仮面の大鎌
リゼロ見て、白髪の強欲担当への嫌悪感が加速しました。
一応、『強欲』の単語はこの物語ともそこそこ縁がある予定です。 多分、きっと。
姫さんを抱えながら俺は猛烈な勢いで一本道を駆ける。
「決して通すな! 死んでも守れ!」
「捕虜を奪還せよ!」
「チッ……面倒なことをっ」
背後、野太い怒声が木霊する。
(やっぱ見つかったか……)
まぁ、姫さんを助けるついでに警備員も大勢殺した。
それが耳に入らなかった、なんて都合のいいことはないのだろう・
あー、面倒臭い。
もうちょっと楽させろよ……
俺はそう悪態を吐きながら自分を魔力を操作する。
どっかのお嬢さんのせいで今は両腕が使えない。
駆除するなら遠距離攻撃が望ましいだろう。
だから――!
「ぶっつけ本番だな! ――蒼海乱式・〈龍穿〉」
そして、空中に数えきれない程の水滴が舞った。
「それがどうした!」
「煩さいな……。 もうちょっと声のボリューム下げろよ。 まぁ、これが無意味かどうかは喰らってから判断しろよ――〈礫〉」
「なっ――」
空を舞っていた数多の水滴が一斉に蠢きだす。
標的はもちろん今まさに襲い掛かろうとしている男たちだ。
刹那、宙を浮く水滴――否、弾丸が男たちの四肢をほぼ同時に貫いた。
「おっ、意外とノープランでも何とかなるもんだな」
「き、貴様今何をした……?」
「おっ。 その反応いいね。 やっぱり無双モノはこうでなくちゃ」
――蒼海魔術
ガイアスに宿った魔術は「蒼海」。
端的に言うと水魔法の超パワーアップバージョンである。
当然、無茶クソ強い。
その能力は液体の操作。
液体を自由自在に操ることが可能で、例えば水を操作し液状の槍を作り出すことまでできるらしい。
しかも魔力で構築しているのか殺傷能力も抜群。
そこらの兵士が喰らったらその変幻自在な形状故に、いいように翻弄されるであろう。
我ながら本当に厄介な魔術だ。
俺ですらちゃんと回避できるか怪しい。
それと並の警備員である彼らが避けられるはずがなく、彼らは力なく崩れ去っていった。
「……何ですか、その力は?」
「説明しても分からないと思うから説明しない!」
「…………」
背中から「私、不満です!」的な視線が伝わってくる。
当然、拒否する。
だって絶対長くなるし。
やっぱ黙秘が最善だわ。
それに話してもなんも利益を感じられんし。
(ん? この気配は……)
直後、猛烈な一撃が俺を襲った。
「ッッ……! 痛ぇな、オイ!」
俺はインパクトの直前、全力で後退することによりなんとか直撃を免れる。
だがそれでも全部は回避できていない。
相手の武器は……鎌か。
随分と大振りな鎌だ。
その大鎌を操るのはその身をローブで纏った仮面だ。
うん、どっからどう見ても不審者だわ。
流石に今のは強くしすぎだと思う。
「……さて、そこの仮面。 何でもするからここを通してくれないか? あ、なんでもするのは通してもらった後だ」
「……モエロ」
その声は、まるで合成音声のような無機質なモノだった。
直後、俺ですら包み込んでしまうような巨大な火の玉が俺の視界を覆い尽くした。
「おいおい……流石にデカすぎだろ!」
蒼海魔術は数秒程度の時間が必要だ。
とてもじゃないが間にあわない。
蒼海魔術以外、これといった防御手段がないので、取るべき選択肢は非常に限られている。
「行くぞ――〈戒杖刀〉!」
俺は空収ボックスから秘蔵の刀を取り出した。
俺の魔力かガイアスの魔術かは知らないが、その刀身は鮮やかな蒼色に染められてる。
そして俺は、それを火炎の渦が俺へと直撃する瞬間、全力で振るう。
「――〈乱反射〉!」
次の瞬間、この世界の理がたった一閃により反転する。
炎玉は戒杖刀に触れた直後、物理法則を完全に無視してその進行方向を術者である仮面へとチェンジ。
再び火炎の渦は猛烈な速度で仮面へと加速していった。
そして、轟音が鳴り響く。
「……ま、そりゃあ無傷だわな」
俺は無理に支えていた右腕が抜けたことにより転倒しそうになっていた姫さんを担ぎながらそう悪態を吐いた。
煙が晴れるとそこには無傷の仮面の姿が。
というかローブすら燃えていないぞ。
一体どんな仕組みなのやら。
しかしこいつ、中々やるな。
もしかしたら〈プレイヤー〉の一味なのかもしれない。
「バセロ」
その言葉が吐かれた直後、急激に地面が膨張する。
そして――仮面の言葉通り地面が爆発する。
「チッ……!」
戒杖刀の性質は触れた魔術魔法の軌道を反対にすること。
爆発事態は防げる。
なら、爆風は?
答えはノー。
無理だ。
〈乱反射〉の発動条件は魔法に触れること。
当然、全方位から襲い掛かる爆風全てを触れることは不可能だろう。
なら、全て防げばいいだけのこと。
「――蒼海乱式・〈波状壁〉」
俺の魔力に合わせて液体がドーム状の城壁を作り出す。
爆風が俺へと猛烈な速度で襲い掛かるが、それでもこのドームを壊せるほど強くはない。
結果、無傷な俺は再び仮面へ対峙する。
「――土葬か火葬、どっちがいい?」
「――̪シネ」
そして、火炎と水流が荒れ狂った。




