4~プロザック
「アメリカで、あなたにピッタリの新薬が発売されましたよ」
主治医に、何度かそう言われていた。
1998年、卓哉は、些細なことをきっかけに、お世話になったパチンコ屋を退職して防水関係の見習いの仕事をしていた。
パチンコ屋を辞める原因となったのが、主治医が薦めたアメリカから個人輸入した一カプセル500円の緑色とクリーム色のツートンカラーの薬、プロザックだった。
このアメリカの製薬会社が作ったカプセルは、最初こそ何の変化も卓哉に及ぼすことは無かったが服用を始めて一週間程で爽快感や、気分の高揚、攻撃性を卓哉にもたらしてしまう。
卓哉は、仲の良かったパチンコ屋の同僚と営業中に殴り合いのケンカになり、わけの分からぬまま自分から職場放棄をして退職の道を選んだ。
主治医の中塚は、卓哉に薬の「味」を覚えさせたA級戦犯だった。この男の為に薬漬けにされて人生を棒にふったヘロヘロの患者を卓哉は、何人も見てきた。もちろん、卓哉自身も例外ではない。
卓哉は、相変わらず薬が大好きだった。プロザックに飛びついたのは必然だったろう。
結局、卓哉は再び、合法的手段を使って中塚の力を借りて躁状態になる。
深夜までパチスロを打ち、そのお金で化け物屋敷夢泉ではなく、栄町一リーズナブルに確実に若い可愛い女の子とセックス出来る58と言うソープランドで快楽に浸った。
終電が無くなって、ポルノ劇場のオールナイトで一夜を過ごして始発で帰宅した事もあった。そんな日々が続いた。1998年。卓哉は二十五歳になっていた。
58で卓哉は、三人のソープ嬢と出会うことになる。他にも何人もいたけど、卓哉は、この三人しか指名しなくなる。
ナナちゃんは、優しくて巨乳でマットプレイが得意だった。悩みを聞いてもらったりもした。とてもいい子だったと覚えている。
アイちゃんは、まだ二十歳でとても可愛かった。ただ、風俗の仕事も疲れるし家に帰っても眠れなくて困っている。と言うアイちゃんに卓哉は、自分の睡眠薬をあげたりしていた。
アイちゃんとは、なるべく卓哉は、性行為はさせないで一緒にベットで添い寝をしてあげたりしていた。時間を延長してなるべく彼女を楽に稼がせるようにした。
アミとは、良く気が合った。歳も同じだった。
彼女の顔は、あの「淡谷」さんに少し似ていた。
アミは、卓哉と付き合う事も、そうしたら今の風俗の仕事は辞めて、普通に働きながら、いずれは、卓哉と結婚したいとも言ってくれた。その当時の卓哉でなければ今頃は、彼女と結婚していたかもしれない。
彼女は、自分の本名も教えてくれた。二人は、お互いの事を本名で呼び合い、当時卓哉がやっていた防水関係の見習いの仕事の給料日前やパチスロで負けてあまりお金がない時には、アミは、お店の規定の一万四千円の料金を
「いいよ、いらない」
と返してきた事もあった。
卓哉は、
「それは、ダメだから受け取れ」
と恰好をつけて全額支払った。本当は、この当時卓哉はパチスロと風俗通いの毎日でお金を浪費しまくり、サラ金数社から巨額の借金を背負っていた。卓哉は、アミの性格を考えた時、きっと自分で稼いだお金を貢ぐような形を選ぶと思ったので、58に行く事や行ってもアミを指名することは、無くなった。
そんな自堕落な生活も長く続くわけもなく、原因となったであろうプロザックの過剰服用は、禁忌となった。サラ金の肩代わりは、母が全て支払った。もう二十五歳になった卓哉の面倒を見続けることは、母や兄、家族全員にとって感覚的に限界を超えてしまっていた。