大祓詞
封印の名称、滅茶苦茶時間かかって結局グーグル先生頼みになってしまいました。
元ネタは確か竜神とやらが関わっているのやら。
そこら辺はあんまり関係ないです。 訂正、割と関係してます。
「――――」
男は足音を消し、屋敷へ侵入する。
どれだけ男が力強く跳躍しようとも一切物音が奏でられることはない。
なにせ男は現役の暗殺者。
この程度の迷宮、なんてこともないだろう。
駆ける、駆ける。
「ここか」
不意に男が立ち止まる。
男が停止したのは一つの扉の前。
何の変哲もない、どこにでもあるようなそんな面白味の欠片もない扉を男はなんら躊躇することなくいっそ堂々と開く。
そこには――、
「――――」
そこには、規則正しい吐息を刻む少女が豪華絢爛を存在で体現したかのようなベットで寝転んでいる。
その宝石の如き双眸は深い眠りによって閉じられている。
少女の姿を確認した男は、そっと懐からナイフを――、
「……………………何をしている?」
「――――」
刹那、豪快に男が吹き飛ぶ。
その威力は巨人族ですら霞むほどで、骨と筋肉がズタズタになる。
慣性の法則に従い、男は部屋の机に盛大に激突。
勢いに煽られ、机から幾つかペンや紙束が落っこちてくる。
男――魔人族幹部ネセトはすさまじい剣幕で襲撃者を睥睨した。
「――誰だっ」
「……………………ただの護衛だ」
「嘘を吐くな。 この餓鬼の護衛は今亜人国へ向かっているはず。 貴様もだ。 一体全体、何故ここにいる?」
「――バレちゃったか」
「――ぁ」
襲撃者――レイドはこの騒ぎの中でも眠りから覚めない少女を一瞥しながら、酷く醜悪げな嘲笑を浮かべた。
その笑みを見たネセトは更に頭の中を疑念が埋め尽くす。
レイド・アインスト。
かの『最速の騎士』エルでさえも抑え、騎士団最強と謳われた伝説の騎士。
その性格は無口かつ寡黙と聞いた。
しなしながら今目の前で嘲笑するこの青年に、「寡黙」だなんて言葉が果たして似あうのだろうか。
冷や汗を零しながらネセトは、いつでも戦闘を再開できるように短刀を構える。
「? 君、まさか気が付いていなかったのかい?」
「――――」
「ふむ。 その様子だと本当に何も知らずにこの場にいるようだ。 後、残念だけど僕はこれ以上彼を刺激したくはない。 この少女を守らせてもらうよ」
「……寡黙で冷静沈着、と報告書に書いてあったが。 それは虚言なのか?」
「あぁそれ? それはイエスでありノーでもある。 確かに、彼は君が言ったような人物だよ。 彼はね」
「怨霊の類か?」
「似たり寄ったりだ。 とにかく、先程言ったように彼女を殺すとまず確実に彼の逆鱗に触れることとなる。 ……いや、彼女と言った方が正しいか」
「……貴様は何を言っている」
ネセトには今眼前で薄く嗤う青年の言葉が何一つ理解できない。
そもそもの話怨霊などはただの怪談話。
少なくともそのような存在を目撃した魔人族など見たことも聞いたことも無い。
「分からなくていいさ。 ――分からないまま、君も消えると良い」
「――――」
刹那、レイドから莫大な殺気と威圧感が溢れ出てくる。
本能が逃げろ、と我武者羅に叫ぶ。
何とか冷静な思考力を維持しつつ、食い入るようにネセトは今もなお途方もないプレッシャーを放つレイドを睥睨する。
レイドはそんなネセトの視線を何の痛痒としないのか、悠然とその刃で――、
「大祓詞――「封」」
ネセトを突き刺そうとした刹那、ルインの体を幾重ものの古びた鎖が「万力の如し圧力で拘束していた。
「――全部、聞きましたよ。 レイド」
「――――」
ゆらりと、幽鬼のようにシルファーが起き上がる。
「狸寝入りか。 貴族礼所としてそれは相応しくはないんじゃない?」
「――貴方は、誰ですか?」
「――――」
「先程、貴方は言ったことから推し量ると、何らかの存在がレイドの体へ憑りついているのでしょう。 私が知りたいのはその何かです」
「教えない、と言ったら?」
「――力づくで吐かせます」
そう宣言した直後、レイドを縛っていた鎖の圧力が肥大化する。
もはやいつ圧殺されても可笑しくいは無い状況というのにも関わらず、レイドの態度はどこまでも飄々としている。
「それは、君のお父さんが託したせめてもの保険なのかな?」
「えぇ。 最初は過保護だなぁ、と思ったのですが、意外と役に立つものですね。 まぁ、余り役に立って欲しく無かったんですけど」
「そうかいそうかい。 でも、見ての通りこの肉体は強靭でね。 その程度では殺せないよ? 脅迫のコツを一から教え込んであげようか?」
「結構。 ――暗殺者さん」
「――――」
突如として矛先を向けられたネセトがびくっと肩を震わせる。
「ナイフを貸してください。 それとも、レイドの気分を味わせてあげましょうか?」
「――。 これでいいか」
「えぇ」
シルファーの言葉に従い、宙をゆらゆらと鎖が舞う。
騎士団最強とさえ謳われた男さえも無力化した鎖だ。
ネセト程度の雑魚、一瞬で封印されてしまうことは明白。
ならばとシルファーに短刀を渡しながら、隙を探し出そうとする。
「その短刀で、何をするつもりなんだい」
「――こうする」
シルファーはレイドを見据え、その鋭利な短刀を彼の寝首へ添える。
こうなれば如何なる武術の達人であろうとも抵抗は容易ではないだろう。
だが――
「随分と、舐められたモノだね」
「――――」
轟音と共に、レイドを拘束していた鎖が千切れる。
どうやらこの程度の物量では封殺しきれなかったようだと、シルファーは苛立ち気に舌打ちしながらも短刀を構える。
「――さて。 十秒耐え切れれば誉めてやる」
「――――」
シルファーは常識離れしたレイドへ臆することなく、猛然と肉薄したのであった。」
伏線はレイド君が亜人国にまったく登場していなかったこと。
裏で色々とやっていました




