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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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失ったモノ


 今更だけどエスケーエイトなるアニメ、ぶっちゃけ私的にはクソみたいな出来だったけど最終話は神作画でした。

 最初からああすればいいのに。










 記憶喪失。


 そこらの少年漫画では月並みにありふれたシチュエーションであり、大抵の場合結果的にだが解決する傾向にある。

 しかし、今回の場合もそうなのかと問われれば即答はできないだろう。


 一口に記憶喪失と言っても様々なタイプが存在する。


 まず最もメジャーなのがその者の記憶が消し飛んでいるタイプ。

 それにも、色々と派生したタイプがあり、それを語ると日が暮れてしまいそうなので、割愛しよう。


「――――」


 そして変則的なのは集団喪失タイプ。


 本人以外のありとあらゆる生物の記憶に中にある被害者の存在を強制的に消去し、世界から忘れ去られるといったもの。

 その点、被害者以外その異常事態に気が付かないので前者のコースは不幸中の幸いだったのかもしれない。


「――記憶喪失の詳細は?」


「――――」


 本人が聞いている方が都合がいいので、俺はシルファーの私室に備えられたソファーに座り事情を尋ねる。

 

 希望的観測は……あんまりしない方がいいな。

 そもそも状態がある程度良好ならヴィルストがあんな切羽詰まった表情をするとはとてもじゃないが思えない。

 それなりに厳しい状況なのだと容易に推測できた。


「まずは一つ。 娘は確かに記憶は失っているが、それでも知識に関しては健在だよ。 だから食事も容易だし読書だって可能だ」


「……それは行幸ですね」


「だが――記憶に関して。 これはまだ不明な点が数多く存在するが――」


「――――」


 一瞬間を置き、ヴィルストは重苦しい溜息を吐きながら答えた。


「――しかしながら、解決策は未だ不明。 そもそも記憶喪失なんていうケースが珍しく、専門家なんてどこを探してもいなかったかからね」


「そう、ですか」


「だが、何も分からないことだらけではない。 ――娘の脳に何らかの魔力の残滓が微かに残っていた」


「――っ」


 魔力の残滓。

 そりゃあ現代科学でも記憶喪失なんて難しいっても言うから、ここは魔法の力に頼るねと推測できる。

 問題はそれを成した人物とその目的だ。


「侵入者ってのは――」


「それがねぇ。 死んでいたんだよ、娘の部屋で。 死因は大量失血によるショック死。 しかもあの傷跡から、明らかに他殺だ」


「――――」

 











「――――」


 おっさん曰く、その死体の体には、数十もの剣で刺突でもされたかのような跡が確認できたらしい。

 確かに、自殺にしちゃあそこまで念入りにする意味も見いだせないし、そもそも生物に自分を体を何度も貫くなんて無理だよな。


 とすると襲撃者の死因は他殺。

 シルファーがやって、なんていう突拍子もない考えも浮かんだが、姫さんは魔術もつかないしその可能性は低いと考え直した。

 ならば屋敷に侵入したのは少なくとも二人。


「殺害された襲撃者の種族は?」


「魔人族。 魔力の流れが全く違うから、一目で判別できたよ」


「そうですか」


 過去一度この屋敷にレギウルスが侵入しているので、あくまでも推測だがその際に小細工でもしたのだろう。

 だが、問題は襲撃者を殺害した第三者。


 もしそれが魔人族側の人間ならば同胞である襲撃者を他殺するのは謀反に近い行為だし、口封じにしても暗殺者は基本的に梃子でも口を開かない。

 同胞による他殺の可能性は非常に低いのだろう。


 ならば考えられるのは――、


「「――『亡霊鬼』」」


 人族にも魔人族にも属さない、ある意味最も自由な派閥。


 だが、それでもこじつけ感は拭い去れない。

 そもそももし『亡霊鬼』の連中がこの事件に関わっているとして、何故シルファーを殺さずに記憶を奪うのか。

 そして――気づいた。


(あぁ。 そういうことか)


「――彼らの目的は、私への警告。 そう言いたいのかい?」


「――――」


 俺の表情から何かと悟ったのか、そう嘆息する。


「何故娘を殺さなかったのか。 その理由は単純明快で、私に「次はない」と警告し、脅迫したのだよ」


「……やっぱ、そうなりますよね」


「――――」


 『亡霊鬼』が企んでいるアレに、ヴィルストの存在は邪魔でしかない。

 だからこそ、このような強引な方法で妨害したのだろう。

 ふとシルファーを一瞥すると、令嬢らしく気丈に振る舞ってはいるがそれでも瞳に確かなる恐怖が宿っている。


 そりゃあ、己の生殺与奪の権を見知らぬ男が握っているって言うんだ。

 誰でも恐怖するだろう。

 

「――どいつもこいつも舐めやがって」


「君の怒りはもっともだ。 だが今は納めたまえ」


「――。 失礼を」


「いや、いい。 私としては娘のために君が怒ってくれて少し嬉しく思うよ」


 そう微笑むヴィルストだが、明らかにその双眸は笑っていなかった。


 きっと俺と同じ、否それ以上に父親であるいヴぃルストが激怒しているのだろう。

 だがここで不用意に動けばシルファーの首筋に添えられた刃がいつ振るわれても可笑しくはない状況となってしまう。

 諸悪を潰すだけの力は十分以上にある。


 だがらこそ、もどかしいのだろう。


「――君に、一つ頼みたいことがある」


「――――」


「どうか、シルファーを救ってくれ。 私がシルファーを二十四時間守れば、まずほとんどの相手は蹴散らせるだろう。 それこそ場合にもよるが龍でさえ撃退可能だ。 だからその間、君にはある任務を与える」


「――――」


「娘シルファー・ルシファルスの記憶を、取り戻して欲しい」


 そう告げるとヴィルストは深く、頭を下げた。


「――いいえ。 頭を上げてください。 その任務、必ず成し遂げます」


「――助かる」


 こうして、ルシファルス家騎士最後の任務が始まったのだった。




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