黄昏
中年の容姿を、語ってはいけない
時刻はおよそ18時。
ちょうど太陽が沈む光景を拝める時間帯だ。
その点、この場所、というか龍艇船なんていう存在がこの世界では特殊だからか、実に幻想的な情景を醸し出している。
雲の上を泳いでいるからか、太陽の輝きを遮るモノがどこにもなく、ありありとその煌めきを目に焼き付けることができた。
「そして黄昏る奇怪な老いぼれのオブジェ。 端的に言うと雰囲気台無しだぞ。 そこはイケメンがぶほっ」
「死ね」
端的に殺意を表現され、その鉄拳が激突した頭部を涙目でさすりながら俺は突然の暴行を非難する。
「刑務所にぶち込まれる楽しみにしてくださいッ!」
「ちょっと何言ってるのか分からん」
「法廷で会おうっ」
「なんやねん」
どうやら異世界人であるガイアスにはこのネタが理解できなかったようだ。
詳しくはグー●ル大先生で調べれば分かる。
「――それで、何の用だ?」
「ジジイの醜悪な顔面を拝みに来たうぼっ」
「次はコロス」
凄い、俺ですら震え上がるような殺意だ。
流石わ神に創造されし神獣と言ったところか。
ちなみに余談だが、ガイアスの容姿はそれなりに整っており、瞼の隈や濁った眼玉を刳り貫けば十分イケメンの分類に入ると思う。
「今失礼極まりない事考えてただろ」
「当たり前だろ!」
「お前にはそろそろ真の上下関係を教えてやらんといけないようだな」
冗談、だよね……?
でも俺には血走った双眸で睥睨するその姿が歴連の殺人鬼にしか見えてこないのだが。
きっと気のせいだろう。
「はぁ。 茶化しながらでしか会話できんとは、お前も随分難儀な男だな」
「老体よりかは千倍マシさ」
「フンっ。 それで、一体全体何の用だ?」
「うわっ! 自意識過剰な奴って見ているだけで痛いわぁ! 心が痛くな――ちょ、鞭は止めて貰えます? 痛いから! 冗談だよね? 冗談ですよね!?」
「――――」
「答えてよ! このままじゃ新たな扉が開いちゃうから!」
「ならばさっさと要件を伝えろ。 さもないと泣いて詫びってももう遅いぞ」
暗殺者のような無機質な眼光が俺を射抜く。
本能が告げている、マジだ。
やれやれ、若者ならばまだ分かるがどうやら最近の老人がキレやすいらしい。
俺は観念したかのように「はぁ」と溜息を吐いたのだった。
「――で。 身元調査は終わった?」
「――――」
まるで刑事ドラマさながらのセリフを吐いてみる。
それにガイアスは言葉を選ぶように視線を彷徨わせ、そして言葉を紡いだ。
「――私が始末した男の名はヨーシャル。 どこにでもいるヨーシャルだ」
「知らんがな」
「余計な茶々を入れるな。 お前の読み通り、あの男にはなんら不審な点もなく、交友関係も良好。 団長と協力して調べてもらったが、犯罪歴どころか黒社会に関連した知人さえも存在しなかったようだ」
「――――」
俺がガイアスの頼んだ仕事は亜人国での抗争の際、『憤怒の禍角』とやらで爆撃しようとした『亡霊鬼』の一員。
『亡霊鬼』の介入はある程度予測していたが、まーさか『憤怒の禍角』なんていう幻レベルのアイテムを保有しているとは、俺も度肝を抜かれた。
『憤怒の禍角』
かつて存在した【円卓】とやらの一員、『憤怒の鬼神』とやらの三つの角の片割れであるアイテムだ。
だがしかし、そこそこ長い年月をこれに費やしてきた俺でさえその詳細はまだ漠然としている有様である。
今分かるのがその『憤怒の禍角』が核爆弾並みのエネルギーをその内に秘めているということだけ。
それに宿された魔力量は神獣であるガイアスですら恐れのくレベルである。
そんな七不思議的なアイテムをどうして『亡霊鬼』なんかが保有しているって話になるんだよね必然。
まぁ、そんなこんやでガイアスにはそれを保有していた男の身元と『憤怒の禍角』の入手ルートを捜索してもらっているとうわけだ。
こうして考えてみるといよいよ刑事ドラマじみてるなー。
ちなみに情報源はガバルド大団長デス。
そろそろドラ●もんに改名した方がいいのではないのだろうか。
「じゃあ、何か不審な点は? ほんの些細な点でもオッケーだよん」
「――。 特に無かったようだが……あえて言うならば、時折得体の知れない何かに追われているような切羽詰まった表情をしていたらしい」
「――――」
あの男は魔人族じゃあなく、どこにでいる人族。
もしガイアスの言う通りあの角に核爆弾並みの威力があるのならば、必然的に亜人国や騎士たちには大きな損害が生じてしまう。
それに頓着しないということは、王国でも魔人族でもない第三勢力。
最も有力なのは『亡霊鬼』という可能性だ。
人族や魔人族にも属さない、ある種最も自由な派閥。
まぁ、あの魔術見せちゃったら俺のこと警戒するのも当然かー。
確かに、俺の魔術使っちゃえば強引ながらも絶対結界解けちゃうもんね。
そりゃあ核爆弾落としちゃうか。
ぶっちゃけとんだ迷惑である。
「んじゃ、引き続き捜査よろしくー。 っていうかもう本当に刑事ドラマさながらじゃんかこれ」
「ふんっ。 用がそれだけならばさっさと帰れ」
「いーや。 もう一つ、聞きたいことがある」
「――――」
一泊。
俺はもったいぶって外国人さながらの大仰な動作で告げた。
「――【円卓】。 この名に、何か心当たりはあるか?」
「――――」




