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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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裏表


 キレそう












 ――そして、メィリはニヤッと見下すように嘲笑を浮かべた


「――正解だよ、ゴミ屑」


「――――」


 突如、メィリを纏う空気が一変した。


 先刻までは少しわざとらしくはあるが、それでもまだ常識人の域を遺脱することはなく、理知的な印象であった。

 だが眼前でニタニタと気味が悪い笑みを浮かべるいたいけないっそ無邪気な邪気はその印象を吹き飛ばす。


 観念したか。

 

 ――断じて、否。


 この嘲るような気配は、とてもじゃないが諦観の雰囲気は感じられず、そればかりか俺を見下すような目名指しを向ける。

 

「とうとう開き直ったか、『賢者』(笑)」


「流石にこれ以上は誤魔化せないよね。 これ以上は不毛だよ。 ――だから、決着をつけよう」


「――ほぅ」


 そういえば口調も先ほどまでのお嬢様口調から今はルインの言葉遣いに似ている節がある。

 これが奴の本心か、それともこれすらも演技か。

 可能性は五分五分といったところか。

 そう推測しながらも眼前で見るに堪えない下卑たる笑みを浮かべツメィリを睥睨する。


「それが、あんたの本性か? 今まで隠してたの?」


「さぁね。 キミに話す義務はないよ」


「ふぅん。 ――改めて聞くけど、認めたってことでいいよな」


「……不服ながらね。 キミのようなゴミ屑に見破られるとは、末代までの大恥さ」


「ゴミ屑、ね。 ボロクソ言うなぁ。 俺だって傷つく心だって当然ながらあるんだぞ? そこら辺淑女として考慮しような?」


「ボクを淑女? キミは冗談が下手だなぁ」


「誉めてる?」


「アッハッハ」


「その意味深な微笑みは何だよ、気持ちわりぃ」


 まるで哀れなモルモットでも見下すような眼差しで俺を見詰めるメィリ。

 ……なんとなく、メィリが短気な理由も見えてきた。

 この様子だと俺は当然のことそこらの有象無象はすべてゴミ屑と認識しているようだから、そんなゴミ屑に一矢報いられるのならばそれは屈辱なのだろう。


――なんとも、『傲慢』なことだ

















「それで? 決着ってどういうことだ?」


「ボクの正体を知ったキミには残念ながら灰となってもらうしかない。 ゴミ屑はゴミ屑らしくさっさと死になよ」


「俺がそれを引き受けるとでも?」


「――――」


 俺の魔術【天衣無縫】で消去できない存在などこの世界のどこにもないという確固たる自負が俺にはある。

 確かに初代『英雄』に決定打を与えるほどの強者である『賢者』殿を打ち倒すのは並大抵の労力では不可能だろう。


 だが――まず確実に消すことは可能。


 時間こそかかるが、逃亡でもしない限り、俺がこいつを仕留め損なうことなどきっとないのだろう。

 『賢者』の攻略方法は、既知ではないが、それでも、戦いながら学んでいけばいいだけの話である。


 その実力差を理解していながらも、メィリは「決着」と明言した。

 

 つまりその「決着」とやらは決して物理的なモノではないだろう。

 ならばなんなのか。

 メィリは外見不相応に嫣然と妙に艶やかな表情で微笑み――提案する。


「――スズシロ・アキラ。 キミと交渉がしたい」


「――――」


 物騒な殴り合いなどではない、舌戦の提案を。


「成程。 随分と物分かりがよくなったな。 俺みたいなゴミ屑と交渉なんかして恥ずかしくはないのか? ――それとも、その顔すらも演技なのか?」


「さぁね。 現状キミにそれを説明することによって生まれるリミットなんて有ってないモノなんだから、証明も説明もしないよ」


「ふーん。 面倒臭っ」


「あぁそうそう。 ――一つ、訂正だ」


「――――」


「キミの質問の答えはシンプル――たまらなく屈辱だよ。 今すぐボクの脳髄を引きずりだしたい気分さ」


「……それは結構なこったぁ。 だが、知ってるか? 古今東西、悪役は正義の味方に鉄槌を下されるんだぞ?」


「正義の味方? キミが? ――やっぱり、キミは冗談が下手だねぇ」


 誉めてる?

 いや、絶対貶して見下しているなと確信できる。

 俺は盛大に見せつけるように「はぁ……」と重苦しい溜息を吐いて見せる。


「――いいだろう。 お前のその誘い、乗ってやるよ」


「おや。 キミこそやけに利口だね?」


「ハッ。 単純な話、こんなところでお前なんかと面倒な耐久戦なんてしている暇もないし実利も一切ないんだわ。 だからさっさと話しを進めろよ。 まぁ変なことしたらそれはそれでぶっ殺すけどな」


「――――」


「さて。 互いの了承は得られた。 ――なら、さっそく始めるぞ」


「――。 そうだね。 キミのためにも、ボクのためにも」


「さいですか」


 諦めて灰同然となった紅茶で喉を潤しながら俺はふてぶてしい態度で返答する。

 それについてメィリは特に言及することもなく、彼女も淡々と己がついだ完璧なまで済んだティーを飲み干す。


「――だが、その前に一つ問おう。 交渉とは本来、対等な関係で成立する。 だが俺とお前は果たして対等と言えるだけの関係を築くことができているのだろうな?」


「――――」


「お前の裏の顔も知りなおかつ実力的にも上回っている俺が超優性だとみる。 ――なら、お前にそれを覆し立場を拮抗させるだけのカードが果たしてあるのか?」


「――もちろんさ。 ボクも勝算もなしにこんな危険な賭けに出るような愚物じゃない。 キミたちゴミ屑と一緒にしないでくれ」


「言っとくが俺はノーマルだから幾ら罵倒されても全然嬉しくないぞ。 ほら、もったいぶらずにさっさと言っちゃいなよ」


「――なら、何の気負いもなく」


「――――」


「――ボクがキミへ提示するカード。 それは、『創造魔術』さ」


 そう、『賢者』は嫣然と破顔したのだった。




 

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