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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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終わらない弔い合戦


 










「――――」


「――大祓詞・「封」ッ!」


 レイドがシルファーのような素人には目視すら叶わないほどの速度で肉薄する。

 その右腕には黒塗りの片手剣が握られている。

 彼が呼吸するたびに何度も何度もその刃に切り刻まれる可能性が派生され、冷や汗を流しながらもシルファーは鎖を繰り出す。


 だがしかし、その程度最強の剣士にとって些事ではない。


「――ッッ!」


「――ぁ」


 次の瞬間鎖は甲高い悲鳴を上げ、粉々に砕け散ったのであった。


 たった一閃。

 しかしそれはあくまでシルファーの認識に過ぎない。

 レイドは人間離れした体裁きで迫りくる鎖を一つ一つ、丁寧に切り払い木っ端微塵にする。

 

 あわばこのままレイドの刃がシルファーの華奢な体を串刺しにするのかと思わたその時――。


「――何の、真似かね」


「――――」


 シルファーの小柄な体を切り裂こうとした刃は、キンッ! という甲高い音を響かせながら短刀へ衝突する。

 その立ち位置は、まるでシルファーを守るかのように。


「――何故ですか」


「至極当然。 誠に遺憾ながらも、この脅威を排除するには貴様の助力が必要不可欠なのは自明の理」


「――――」


「勘違いするなよ。 こいつを殺したら、お前も殺す。 それが魔人族の幹部としての責務だ」


「――。 ありがとう」


「ふんっ」


 ぶっきらぼうにネセトは嘆息しながらも、シルファーが背後に回れるまでの時間を,なんとか稼ぐ。


「ふむ。 少し驚いたね」


「何がだ」


「君だよ君。 確かに有用なのは自明の理さ。 それでも下らない感情がそれを邪魔するのが、人間特有の生態系だと記憶していたのだが、どうやら違ったようだね」


「勘違いするな」


「――――」


「俺が従うのは、魔王様唯一人。 あの御方の代でこの戦争を終わらせるために、これは必要な礎だ」


「――。 ハハッハ」


「――――」


 ネセトの宣言を聞き入れたレイドは、心底可笑し気にせせ笑った。

















 その姿からは嘲笑の気配が伝わっており、自然己の忠誠心への侮蔑と判断し、忌々し気に睥睨するネセト。


「あぁ、御免ね。 別に君の忠誠心を嗤ったわけではない」


「ならば貴様は、何を嘲笑ったのだ?」


「――君だよ、君」


「――――」


「あぁ、本当に下らない。 これだから人は愚かで愚昧で愚鈍なんだよねぇ。 いやー。 本当に滑稽だよ。 なにせこの戦争が終わることは未来永劫無いというのにね。 あぁ、本当に哀れで仕方がない」


「――。 どういう意味だ」


 必死に感情を抑えながらも、ネセトは問いだす。


「君たちも人族も、永遠に滅ぶことはない。 ただ、愚鈍に盲目的に眼前の『敵』と認識した者を殺すことしかできないのさ。 だというのに、戦争を終わらせる? そんなこと、できると本当に思っているのかい?」


「――殺すぞ」


「ほう」


 底冷えするような、凄まじい怒気を浮かべたネセトが目を血走らせながらまるで自分に言い聞かせるように宣言する。


「あの御方が終わると言えば終わる。 ここはそういう世界だ」


「愚かな。 本当に、愚かだねぇ。 君は何も分かっちゃいない」


「何を――」


「せめて、何も分からないまま殺してあげよう。 それが僕からの唯一の誠意さ。 ――死にたまえ」


 次の瞬間レイドの姿がブレる。


 ネセトは必至にその気配を探り――その刃が彼の寝首を掻く寸前、鋭利な短刀が間一髪その刃を受け止める。


 それに眼を細くしたレイドだったが、片手剣の長所はその手数。

 一撃一撃がまるでトラックにでも突き飛ばされたかのような絶大な威力を誇りながら、それが一息に何十閃も重なる。


「――大祓詞・「封」ッ!」


「無駄だよ」


 唯一の味方であるネセトの窮地に、シルファーが繰り出した鎖が生きたような複雑な軌道を描くが、それでもなお足りない。

 本来ならば『老竜』さえも封じ込んでしまうその鎖は、レイドの薙ぎ払いによってあまりに呆気なく霧散していった。


「――安心して。 君が弱いわけでも、ましてそれを授けた彼女が悪いわけじゃない。 ただ単にその技、僕との相性最悪。 残念だったね」


「彼女っ?」


 レイドの無情な宣告が響く中、最もシルファーが着目したのはこの秘儀を己へ授けた父親をレイドは「彼女」と呼んだこと。

 少なくともそれは女性への呼称の筈。

 そして間違ってもシルファーの父親は男性だ。


 故に違和感を抱いてしまう。


「ん? あぁ、知らないの」


「何のこと……」


「別に。 君には関係のないことだよ。 そう、()()なんて、全く関係ない」


「貴方は、何を知っているのですか……?」


 〈彼ら〉。

 シルファーの父親が繰り返し呟き、懐かしんでいた何らかの手段の総称。

 人違いなのかもしれない。

 愚かな勘違いなのかもしれない。

 

 だがシルファーの魂は己の考えが正しいと示していた。


「さっきも言った通り、【円卓】は君には関係のないことだし、そもそもアレはとっくの昔に解散している。 今更どうのこうの言う話じゃないんだよ」


「――――」


「――それで、覚悟は決まった?」


 レイドは悠長に会話しながらも、何度も我武者羅に刃を振るうネセトの斬撃を捌き、更に流れるような反撃を放つ。

 いつのまにやらネセトは血塗れで、いつ失血死しても可笑しくはない。

 ネセトという邪魔者が死ねば、まず間違いなく次の犠牲者はシルファー。

 

「遺言は?」


「――私の騎士が貴方を殺しつくしますよ」


「そうかい」


 そして、視界が暗転し――





 伏線のオンパレードっす。

 【円卓】は割と重要用語。 八章から次々とその頭角を現してくる予定です。 きっと、おそらく、多分。

 

 

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