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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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惨状


 ザ・狂気☆











それから、俺とレイドは何ら会話を交わすことなくただ淡々と大地を駆けて王都へと向かっていった。


 無鉄砲さに定評がある俺でも流石にこの空気で下ネタを堂々と挟むことは不可能だよだよ。

 そう自己弁論しながら俺は手元の瓢箪に魔力を加える。

 ちなみに、対異形戦で皆勤賞をとった『鬼喰』は現在行方不明だ。

 俺が発見されたのは瓦礫の中。


 そもそも発見されたこと自体が奇跡同然だし、これ以上の高望みは不毛か。


 というわけで現在俺は戦力強化に勤しんでいる。

 虎の子を失った以上、それを補ければつりあいがとれないからな。

 俺の『蒼海』は決して万能とは言い難い。

 そこらの水面を操ることはできずに、本家と比べれば燃費も最悪。


 どうやら俺はとことんガイアスと適性がなかったようである。


 俺の――正確にはガイアスのだが――魔術『蒼海』を瓢箪内の水溜まりに付与しながら変わり映えのない景色を眺めている。


「――――」


「――――」


 ……しっかしなぁ。


 この可もなく不可もない曖昧模糊な空気。

 これは流石に居た堪れない。

 かといってこの空気でまた奇行をしてしまうと確実にレイドから「何度コイツ」と軽蔑の侮蔑の眼差しを向けられるので自重する。


 そんなこんやで気まずい沈黙が体感時間で数時間は維持された時。


「――。 アレは……」


「……………………王都の防壁だ」


「ふぅん。 結構早かったな」


 誰かへ向けたというよりかはただ漠然と呟かれた俺の独り言に今の今まで口をつぐんでいたレイドが説明した。

 広がっていたのは不動なんていう形容詞が似合いそうな城壁だ。


 かつての『老龍』やその眷属たちの侵攻のなごりか、城壁を構成する物質には微かな魔力を帯びた特別性であり、並大抵の魔法ではとてもじゃないが崩すことは不可能だろうと容易に察することができた。

 城壁は王都全土を囲っており、厳然な雰囲気を醸し出している。


 成程、確かにこれならばあの龍の進撃にも耐えうるモノだろうな。


 だが感じるこの異質感。

 断定はできないが十中八九なんらかの魔術が付与されているだろう。

 そして、時代的な観点からもおそらく我が主ルシファルス家が関わっている可能性が非常に高いだろう。


 この城壁はおよそ二百年もの間不滅であり、この鉄壁が崩壊するのならばそれは国が滅ぶことと同義だろう。

 そしてその頑強さは年々技術の躍進によって強靭化している。

 

 だが――、


(何だ……この禍々しい気配)


 例えるのならば、黒板を爪で無作為に引っ搔いた際に生じるあの不協和音だろうか。

 脳を細い針で弄繰り回されるかのような不快感。

 何よりこの距離からでも容易に察せられる莫大な魔力。


「……………………急ぐぞ」


「――了解」


 より一層脚力を強化し、俺たちは押しかかる不安と焦燥感に苛まれながらも前へ前へと愚直に王都へと駆けていった。
















 再来の王都の惨状を一言で形容するならば――醜悪。


 城壁へ近づくにつれていよいよ存在感を増す禍々しい気配に眉根を寄せながら俺たちは門番へ声をかけるが、幾ら叫んでも応答の声一つも無い。

 仕方がなく門を強引に開き、その先に広がっていた光景を目にした瞬間堪えがたい嘔吐感が込み上げてきた。


「――――」


 悲鳴、慟哭、絶叫。

 その全てともとれる声帯を限界まで震わせた、決して人間が口に出してはいけない不協和音が響き渡る。

 そしてそれを発していたのは――人間だった。


「――ぁ」


「――――」


 眼球は血走っており、その嫌に生々しい目玉は誇張抜きに一昔前のギャグ漫画のように歪に骨格から抜き出ていた。

 苛まれる激痛に堪えるためか、その皮膚には何度も何度も執拗に己の体を引っ掻きました傷跡が刻まれていた。


 その双眸に移りこんでいたのは――紛れもない狂気。


 これが人なのか。

 もしそれが人間だとして、今堪え難い悲痛に声にならない絶叫をあげるその姿は、果たして人間と定義できるのか。

 完全に常軌を逸した光景を俺はただ愕然と食い入るように見つめる。


「何なんだよ、これ……」


「――――」


 傍らのレイドも想像の埒外の光景に目を剥き絶句している。

 ふと――不意に俺はその異常事態の一端を理解した。


「――げほっ」


「――――」


 鮮烈な光景に肺から何かが込み上げる。

 口元を手で覆った俺は――直後、手元の光景を一瞥し絶句していた。


「――ぁ?」


 鮮血が、俺の左腕を湿らせていた。

 次の瞬間、体内から形容し難い激痛が俺を苛んだ。

 体を無遠慮に毟り取り、傷跡を適当に抉られるような、そんな苦痛。

 

「――【天衣無縫】ッッ」


 身体に生じた異常事態に、即座に魔術を構築する。


 俺の体を苛んだ劇毒は存在否定の魔術が付与された魔力によって消去される。 

 そのまま「毒への反応」という概念を取り払い、何とか狂気に支配される一歩手前にまで踏みとどまった。

 不味いな……今の、少し行動が間違えれば確実に死んでいたぞ。


 ついでにレイドの内にも宿っているであろう劇毒を否定する。


「……………………済まない」


「この礼は利子も含めてちゃんと払ってくれよ。 さて――何が起こっていやがる?」


「――――」


 直後、俺の疑問に答えるかのように世界に激震が走った。





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