知らない部屋だぁ!
まふまふさんの安定の可愛さに執筆作業中も癒されております。
萌えるー(´・ω・`)
「……………………起きろ」
「――。 ん?」
暗転していた意識が急に浮上する。
暗闇に閉ざされていた視界は太陽でも浴びたかのように鮮烈な光を認知した。
だが、そのどこか心地のいい目覚めは力強いビンタとしか思えないような容赦情けない痛覚によって遮られる。
そして――遂に俺はその瞼を開いた。
「……此処は?」
「……………………覚えていないのか?」
「お前は――」
そして何の断りもなく俺の視界へ侵入してきたのは黒衣をその身に纏った艶やかな黒髪の長身の青年だ。
周囲を確認してみるとレンガのような素材によって形成された壁が俺を包囲している姿が確認できる。
俺は黒衣の男――レイドへ問う。
「あんた……今までどこで何をしていたのさ」
「……………………極秘任務だ。 故に誰にも看破されず、行方不明という形となった」
「あぁ。 そういうこと。 ちなみにその極秘任務とやらの詳細は――」
「……………………言うまでも無く、口外厳禁だ」
「さいですか」
俺は少ししょんぼりしながら無警戒にベットから飛び降りる。
だがもちろんその実は心底隣に立つレイドを警戒していた。
そもそも、どうやって俺を発見したのか。
屋敷の核から辿ったか?
あの洞窟には屋敷の『転移』機能で言ったから、あながち間違っていないんだろうけど、どうも間違っているような気がする。
そんな心のさざめきはさておき、まずは情報収集を。
「俺、何日倒れてた?」
「……………………少なくとも、俺が見つけてから三日は目を覚ましていないな」
「マジか……」
「……………………あぁ。 大真面目にだ」
「そうっすか」
しっかし、確かに左腕が失った激痛に苛まれ、遂にそれに耐えきれず意識を手放したとはいえ――、
「…………レイド君。 一つ聞きたい」
「……………………何故自分から目を背ける」
「現実逃避ともいう」
まるでドラマさながらのセリフを吐くレイドの言葉通り、俺の視線は座標の判別ができないレンガ造りの家に備われた窓に外の景色に向いている。
あぁ……太陽が燦然と輝いていて、のどかだな……。
「……………………お前の左腕なら千切れたぞ。 状態が余りに悪く、切断された腕は既に腐敗が始まっていた。 おそらく再生は至難の業だろう」
「ああああああああああ‼‼」
言った!
人が必死に目を背けようとした事実をあっさりとこの男告げちゃった!
だが、こうしていつまでもレイドの言葉通り現実から逃避するのもあんまり良くない傾向だと思いなおし、意を決して己の左腕を見て――、
「あっ。 お疲れ様です」
無惨にも抉られ、隻腕となった俺は余りの残酷な光景に再度意識を手放した。
「……………………お前の心情はよく分かる」
「ふぇんっ。 分かってたまるかよ。 そういう台詞は、俺と同じく隻腕属性を、付けてから言えよ」
「……………………無理難題」
「自分が自分で一番自覚してますぅ」
「……………………なんとも腹立たしいな。 思わず殴りたくなる」
「喜怒哀楽に欠けてそうな顔つきの君には流石にそういう気持ちはあるんだね。 関心したよ。 だからその拳で俺の豆腐メンタルに止めを刺さないでくれるかなぁ!?」
「……………………ふんっ」
「うぼっ」
なんだかこの世界ではガバルド大団長といい月彦といい安吾といいガイアスといい、殴られてばかりの人生を送ってきがする。
自分のことが自分で哀れに思える有様である。
ちなみにかつて左腕が生えていた左肩はかなり無惨な状態となっている。
出血こそ収まってはいるが、それでも肉が盛大に抉られた跡は健在であり、少年少女が見たら確実にトラウマレベルである。
なんだか一瞬、『隻腕の騎士』なんていう格好いい二つ名が思い浮かんだ。
とういうか俺って果たして騎士と言えるのだろうか。
少し前ならばともかく、現在俺は主であるはずのシルファーの記憶に存在しておらず、それこそ立場がかなり危うい。
最悪このまま放免なんていう可能性もあるのではないか。
「……………………お前、随分と余裕そうだな?」
「この切羽詰まった顔が余裕綽々と? あんたのその双眸はお飾りですかと問いかけたい」
「……………………茶化すな。 それとも、それすら演技なのか? 本当は、何の痛痒にも感じていないくせに」
「嫌だなー。 俺だって痛いのは嫌だし隻腕なんて戦いにくいからショック受けてるんだぜ? そういう言い方はちょっとないんじゃないのか? それよりもっと慰めてくれないわけと問いたいなぁー」
「……………………お前は、薄っぺらいな」
「――。 やれやれ。 難癖もよしてくれよ。 人より喜怒哀楽の感情が強く出やすいこの俺に何を?」
「……………………認めないのならば、それでいい」
「――――」
「……………………だが、俺からしてみればお前の生き方は、少し窮屈すぎる」
「――勝手なことを」
好きでこんな生き方をしてると、思わないで頂きたいと啖呵を切りたいが、それはちょっとばかり不合理的だ。
今はただ、肯定も否定もせずただ口をつぐむこととしよう。
「――さてはて。 それはそうと、此処は?」
「……………………村だ。 割と王国とは近い。 お前を拾った時、この村以外に近隣の住宅地は存在しなかったからな。 大金をちらつかせたら、呆気なく協力してくれたぞ」
「へぇ。 金には勝てないな人類」
「……………………同意見だ」
「案外、気が合いそうじゃないか」
レイドは心底嫌そうに顔を歪ませ、そして告げる。
「……………………さぁ。 王国に向かうぞ」
「――了解」




