表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
119/584

無の魔術


 ちょっと奮発しました。

 いつもより五百文字多いです。










「――魔術って、知ってますか? ……あっ。 そういえば相伝魔術なんてもの使うから知ってますよね」


「あぁ。 当然だよ」


 淡々と前方を歩くヴィルストがそう答える。

 まぁ、もしヴィルストが魔術のこと知らなかったとしても魔術初心者である俺じゃああんまり説明できないと思うが。


「そういえば余談ですけど、ルシファルス家相伝魔術ってなんなのでしょうね。 存在は知っているんですけどよくわからないんですよ」


「――口外は、厳禁だよ?」


「わたくしスズシロ・アキラはここで得た情報を一切口外しないと沙織に誓いますっ。 はい、これでいいでしょ?」


「……沙織とは誰かね」


「マイエンジェルですよ」


 もしくは心の癒し。

 というか今更だけど沙織ちゃんとやってるかな。

 流石にルインもこの世界だけに干渉し続けるわけじゃないことはもちろん――四人目の「呪い」の方だ。


 自分ならば「消去」でアレを防ぐこと自体はできるけど、非常に残念なことに俺はあっちの世界じゃあ行方不明扱い。

 さてはてどうやって攻略するか、それとも屈するのか。

 後者の可能性はあんまり考えたくないね。


 まぁ、愛する者としてここは沙織を信じますか。

 最悪あの皇子様を呼び起こせばいい話なんだし。

 

 俺の懸念が現実通りにならないといいなー、なんて思考をしている間にも既に何度も扉を抜けていった。

















 不意にヴィルストが口を開く。


「――私の魔術は『付与』。 ありとあらゆる存在に万象を付与することが可能となる相伝魔術だよ。 ……まぁ、相伝なんかじゃないんだけどね」


「あぁ、そういうことですか」


 ヴィルストの言葉に俺は納得を示す。


 そもそもの話、こんな大迷宮さながらのダンジョンを平気で作っちまうような秀吉顔負けの魔術なんて生産系しかないよね。

 この屋敷も、『転移』と『空間歪曲』や『警鐘』、『結界』などを付与したのだろうと推測できる。


「ちなみに、付与ってなんでもできちゃうんですか?」


「そう、なんでも。 私自身は付与魔術以外の魔術全般を扱うことはできないけど、その代わりというべきか付与する魔術には何の制限も無くてね。 そもそも起動するのに莫大な魔力が必要とするガラクタが生まれることもあるけど、割と便利な魔術だよ」


「うっひょー」


「何かいその奇怪な声は」


 ヴィルストの言葉を鵜呑みにするのならば、付与術式を最大限に有効活用すれば最悪軍勢さえも容易く生産できてしまうというのか。

 おそらく物資などの問題もあるだろうが、それでも国家に貢献し続ける「四血族」の名に相応しい魔術だ。


「そういえば俺を亜人国にまで送ってくれたあの龍艇船。 もしかしてヴィルストさんも一枚嚙んでます?」


「……やっぱり誤魔化せないよね」


「推し量るに、アメリア家の『引天操術』をあの大船に付与したのでしょう。 ちなみにアメリア家相伝術式の情報源は我らが大団長ガバルドですよー」


「……全く。 あの子も変わらないね」


「? もしかしてガバルドとヴィルストさんって知人なんですか?」


「いや……私が一方的に彼を知っているにすぎない。 何度か顔を合わせたことはあるけど、ちゃんと対面してハッキリと会話したと言えるのはたった一度だ」


「ふーん。 もしかしてヴィルストさんってぼっち?」


「止めて悲しくなるから。 ――それで、本題は?」


「あぁ、そういえばそうでしたね」


 確か、魔術の認識について確認してたらどういうわけか相伝魔術に脱線してしまったらしい。

 それなりに魔術に関しての理解もあるようだし、話しても大丈夫か。


「――俺の魔術。 知りたくはないですか?」


「――。 私にとってはまずそもそも君が魔術を有していること自体が驚きだが。 異能と間違えているのではないだろうか」


「まぁ、普通だったそうなりますよね」


 異能者は一万人に一人の超ローペースで生まれる。

 だがしかし、魔術を扱う魔術師は異能者よりなお少ない。

 それこそ絶滅危惧種並みに希少で、無条件で魔術が手に入る相伝魔術ならばともかく俺のように「四血族」と関係のない男が有する可能性は非常に少ないだろう。


「俺の魔術は主に二つ。 まず一つは『蒼海』。 液体を操作し圧縮したり弾丸みたく運用することが可能です。 まぁ、こっちの方は借り物ですからあんまり性能もよくなくて、欠点だらけですけどね」


「待ちたまえ。 君、魔術を複数持っているのかい?」


「複数ではなく二つですよ。 こうなった理由はいつかお話しします。 ――それで、本命の正真正銘俺の魔術について、お話しましょう」


「――――」


「俺の自身に刻まれた魔術は『消去』。 文字通り万物の存在を否定し、この世界から存在しなことにできます」


「――!? それは――」


 一瞬尋常ではない殺気を放つヴィルスト。

 だがそれも一瞬のことで、次の瞬間には普段通り貴族らしくどこか飄々としたような雰囲気に戻っていた。


「――貴方の言いたいことは分かります」


「――――」


「確かに俺のこの魔術を使えば姫さんの記憶だけを消去することも可能ですよ。 俺自身が名言します」


「だったら――」


「でも、安心してください。 そもそも俺がすべての黒幕だったらこんな味方が加勢できないような状況で軍規模の機械仕掛けの兵士を統率する貴方にこんなことを言いますか? 言わないでしょう?」


「――――」


「そもそもの話、俺の魔術で消去した存在は前述したとおり世界から忘れ去られます。 もし俺がシルファーの記憶をこの力で消去していたのならば、シルファーの記憶が失ったことに誰も気が付くことなく、記憶喪失という発想すらも浮かばない状況になっていると思えません?」


「……君の言葉が正しければ、確かにそうだね」


「そんなわけで俺は別に加害者側じゃないんですよ。 どっちかというと被害者サイドっす。 だから狙撃しようとしないでくださいよ?」


 俺は微かに魔力が脈動する花瓶を一瞥しながらそう宣言した。


「……疑って済まなかった」


「いいんですよ。 疑ってもしょうがない状況ですし、ヴィルストさんの精神状態を考えると当然ですよね」


「――――」


「それじゃあ、本題の本題です。 つまり何が言いたかったというと――」


 不意に、ヴィルストの脚が木製の扉の前に止まった。


「俺の魔術を使えば、『賢者』殿の妨害も『消去』できるのかもしれませんよ?」


 俺はそう、ヴィルストへしたり顔で微笑んだ。




 ちなみに、「付与魔法」と「付与魔術」は全くの別物です。

 詳しくは八章で説明します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ