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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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飛び立つ龍


 今更だけど七章のラストパート、開始です。

 











「――■■■・■■■■■・・■■」


「――――」


 黙々と詠唱を続ける、相棒の姿を、どこか面白そうに魔人族軍幹部――ネセト・プラネットが眺める。

 その視線になんら痛痒を感じることないネセトと瓜二つの容姿と体格を兼ねそろえた相棒――セト・プラネット。


 苗字から察せられるが、彼らは兄弟である。

 それも同じ腸から共に生れ落ちた双子。

 不意に、まるでお経のように唱えいた呪詛が途絶える。


「おっ。 兄ちゃん、終わった?」


「上々と言ったところだ、弟」


「そっかそっか」


 そしてネセトは、町の全貌を容易く確認できる高台から見下ろしながら、淡々とした口調で補足する。


「もうじき、この地に未曽有の厄災が訪れよう」


「でも、ほどほどにね? 別に頑張らなくもいいんだから」


「温い。 許可は出た。 後は殲滅あるのみ」


「もー。 全く。 兄ちゃんは働くの大好きだよね」


「いいや、俺はただ王に報いるだけだ」


「つれないねー。 まぁ、ボクも同じなんだけど」


「そうか」


 セトの色素が抜け落ちた白髪が微風に小さく揺らされる。

 ネセトは特に気負うことなく、最後の仕上げに取り掛かった。

 

「――■■■」


「――――」


「龍よ――世界を燃やせ。 万物を呪え。 全てを滅ぼせ」


 刹那、とんでもない魔力の奔流が吹き荒れる。

 想像を絶する魔力消費に、セトは言わずもが、術者であるネセト自身も瞠目し戦慄しながらも、魔力は途絶えさせない。

 そして――、


「――――」


 幾何学模様の魔法陣から禍々しいスパークが煌めき――次の瞬間、先刻とは比べ物にならない魔力が吹き荒れる。

 その光景をネセトとセトはただ静かに刮目する。

 

――声が、聞こえた


「――貴様らが、我を長き眠りから解き放ったのか?」


「――――」


 若々しくも、老人のように冷静沈着な声が響いた。

 

 現れたのは背中に幾重もの大きな傷跡が残された巨大な龍だ。

 その鱗は鮮やかな深紅に染まっており、下手な宝石よりかは十分以上に価値があることは一目瞭然。


 龍が放つのは、殺気すらも超越した――いわば鬼気。

 生物を遥かに超越した存在に、臆することなくいっそ堂々とネセトは言葉を紡ぐ。


「俺がお前を呼び起こした理由は一つ。 ――滅ぼせ、この国を」


「我がそれに従うとでも?」


「ふむ。 もしや、封印され体が鈍っておられるのでないのですか?」


「貴様――殺すぞ」


「まぁまぁ。 ――交換条件です。 貴方のその翼、私たちが治癒する代わりにこの国を滅ぼしてくれないでしょうか」


 交渉が決裂する寸前、なんとかセトが兄のフォローをする。

 龍は一瞬思考する素振りを見せた。


「それは、確かか?」


「――。 えぇ」


「ならば――よかろう。 貴様の計らいに乗ってやろうではないか」


「感謝致します。 ――では、誓約を」


「分かっておる――」


 一泊。

 龍とネセトは一語一句言い間違えることなく声を揃えて唱えた。


「「――〈誓約の証〉」」


 淡々とそう唱えられた直後、両者の心臓が紅に染まった。

 それは誓約であり鎖であり時限爆弾のようなモノでもある。

 誓約の成立を見送ったセトは満足そうに微笑みながら、悠然と龍へと近づき、傷だらけの背中に優しく触れた。


「――■■■・■■■■」


「――――」


 詠唱の直後、セトの腕に仄暗い灯火が宿る。

 不可思議な力が作用された右腕が龍の背中に触れた瞬間、かつての『英雄』に切り刻まれたはずの翼が瞬く間に再生される。

 

 龍は一度感慨深げに目を瞑り、次の瞬間大きく跳躍し、そのまま追い風にのって空を泳ぐ。

 

「――どうだ、調子は」


「絶好調だ。 感謝する」


「そうか。 なら――忘れたとは言わせないぞ」


「無論だ。 我が、一国を滅ぼすことに躊躇するとでも」


「――。 済まぬ。 愚問だな」


「そうか。 ――なら、精々その高台から見ておれ。 この口が我の炎に焼き付くさえ、悶え泣き喚く姿を」


「朗報を期待しているぞ」


「無論」


 そして龍は、背後の二人も気にせず悠然と空を泳ぎ渡ったのだった。












「――主様。 魔人族たちが動き出しました」


「――。 知っている」


「そうですか。 ならば、対策は?」


「――――」


「失礼。 愚問でしたね」


「――――」


「それでは、私は私で勝手に行動させてもらいますからね」


「――――」


「では」


「――青髪のガキには、気をつけろ」


「――。 承知致しました」


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