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エピローグ

 バルサドールの奴隷商店の前に奴隷の運搬用馬車が停められている。馬車の車輪周りは破壊されていたが修理はつつがなく終わっていた。荷台の鉄格子には、村の事件の主犯・三人組が足枷を付けられた状態で座っていた。


「大人三人に獣人の子一人かぁ。良くもまあそんなに見つけたな」


 青シャツの奴隷商人おじさんは感心するように顎を指で撫でながら言った。


「色々あったんだよ。でもおかげで金欠が解消できた」


 問題が解決できウォーレンは安心していた。ヴォルフィンを救えたこともそうだが、お金の問題も解決できた。捕縛の協力として奴隷を売る金額を村長と折半し、元々マイナス銀貨一五枚だったのが、今やプラス銀貨五〇枚だ。


「おじさん。掃除終わったよ」


 店の扉から片目を長い髪で隠した少年が、モップと空のバケツを持って出てきた。彼が来ているのは奴隷用服ではなく白いシャツと生地が丈夫なズボンであった。


「少年。早速勉強中か? いや、ただの雑用か」


 ウォーレンは片目少年を茶化した。


「お兄さん、これでも勉強はしてる。覚えることはたくさんあるけれど……」

「試験まであと一ヶ月だっけか。頑張れよ」


 他人事のようにウォーレンは適当に励ました。次のチャンスを掴めるかどうかは、少年次第だ。応援するしかできない。


 一緒に連れてきた他の奴隷について少年に聞く。


「スキンヘッドのおっさんとは話したのか?」

「あの人たちは……もう売られた。大きな農場みたいでサボりやすそうって喜んでいたよ」

「そうか。あの人たちらしいな。礼は言ったか?」

「もちろん」


 少年がこうして教育を受けられているのも彼の先輩スキンヘッドのおっさんが後押ししたからだ。


「ほらほら、少年、サボるな。料理の支度を手伝ってこい」


 青シャツおじさんは少年に指示を出すと、「はいっ」と元気よく返事して少年は店に戻った。


 心配性のウォーレンは青シャツおじさんに尋ねる。


「あの少年。試験に合格できそうか?」

「まだ数日だ。正直わからん。物覚えはそこまで良くないが、あとはどこまで必死になれるかだな」


 別に慈善事業として青シャツおじさんは片目少年を受け入れたわけではない。試験が不合格になれば、もちろん売り払われるだろう。


「ウォーレン、そろそろ行くわよー」


 馬をナデナデしていたアニマルナースことエラちゃんが大きな声で呼びかけた。隣にはヴォルフィンが立っている。


「お馬さんたちは準備オッケーだって、二時間くらいは休みはいらないって」


 エラはお馬さんと意思疎通できるようになったらしい、いつの間にそんな特技を習得したのやら。


「待ってろ、今行く! おじさん、またな」

「ああ、面倒ごとを起こさないならいつでもウェルカムだ」

「……努力はするよ」






 御者台(ぎょしゃだい)の真ん中にウォーレン、彼の正面から右にエラ、左にヴォルフィンが座っていた。エラがお馬さんの調子を聞きながら順調に移動できていた。


 ウォーレンはヴォルフィンの復讐心を考える。後ろの鉄格子に入った三人組が彼の母の(かたき)となる。しかし、三人組は今や商品だ。殺すことなど論外である。


「ヴォルフィン。後ろのやつは商品だ。手にかけようとするのは止めろよ。気持ちはわからんでもないが、それとこれとは別の話だ」


 腐ってもウォーレンは奴隷商人だ。復讐の手助けなんてしたくないし、商品がなくなるのは困る。


「わかってる……」


 腑に落ちない様子でヴォルフィンは答えた。


「そうだな……おまえがこれから世話になる屋敷には、色んな境遇の子がいる。親に捨てられた子や人狩りに親を殺されて売られた子。もっと酷い目に遭った子もいる。そういう子たちと話して、やり切れない思いをどうやって消化するのか教えてもらうんだ」

「……」


 ヴォルフィンの復讐心を本当の意味で理解できないウォーレンにできるのはアドバイスだけだ。


 エラはウォーレンに確認する。


「ヴォルフィンってあの屋敷に入るの?」

「多分な」


 少年少女を受け入れて教育し売るというシステムをウォーレンの上司セベロが作った。珍しい獣人の子なら、あの屋敷に確実に入れるだろう。


「なら、ヴォルフィン。戦闘の練習しようね。私の手品が獣人にも通用するか試したいわ」

「手品はほどほどにしろよ~」


 まるで同居人が増えるような感覚なのかエラはヴォルフィンが来ることを楽しみにしていた。


 暇が嫌いなお嬢様エラは遊びを提案する。


「そうだ。暇だしなぞなぞ出してあげる」

「前みたいなやつじゃなくて、ちゃんとしたなぞなぞにしろよ~」

「わかってるわよ。そうね……」


 エラは顎に人差し指を当てながらなぞなぞを作る。そして、


「じゃあ、問題。


 いつもぐちぐち言うけれど 人を助けることが大好きな 私の頼れるもの


 なーんだ?」


「んー、そんなものあるのか? ってかなぞなぞなのかも怪しいが……」


 ウォーレンは頭を捻って考えるが、答えが浮かばない。


「わからん。エラ、答えは?」


 エラは満足そうにしながら、嬉しそうに笑いながら答える。


「えへへ、教えなーい」








自由な彼女の後始末をここまで読んでいただき本当にありがとうございます。


奴隷商人という題材でどんな物語が書けるのか試してみたのがこの作品です。

重いテーマだったのでできるだけライトにして王道的な展開を心掛けましたがいかがでしたでしょうか?

歴史を紐解けば「主人=社長」「奴隷=社員」「奴隷商人=人材派遣・求人メディア」みたいに人権が変わっただけで、今も昔も社会の仕組みはそこまで変わっていないと思います。

それが良いかどうかは別ですが、奴隷商人がいなかったら社会が回らない時代もあり、重要なお仕事であったのは間違いないと思います(産業革命の前と後では人道的な意味合いが異なりますが)


感想、評価いただけると嬉しいです(>_<)


それでは失礼します。


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