう。
――それは『龍』と呼称すべき存在であった。
「――愚かなる人間に、死の裁きを」




