ハッタリ
そういえば、メィリって実は五章で登場していたんですよね。
その時は完全に無口系ロリだったはずなのに、どうしてこのようなお嬢様になったのか首をひねっております。
ですが『賢者』様、次の話で更に変貌します。 コナンに登場する褐色白髪イケメンかよってカンジです。
「――それは、どういう意味ですか?」
「自分で考えろって本当は言いたかったんだけど、今回だけは特別に俺が教えて差し上げるよ。 感謝して咽び泣け」
「言い訳ですか?」
「そう焦るな。 ちょっと落ち着けよな」
「――――」
押し黙るメィリを横目に、俺は滔々と語る。
「そもそもの話、当初の議題を思い出してみな?」
「――――」
「俺が知りたいのは唯一。 お前が神威システムの闇を知り尽くしているかどうかだが――ようやく、確信を得ることができた」
「どういう意味ですの? また戯言ではないのですかね?」
「おいおい、幾らなんでもそれは、疑いすぎなんじゃねぇの? もうちょっと信頼して信用しろよっ」
「戯言をっ」
確かに、つい先刻堂々と何食わぬ顔で虚言を述べたしね。
逆に信じますとか言われたらそれはそれでドン引きだし、まず確実に罠の類なのだろう。
だからその反応は大正解。
「逆転劇を愉しみすぎてそこら辺の配慮を怠わっていたのか? まぁ何にせよ――お前、『神威システム』の存在知ってるんだよなぁ」
「――!」
「その反応。 大正解ってこったぁ。 まぁあんたの顔色を伺うまでもないんだけどな」
今更自分の失言に目を剥くメィリを、俺は実に満足した笑みで嘲笑う。
俺がメィリに嘘が看破されると分かっていながらも、何故『ルール』を根拠にして自信満々に高説を垂れてたのか。
その理由は至極当然。
俺の虚言を見破ったとメィリに錯覚させ――その警戒心の挟間に『油断』を生じさせることである。
油断は命取りになることは自明の理。
例えどのような実力差があろうが、相手を舐めて痛い目を見るのは大抵油断した残念極まりない奴って相場が決まっているんだよなぁ。
五分五分の賭けだったが――どうやら俺の描いたシナリオ通りに動いてくれていたらしいとほっと胸をなでおろす。
そしてこの失言によって、名実ともに根拠が出そろった。
後は唯くだらないミステリー小説のように振る舞えばいいだけの話だ。
「じゃあ聡明で頭脳明晰な『賢者』様に質問。 ――当然、『神威システム』の闇は既知の情報だったよなぁ?」
「何を言って――」
取り繕うとするメィリへ、俺は容赦なく追撃を加える。
「違うとは言わせないぜ? 『神威システム』も魔術も両方見知っていて、更にこれだけ考える時間がありゃあ流石に気が付くよなぁ『賢者』様ぁ?」
「くっ……」
『賢者』がこの高原に初めて訪れたのがおよそ数百年前。
そんな『賢者』を匿ったヴィルストのおっさんは今何歳だと問いだしたいが、残念ながら論点はそこではない。
『黄昏の賢者』メィル・ブランドは基本的に余程の有事でない限り現世に干渉しないと聞いている。
流石に、ある程度の外出は、その功績故に許されているはずだと思うが、それでも数百年の月日だ。
多少短気なこともあるが、それでもヴィルストが認めるその聡明さを持つ彼女がそれに気が付かないわけがないだろう。
そしてそれが確定されると同時に、また新たな疑問も生れ落ちる。
「――疑問だよなぁ。 ルイン、もとい『厄龍』を腹の奥底から憎む『守護者』の一員が、どうして戦争を終わらせず、逆にそれに加担してんのか?」
「――――」
『賢者』は有事の際にしか現世に干渉しない。
だが逆説的に考えると、有事の時はバリバリ干渉しちゃってるっていうことだ。
例えば初代『英雄』の手によって国が滅ぼされかけた時や、『老竜』が猛威を振るい世界が滅びかけた際。
それらの情報から導き出したメィリの立場――つまること、それは『管理者』と呼称すべき存在ではないだろうか。
「そもそもなぁ、戦争こそがエネルギー源だとしたら『平和』よりも最も危惧すべき事態が存在すえるよなぁ?」
「――――」
「安易に答えず、情報をこれ以上開示させない。 良い心がけだ。 じゃあ俺が代わりに説明してやるよ。 ルインが最も懸念する事態。 それは『平和』ではなく――『滅亡』だ」
「――――」
もし、『神威システム』のエネルギー源である生物が何かの拍子に全滅でもしたら、一体どうなる?
答えはシンプル、『神威システム』を維持させるために浪費していた燃料が切れ、システムが崩壊する。
折角『神獣』までも犠牲にして、作り出したこのシステムを、ルインがそう安易に手放すだろうか。
――断じて、否
ならばどうするか。
ルインが描く理想をあえて推し量るのならば、殺し過ぎずにシステムを維持できるだけの量を殺す。
滅ぼさずに平穏をもたらさない。
そんな面倒極まりないことを、果たしてルイン一人で可能なのだろうか?
それに世界は最低でも五つ以上存在する。
それをリアルタイムで管理するのは、幾ら人外な存在であるルインであっても相当厳しいだろうなと推測する。
そもそも多重する世界の現状を一人で把握するのは到底不可能。
――もし、俺がルインの立場ならば
一人で無理ならば複数で挑めばいい。
意味はちょっと違うが、三本の矢と同じ原理ではないのだろうか。
『神威』をちらつかせれば野心旺盛な奴なら容易に食いつくだろう。
――それにメィリが無関係だと、誰が断定できようか
「『黄昏の賢者』メィリ・ブラウン。 お前は――『管理者』だ」
「――――」




