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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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降り注ぐ隕石


 長くし過ぎました。 だが反省はしていない











――最大限の魔力を、最適解の効率で吐き出す。


 言うだけは簡単なことだが、実際にやってみると人間割と無駄が多く、完璧な効率で魔術を発動するなどまさに眉唾話である。

 だからこそ、妥協して、最適解の一歩手前の効率で魔力を練り上げ、その大槍を作り出す。


「――いくぞ」


 虚空に現れた大槍は凄まじい巨躯を誇る異形であっても十分武具として扱えるレベルのサイズへと変貌を遂げている。

 本来、温度調節魔術はその名の通りただ愚直に物体の温度を操作する魔術であるが故にこのように自由自在に操作することは叶わない。


 だがそれにアキラの『蒼海』が交わることにより、大槍は鳥のように空を飛翔する。


 破砕音。


 次の瞬間、大槍の輪郭がブれ、音速さえもゆうに超越した猛烈な速力でアキラの行く道を塞ぐ岩石を砕く。

 先陣を切った大槍に続き、アキラも魔力で重点的に脚力を強化しながら疾風と化し愚直に前へ前へと進みいく。


「させぬっ!」


「ま。 やっぱりそう来ちゃうよなぁー」


 だが凄まじい速度で進むアキラの背後の岩石が蠢き、雪崩のように殺到する。

 流石に大槍も背後にまでは手が届かないので、必然的にその対応はアキラが担うこととなってしまう。

 

「チッ。 面倒なっ」


「――――」


 現在、アキラの魔力は、大槍を生成と身体強化によりなけなしとしか言いようがない量なのである。

 だがそれでも、アキラには神代武器の精鋭中の精鋭、『鬼喰』がある。

 この太刀を駆使すれば十分背後から迫りくる雪崩を一蹴することは可能だ。


 だがしかしそれを実行すれば確実にタイムロスとなってしまい、大槍で抉った大地の障壁の再生が追いついてしまう。

 なるべくこれ以上無駄に魔力は浪費したくないというのが本音なので、アキラとしては無視するしかなかった。


 背中から迫る雪崩に冷や汗を流しながら、アキラは頬を引き攣らせ突っ走る大槍に置いて行かれないように疾走する。


 が――巨人の英雄がこれ以上の接近を許すはずがない。


「――『隕』」


「おいおい……そりゃあ反則だろうがい……!?」


 ――刹那、アキラを漆黒の影が覆いつくした。


 額から汗が噴き出て、恐る恐ると上空を見上げると――隕石が、落下していた。

 

 アキラへと上空から降って沸いた隕石の全長は東京ドームを覆いつくす程で、まず回避不可能だということは一瞬で理解できた。

 嫌な予感が的中し、焦燥感を隠しもせずアキラは猛然とこちらへしてやったりとばかりに薄く嗤う異形へ抗議する。


「ちょっとあんた! 流石にこれはアカンでしょ!? それに、この範囲だとお前も絶対巻き添え喰らうぞ!?」


「私は大地へ前天的に凄まじい耐性を保有する巨人族、それも英雄だと謳われた男だぞ? この程度、何の痛痒にもならない」


「クソがぁ――!」


 獣のようにアキラが吠え、次の瞬間大空から降り注ぐ隕石が荒れ果てた大地に盛大なクレーターを刻み込んだのだった。
















「――。 流石に、死んだか」


 一人、瓦礫だらけの洞窟に落ち着いた低音が響く。


 巨人族を除き例えどのような超人であってもあれだけの物量を真面に喰らって生きていられる筈がないだろうと確信できる。


 しかし、先刻の隕石の激烈な衝突によって、万が一のためにと控えていた主――『亡霊鬼』の下僕の大半が血飛沫を巻き上げ散っていったが、それがどうしたというのだ。

 己が強者たることを証明する。

 その礎となったのならばむしろ名誉のある死だったと言えるのだろう。


「――その考えは、ちょっとばかり『傲慢』過ぎるぜ」


「なっ――」


 絶句。


 本来聞こえる筈のない声色が鼓膜を揺らした事実に愕然とする異形へ、人影――アキラは容赦のなく『鬼喰』で薙ぎ払う。

 咄嗟に巨体が反応し、深紅の刃が触れる地点を致命傷となる場所から避け、その代わり再び右腕が千切れる。


 再度襲い掛かった吐き出しそうになる激痛に顔を歪ませた異形へ、更にアキラは回転し遠心力を上乗せした蹴りを加えた。

 とても生身どうしが衝突し合ったとは思えないような金属音が轟き、その威力に異形は血反吐をぶちまける。


「何故――! 何故貴様は息をしている!?」


「息をするのがそんなに可笑しいことか?」


「さっさと述べろっ」


「……自覚してるロリババアも無自覚に『管理者』の仕事担ってる奴ってこんな傲慢な奴なのかなぁ……ちょっと引く」


「――――」


「分かった分かった。 教えてやるよ。 だからさぁ、そんなに睨むなよ。 俺みたいなか弱い奴が睨まれたら漏らしちゃうぞ?」


 無言で殺気を放つ異形を嘲笑いながら、クスクスとアキラはしたり顔で自慢するかのように説明する。


「俺の魔術、知ってるだろ? 『消去』」


「――ぁ」


「俺がやったことは単純。 ただ単に俺の周囲を存在否定の魔術が付加された球体で覆ったんだよ。 意外と難しいんだぞ? 術師である俺ですら触れると消えちゃうから、中に空洞を作る羽目になっちまった。 まぁそれのおかげでだいぶ魔力消費は抑えることができたけどネ」


「成程……失念していた」


「そういうところが、お前らが『傲慢』たる理由。 もうちょっと考えを張り巡らような? まあちょっとブーメランなんだけど」


 ふてぶてしい態度で頭を掻いたアキラは、『鬼喰』を構えながら淡々と語る。


「お前が強ぇのはその六腕が由縁だ。 つまること、その腕を全部切り落とてしまえば何の問題がないわけよ」


「貴様には、それができるというのか?」


「当然。 油断も虚勢もなくマジよ? この程度の難解、『本番』に比べたら比べることさえおこがましいよなぁ」


「――。 殺す」


「殺してみろ。 ――その前に俺があんたを殺す」


 そして、魔力の奔流が吹き荒れた。



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