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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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反転の牢獄











 滅龍砲。


 かつて龍の脅威に備え、ルシファルス家が発明したとされる兵器だ。

 その砲弾には厄介極まりない鱗の効力を魔力を周囲一帯に無理矢理発散されることで無力化する工夫が施されている。

 更には大砲自身の火力も凄まじく、これまで幾多もの龍を葬ってきた。


 そして今、かつてのように龍へと猛威を振るう。


「――――」


 砲弾は大魔法さえもかすり傷程度で済んでしまう起因の一つである鱗を瞬く間に焼き尽くし、その強靭な筋肉を抉る。

 巻きあがる猛烈な爆炎は、容易く龍の強固な体を塵芥へと成り下がらせ、次々と宙を鮮血の雨が彩る。


 しかし、これだけでは済んでいたのだ数百年前の話。


 ルシファルス家とアメリア家両者の技術の共有により改良に改良を重ねた大砲の火力は凄まじく、その砲弾の初速は既に音速を軽く上回っている。


「――がぁっ」


 なまじきタフな肉体を持つせいでいつまでも砲弾が貫通せず、衰えることのない勢いに身を委ねてしまう。

 そして一人の目元に人間離れした隈を浮かべる、『最速の騎士』はそれを己の魔術を繰り出し、最大限利用する。


「――〈反転〉」


「なっ」


 刹那砲弾に身を任せ吹き飛ばされた龍は、不可視の壁にでも激突したかのような轟音を響かせ、唐突に軌道を変更しながらも再び猛烈な勢いで宙を舞った。

 真に恐ろしいのは、先刻凄まじい勢いで不可視の障壁に激突したのにも関わらず、勢いの減衰が全く見られないこと。


 形容し難い激痛に苛まれながらも龍は何とか翼を駆使しこの脅威から逃れようとした刹那、再び激突。

 まるで、鏡写しのように激突した勢いのまま、衝撃が龍の体の隅々にまで浸透し、盛大に吐血する。


 再度空へ投げ出され、更に激突、加速を繰り返す。


 刻一刻と激突の間隔が狭くなっており、こころなしか広大で地平線さえもハッキリと視認できる大空が牢獄のように感じられた。

 この状況が続けば、死ぬ。

 

 そう認識した龍の行動は迅速であった。


「――――ッ‼」


 大空を震わせる方向と共に莫大な熱量をその身に宿す爆炎が吹き荒れる。


 龍の息吹――噛み砕くと「ブレス」。

 

 龍を連想させる最もポピュラーな技である。

 当然その威力は凄まじく、かの『老竜』はこの吐息のみで小規模な国を一瞬で焼き尽くしたという逸話も存在する。

 必然、その火力は砲弾の勢いに負けず劣らず。


 砲弾と相対の方角へ、龍は魔力を沸騰させ、次の瞬間全身全霊の息吹を放った。


 龍の吐息の効果は激烈で、ほんの数秒の抵抗の後あまりに呆気なく砲弾の威力が減衰していき、やがて消失する。

 二三度不可視の障壁に激突したが、それでもこの包囲網からの脱出という目的が果たされた以上万々歳と言えよう。


「面倒だ。 あぁ、本当に面倒だ。 信じない、信じない。 だから――殺し尽くして、奪いつくす」


「戯言を」


 支離滅裂な青年の独り言を一蹴し、龍は再度その翼をたなびかせ威容を示した。
















 青年――『最速の騎士』エル・エスピリツは気だるげに顔を歪める。


 本来ならば大砲と「反転」の牢獄で絶命していても可笑しくはないはず。

 しかし、流石わ龍と言ったところか。

 砲弾の火力は音速をゆうに超えているというのにも関わらず、まさかブレスで相殺してしまうとは、完全に予想外――でもない。


 龍とは規格外な生物の総称。


 このようなイレギュラー、きっとかつて何度も龍と剣を交え、葬ってきたガバルドならば日常茶飯事なのだろう。

 そもそもエルは、疑心暗鬼を拗らせすぎて、食事ですら毒見を料理人に強制するような、そんな臆病者だ。


 油断は無いし、最大限警戒もする。

 故にこのような事態にガバルドで無くとも驚きはしないし、だからこそこれ以上被害が出ないように単身でこの場に向かったのだ。


 エルの力量は強者揃いの騎士団の中でも特にずば抜けており、それはあの生ける英雄ガバルドでさえも認める程。

 現状アメリア家とヴァン家には彼を超える者は存在せず、また連携が可能な者も同時に不在なのである。


 龍は規格外の象徴。


 必然数を揃えたところで圧倒できるような、そんな生易しい相手ではない。

 アメリア家はまだしも、主であるヴァン家の当主であるアレストイヤの兵の無意味な損失は不要だ。

 だが、リスクを削減できたからこそ生じるリスクもある。

 

 言うまでも無くエルは貧弱極まりない人間。

 幾ら『最速の騎士』と呼ばれるような猛者であっても、規格外が服を着て息をしているような存在である龍に勝てるとは思えなかった。

 だからこそ――保険を用意した。


 この保険がどれだけ猛威を振るうかは、まだこの龍の実力をハッキリと目測できていないエルには判別できない。

 だが――十分。


 エルの魔術は余りに変則的。

 故に相性の良し悪しが相手によって大きく左右されるだろう。

 今更、尽きた運にその運命を委ねようなんていう甘い考えは持っていない。

 ただ単に、その運が大きく左右する含めて戦術に組み込んでいるだけ。


 慢心も油断も、とっくの昔に捨ててある。


「――精々足掻け、ニンゲン。 そして歓喜するがよい。 この高貴なる我に滅ぼされるとい栄誉を手にすることを」


「信じない。 信じない。 そして死ね」


 そして次の瞬間、対峙する二人の姿が一瞬で消え去り、その刃を、その鉤爪を存分に振るった。

 


 そろそろ現実から目を背けますよ

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