戦後処理
「怪物」に今更ハマってしもうた
「戦後処理は大変そうだなー。 まぁ、何もないよりかはマシなんじゃないか?」
「……今無性にそのにやけ面を殴ってやりたくなったのだが」
「だって他人事じゃん!」
「清々しいまでにクズだな、貴様」
龍艇船の執務室に、そんなお気楽な雰囲気が響く。
俺は呑気に執務室に備えられた豪華絢爛を体現したかのような尊大なソファーに寝っ転がり、書類に追われているガバルドを俺はしたり顔で拝む。
あの抗争からおよそ十日の歳月が経った。
一応は対象も撃破した俺たちは今現在王国へ朗報を届けに、龍艇船で空を駆けている最中なのである。
ちなみに龍艇船はアメリア家当主が直してた。
『傲慢』との戦いの際に盛大に未来への礎(笑)となった龍艇船の損害は激しく、一目見て修理を諦めるレベル。
しかしそれでもなお理不尽に屈しないのが大貴族クオリティー。
龍艇船に同行していたルイーズ・アメリアは何とあの龍艇船を十分運用可能なレベルにまで修復してしまったのだ・
しかも、たった。五日で。
大貴族マジっぱねぇわとしか言いようがない。
流石ご老体と言ったところか。
発想が色々と違う。
まず何故王国さえも牛耳る四大勢力の片割れが自ら志願して直そうとして、そしてそれをいとも容易くやってのける手腕も全部が全部マジヤベェ。
現在は龍艇船で悠々と王国への帰路を満喫中である。
まぁ――満喫って言えるほど良い雰囲気じゃないけどな。
「――それで、死者は?」
「数えきれん。 そういう細かいことは私の専門ではないのだ」
「デスヨネー」
「殴っていいか?」
「もう殴ってるよ」
流石は騎士団長。
その実力は伊達ではないと、この激痛が証明している。
しかし理不尽な暴力を振るっていいのか騎士団長筆頭様。
「いいんだよ。 だって俺が団長だし」
「すげぇな。 お前。 開き直りも甚だしいぞ」
「ふん。 お前には負けるさ」
「誉めてる? 誉めてる?」
「ハッ!」
是非とも聡明なるガバルド大団長に何故今鼻で笑ったかをハッキリと説明して欲しい。
「――。 時に、スズシロ。 あの安吾とかいう〈来訪者〉、どうなったのか?」
「死んださ」
「――――」
「文字通り、彼は死んだ。 本来ならばこの世界にも十分にシステムは生きてるから死んでも元の世界に戻るだけなんだけど、場合が場合だ。 特に術式改変発動の最中に殺されたのなら、現実の彼jも存命もかなり妖しい」
「……一つ問おう。 安吾とかいうあの男、お前の友人だよな? ならば――何故、そうも平然と友人の死を語れる?」
「――――」
心底信じられないといったガバルドの視線が突き刺さる。
面白いことを言うな、この年長者は。
「普通だろ? それとも、俺の勘違いか?」
「――。 ――――。 ――――。 そうだな」
「今の間は何なのやら」
「――――」
しかしどうもガバルドは浮かない顔のまま。
んー?
何がお気に召さなかったのだろうか。
ちょっとばかり真剣に頭を悩ます俺は、ガバルドはいさか強引に話題の展開を図った。
「話は変わるが、貴様はこれからどうする? 騎士として働くのならば実力も十分以上。 それこそレイドさえも圧倒するレベルだ。 それなりの立場は保証するが?」
「いんやぁ。 そりゃあ結構な話だけど、謹んでお断り申し上げるよ。 まっことに残念なことながら今はルシファルス家の護衛っていう大事な大事な責務があるからな」
「そうか」
「んで俺はシルファーと自堕落な毎日を謳歌するのだ――!」
「いっそ清々しいクズ発言ありがとよ。 私の仕事もそろそろ佳境を迎える。 邪魔するのなら帰ってくれんか?」
「辛辣ー」
もうちょっとアキラさんを優しくしてもいいと思うの。
結局俺はガバルド専用の執務室から強制的に退出させられ、行く当てもなく龍艇船をブラブラと俳諧した。
いつもなら月彦がいるのだが……今はあんまり刺激したくはない。
一応は誤魔化しておいたが、それでもあの落ち込みようだ。
まぁ、学生に友人が戦死、なんていう非現実的なシチュエーションに遭遇したことはきっと無いのだろう。
唯一の救いはその曖昧模糊さか。
俺自身も月彦も安吾がアレからどうなったのかも知らないし、ニュースにダイブ中に死亡、なんていうニュースも流れていない。
生きているかも分からないが、死んでいる可能性はいつまでも存在する。
それに仮に安吾が生きていて、運よく生き残っていたとしてもきっと再びこの世界に訪れることはないのだろう。
「ゲート」現象はまだまだ謎の多い現象。
世界は幾多もあるのだ。
運よく再び「ゲート」現象に遭遇したとしても、この世界に辿り着くことは、不可能に近いだろう。
まぁ、そんなわけで現在今ただいま月彦は大変不安定な状況。
あんまり刺激するのは得策ではないのだろう。
ならば、辿り着く場所は限られているよな。
「――よぉ、ガイアス」
「――アキラ、か」
黄昏がハッキリと目視できる船上に、そんなどこか間抜けな声が響いた。




