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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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逆転劇


 今年の春アニメ、なまじき呪術が神アニメすぎたからだいたつまらなくなってしまう症候群

 呪術が規格外すぎるのが悪いです。











「――貴方は、嘘を吐いていますね?」


「――。 心当たり、無いなぁ」


「おやぁ。 立場が逆転してしまいましたね。 確かに、貴方が言う『探偵ごっこ』とやらは随分と興味深い遊戯ですわね」


「――――」


 メィリはまるで俺を焦らす暇を与えるように、ゆっくりと、あえて本題から離れ答えを先送りにする。

 どうやら、形勢はメィリに傾いたようだと一人勝手に推察する。


「さっさと言えよ。 言っとくが俺も誰かさんと違って暇じゃないんだからな。 そもそもの話、俺の言葉に嘘が無いということはさっき証明したはずだ。 現に俺は今五体満足で――」


「その過程こそが噓偽りと言っているのですよ」


「――――」


 ハッタリ、ではないな。

 こうも俺が危惧していたことをピンポイントで狙いを定めてくるってことは、どうやら懸念通りの展開になりそうだと内心で溜息を吐く。

 なるべく穏便に済ませたかったんだけどなぁ。


 まぁ、致し方ないかと無理矢理割り切ってみる。


 そしてメィリは、ついに迂遠に先回ししていたその本題の核心をついた。


「――貴方、魔術使いますよね?」


「……もしイエスだと言ったら?」


「同じ魔術師だからこそ理解できますが、「魔法」と「魔術」は一切合切が違いますよね。 その最もたる差異は――システムの有無」


「――――」


「魔術を扱う者は新米ならばともかく、貴方のように術式改変を扱えるレベルにまで到達した者は一人の例外もなくシステムからの干渉を受けません。 それは私も同じこと。 ――私が何を言いたいのか理解できました?」


「……あぁ。 この上なくな」


 俺は苦々しい表情でそう吐き捨てる。

 その反応を見た『賢者』はますます愉快そうに眼を細め、嗜虐的な微笑みを浮かべる。


「確かに、貴方が先刻宣言した『ルール』は何一つとして間違っていません。 ですがね、ご存じの通り『ルール』も魔法と同じくシステムの干渉によって成り立っているんですよ。 ――では、それから遺脱した者は?」


「――――」


「答えは唯一無二。 ――『ルール』から除外されるんですよ」


「――――」


「そして貴方が先刻私の魔術から身を守るため繰り出したアレ。 あの異質な現象は、まず間違いなく『魔術』なんですよ。 ――ここまで言えば、もうお分かりですよね?」


「……さっぱり分かんねぇなぁ」


「なら口をつぐむ貴方の代わりに私がそれを代弁しましょう。 答えはシンプル。 魔術師、つまりシステムの有効圏内外にいる存在が、果たしてシステムによってもたらされた『ルール』に適用されるのですかねぇ」

















「……やっぱ、こうなるか」


 諦観。


 俺は冷めた眼差しで眼前で年不相応に嫣然と微笑むメィリを睥睨する。


 この会談前にある程度シュミレーションし、その中で避けて通れなかったのがこの問題なのである。

 さっきメィリが言った通り、確かにシステムから遺脱した存在である俺に『ルール』が適用されることはない。


 推し量るに、メィリに俺が魔術師である確信を与えたのはあのテラスでの一件。

 メィリは俺の挑発についに堪忍袋の緒が切れ、あのような暴虐にでたのかと思い込んでいたが、それは本命の目的を隠す上でのブラフ。

 『賢者』は俺があの火炎を容易く防ぐと確信して、あのような行為を走ったのだ。

 

 そしてその行動はこのような形で実を結ぶ。


 俺がどれだけ声高に己が嘘偽りを吐いていないよと叫んだとしても、それを証明できるモノは存在しないのだ。

 説得力を有さなくなった前提条件は、ガラクタ未満の愚物の成り下がることとなった。


 どの部分に虚言や戯言が混じっているのか不明な故に、俺が発した言葉のどれもがくだらない戯言となるだろう。

 沈黙する俺を見て、好機と感じ取ったのかメィリの口撃は次第に苛烈さを増していく。


「己の言葉に嘘偽りの有無を証明できない以上、貴方の言葉はすべて空虚な妄想に過ぎません。 身勝手な言葉で私に難癖をつける。 ――実に醜悪ですわね」


「――――」


「謝罪の一つや二つくれてもいいのではないですか? それともそんな当然のことでさえもできないような愚者なのですかね。 全く、見るに堪えません」


 狩る者が狩られる者となり、立場は逆転していく。

 このまま聡明な『賢者』の逆転劇が続くと思われたその時。


「――クハッ」


「――?」


 嗤い声が、聞こえた。


 嘲笑うような、失笑するような、噛み締めるような。

 その笑い声の発生源であり俺を胡乱気に見つめるメィリ。

 俺は首を傾げるメィリにも十分聞こえるようにせせら笑い、したり顔で中指を立てる。


「アッハッハ。 ――本当に、想定外な程想定内だったよ」


「――? どういう意味ですか?」


「わかんないのか? だったらご愁傷様」


「――――」


 厳しい視線で俺を睥睨するが、今更クソガキに睨まれたからって腰抜かして逃げ出すほど軟な精神を持ち合わせちゃいない。

 俺は薄く嘲笑し、戸惑うメィリへ告げる。


「――どうして、思わなかったのか? こうなることをこの俺が想定していなかったってな」


「――――」

 

 一瞬、つい先ほどまで、己の優勢を信じて疑わなかった『賢者』の頬が盛大に強張る。


「――詰めが甘いんだよ、お前」


「――――」


 そして、逆転劇の逆転劇が今始まった。




 

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