消せない過ちと前を向く強さと~執事と司書とお嬢様~
~プール Side~
「あ~んもう!もうちょっとだったのに~!」
「っへへ!やっぱり弾幕はパワーだぜ!」
「お二人とも流石ですね。僕なんて途中で目で追いかけるのがやっとでしたよ」
「おいおい、そんなんで大丈夫か?」
「えっへへ~次はプールも一緒にやろうね!」
「それじゃあ、頑張って強くならなくちゃですね」
「プールさん、妹様のお相手をするのは相当大変ですので、それなりの覚悟をなさってくださいね?」
「あはは……分かってますよ」
魔理沙さんとフランさんの弾幕ゴッコが終わり、今は咲夜さんに案内されて紅魔館の中を歩いている。ちなみに先ほどの会話の通り、軍配は魔理沙さんに上がった。弾幕ゴッコ用とはいえ、室内であれだけ自由に動き回るなんて、やっぱり凄いなぁ……。僕も少しは動けるようにはなって来たとはいえ、まだまだ勝てそうにないや。
「で、運動の後はディナーでもご馳走してくれんのか?」
「ディナーには少し早いので、ティータイムですがね」
「ねぇ咲夜!今日のお菓子はなぁに?」
「本日は紅茶と、妹様の好きなチョコレートクッキーとなっております」
「ほんと!?やった!」
「僕たちまでご一緒してしまいましてすみません」
「良いんですよ。妹様と仲良くしてくださっている方に何もせず帰らせrほど、お嬢様は無礼ではありません」
「あたしだけの時はむしろ追い返されるぜ?」
「魔理沙さんの場合、放っておくと被害が大きくなっちゃうからじゃないですか?」
「おっしゃる通りです。魔理沙も、図書館の本を借りてるだけと言うのなら、たまには返しなさい。パチュリー様も困っておられます」
「善処するぜ」
「はぁ……」
「ご、ごめんなさい。今度僕が何冊か返しに来ますから」
「いえ、大丈夫ですよ。持って行かれてる分を抜いても、まだまだ本はあります」
「ならもう少し持っていっても大丈夫ってことだな!」
「魔理沙さん?」
「はいはい。ほどほどにしとくんだぜ~」
「あはは!魔理沙とプール、すっごい仲良しなんだね!」
「そ、そそそんなことないですよ!!」
「プール顔真っ赤~!」
「ったく、フランにまでからかわれてやんの」
「本当に純な方ですね」
「ありゃあへたれって言うんだぜ」
「プールってへたれなの?」
「あはは……どうなんですかね……」
「妹様に変な言葉を教えないでください」
「プールがへたれなのが悪いんだぜ~」
さっきから言いたい放題言われてるけど言い返せない……。へたれではない、とは思うんだけども、実際こんな風に少し言われただけで顔が赤くなっちゃうんじゃ、そう思われても仕方ないのかもしれないなぁ……。でも、別に全員に対してそうなわけじゃないし、僕だってやる時はやるんだけど……って、頭の中で誰に言い訳してるのやら……。そんな風にからかわれながら歩くこと数分、今は大きな両開きの扉の前にいる。何度か来たことがあるけど、相変わらず凄いなぁ。なんて考えていると、咲夜さんがその部屋をノックする。
「お嬢様、魔理沙とプールさん、妹様の3名をお連れしました」
「入ってちょうだい」
「かしこまりました。では、皆様どうぞ」
「ありがとうございます」
「おう、サンキューな」
「えっへへ~おやつおやつ~」
「ご苦労様、咲夜。早速で悪いけど、3人の分の準備もお願いできるかしら?」
「はい。ただちに」
「よく来たわね、二人とも。フランの相手をしてもらって感謝するわ」
「お礼は今から貰うから気にしなくてもいいんだぜ」
「もう……。レミリアさん、パチュリーさん、お久しぶりです。今日はお招きいただいて、ありがとうございます」
「えぇ、久しぶり。元気そうで安心したわ」
「魔理沙の実験につき合わされてるんですもの、普通の人間じゃあ身が持たないものね」
「そんなことありませんよ。魔理沙さんも、ちゃんと僕のことを気遣って害の少ない実験を選んでくれてますから」
「あら、意外ね?てっきり助けたのを笠に着て好き放題やってるものと思ったけど」
「別に選んでそういう実験してるわけじゃねぇんだけどな。というか、結果として害が無かっただけで、どれも失敗したらただじゃすまねぇって話なんだぜ」
「ははは、魔理沙さんってば冗談が上手いんですから」
「プール、魔理沙の目をよく見なさい。あれは本気で言ってる目よ」
「はは……じょ、冗談ですよ……ね?」
「あ、魔理沙が目逸らした」
「あはは……は……」
「まぁその、なんだ……いつも助かってるぜ」
「な、なな、なんでそんな大事なことちゃんと教えてくれなかったんですか!実験の時は失敗したら少し後遺症が出るくらいで、9割成功するとか言ってたのに」
「でも、事実成功してるんだぜ?」
「そうじゃなくって!失敗した時のリスクの方ですよ!そんな危ない実験だったら、もう実験台とかなりませんからね!」
「まぁ、ご愁傷様ね」
まさかこんな所でそんな衝撃の真実を聞かされると思わなかった……。今までいろんな実験やってて、失敗しても少し痺れたり、急激に眠くなったりするくらいだったから大丈夫だと思ってたのに……。というか、パチュリーさんはパチュリーさんで魔理沙さんに実験結果聞いて参考にしようとしてるし……。そろそろ本当にどこか別の場所に住むのも考えないとな……。
「お待たせしました。紅茶とクッキーです」
「ご苦労様」
「サンキューだぜ」
「あ、あぁ……ありがとうございます」
「ずいぶんと凹んでますね」
「あ、ルドアさん。お久しぶりです」
「お、お前もまだいたんだな」
「えぇ、お嬢様から追い出されない限りは、ここにいさせていただこうと思っておりますよ」
「相変わらず堅っ苦しい喋り方してんな」
「癖ですので」
「ルドアは咲夜の次に優秀な使用人だもの。よっぽどの事がない限り、こちらから手放すなんて無いわね」
「勿体無いお言葉、ありがとうございます。ですが、私などまだまだ未熟。これからも精進を重ねる次第にこざいます」
「ルドア~、言葉難しくてよくわかんな~い」
「咲夜さんのような立派な人になれるように、もっと頑張りたい。という意味ですよ。フラン様」
「それなら分かる!だって、咲夜!」
「ん、んんっ!ルドア、あまりそういう言い方をしないでください」
「失礼しました」
「ルドアが来てから、咲夜もずいぶん楽そうだものね。私も本の整理を手伝ってもらってるし」
「そういえば本で思い出しましたが、魔理沙さんが持っていった本がこの間でとうとう3桁の大台に乗りましたが……」
「お!このクッキー美味いなぁ!」
「いいのよルドア。言って返って来るなら3桁になんかならないんだから」
「分かってるなら話は早いんだぜ」
「それは魔理沙さんが言う台詞じゃないですからね?」
魔理沙さんってば……。それはそうと、今来たこの男性はルドアさん。僕と同じくこの世界の外から来た人で、いろいろあって今はここ、紅魔館にお世話になってらっしゃいます。凄く綺麗な顔立ちでそ、身長も180cmに少し届かない程度の高身長。紅魔館に住むようになってからは、使用人として執事服を着てらっしゃいますけど、スタイルも良くてとても似合っててかっこいいです。僕もあれくらいかっこよくなれたらいいんだけどな……。っと、そう言えば一応聞いておかないと。
「それで、記憶の方は、どうですか……?」
「いえ、何も思い出せていませんね」
「そうですか……」
「ですが、私は特段不便はしていませんし、何より今こうして皆さんといる時間も大切ですから。思い出せなくても苦ではありません」
「強いですね。ルドアさんは」
「辛い過去があっても、それでも前を向いて生きることの方が難しい。と、私は思います。私からすれば、プールさんの方が強いですよ」
「どうでしょう……僕には、今本当に前を向いているのか、分からないです……」
この世界に来る前。子供の頃から、僕にはこの『物を引き寄せる』という能力があった。最初は、周りの人たちからも凄い凄いともてはやされた。だからなんだろう……幼い僕は、調子に乗りすぎた。この力がどれだけ凄くなるのか、などと考えてしまった。もっと遠くの物を、もっと重たい物を、もっとたくさんの物を引き寄せられれば、周りの人はもっと凄いと言ってくれる。そんな甘い考えで、力を使ってしまった……。
力の暴走……。発動した力は、僕の望んだとおり、より遠くの物を、より重たい物を、よりたくさんの物を引き寄せた。僕の、望まなかった物まで……。
半径数百メートルにある、ありとあらゆるものを引き寄せた。始めは小石や枯れ枝。ゴミや小さな虫だった。それが時間が経つに連れ、人や動物を巻き込んだ、何十、何百という人が僕を中心に引き寄せられ、お互いにぶつかり合い、もみくちゃになりながら、無理やり集合していく。力を止めようと願ったけど、止まらなかった。そして最後に、生えていた木や、街灯、建物に付いた看板、乗り物。たくさんのものが、僕と、周りにいる数百人もの人を中心に、引き寄せられた……。
目を覚ました時、そこはまるで地獄だった。巻き込まれた大半の人が死に、生き残った人も、助かったのが奇跡とも言える重傷。そして、その恨みの声は、全て僕のもとに集まった……。当然だ。その惨状を引き起こしたのは、紛れも無く僕なのだから。
生き残った人たちから、無くなった人の関係者から、最後に家族から……僕はありとあらゆる人から身体的にも、精神的にも、ボロボロに追いやられた……。だけど、今でも、それで良かったんだと思ってる。もしもそれを許されてしまったら、僕はきっと、今ヒトでいられなかったはずだから……。
それから数年にわたり、僕は迫害を受け続けた。実の家族には捨てられ、どこに行っても化け物と追い立てられ、どこにも居場所は無かった。それでも、死ぬわけにはいかなかった。簡単に死んでしまっては、僕が巻き込んでしまった人に、償いが出来ないのだから、辛ければ辛いほど、苦しければ苦しいほど、悲しければ悲しいほどいいのだろう。
人は、それを自己満足だと笑うかもしれない。罪は消えないし、死んだ人は生き返らない。でも、それでも僕は、そうすることしか出来なかった。生きて、生きて、生き続けて、生きれなかった人の分まで苦しんで生きることが償いになると、信じることしか出来なかった。
そして10ヶ月前、僕はこの世界に来た。僕の命を狙う人に追いかけられ、捕まりそうになった瞬間、謎の隙間に引き込まれ、気づけばこの世界にいた。ここが違う世界だと気づいたのは、魔理沙さんに会ってすぐだった。僕のいた世界で、僕のことを知らない人はいなかった。それだけ危険な化け物として、世界中で知られていたからだ。だけど、魔理沙さんは知らなかった。それどころか、妖怪に襲われていた僕を助けてくれた。
誰かに助けてもらうのも、誰かに罵声を浴びせる以外の言葉をかけられるのも、誰かに、優しくされたのも、久しぶりだった……。
だけど、僕はそれを受け取れなかった。僕は幸せになっちゃいけないから、僕は、僕が殺してしまった人の分まで、生き抜かないといけないから。そんな風に言った僕に、魔理沙さんはあっけらかんとした声でこう返した。
『何が幸せで何が不幸せかなんて、死んだ後にしかわからないぜ。だったら、少しでも楽に生きたらいいんじゃねぇか?』
あぁ、僕はなんて馬鹿な事を考えてたんだろう……そう思ってしまった。彼女の言うとおり、一時が幸せに感じても、それが原因で不幸になることもある。逆に、不幸が続いたとしても、それを乗り越えた先で幸せが訪れることもきっとある。人生が終わるその時まで、それが本当に不幸かどうかなんて分からないんだから。
幸せになってはいけないと選んできた道が、最後に幸せに繋がってしまっては、きっとそれらは全部無駄になってしまう。それではなんの意味もないのだから。それならいっそ、その人たちの分まで、精一杯ありのままで生きることこそ、償いなのかもしれない。そんな風に思った瞬間、涙が止まらなかった。魔理沙さんは、優しく抱きしめてくれた。人のぬくもりを感じたのは、あの事件以来だった……。
そして今、僕はこうしてありのままで生きている。だけど、それでも時々ふと思ってしまう。この選択が、本当に正しかったのか、と。その影がちらつく限り、僕はきっと、前には進めていないのだと思う。本当の本当に自分の生き方を信じられた時が、ようやく僕の最初の一歩なのかもしれない、そんな風に思えてしまう。
「あーあーもう!何辛気臭い話してんだよ!せっかくのクッキーが不味くなちまうぜ!」
「あ、ご、ごめんなさい!つい……」
「いいのよ。大変な過去の一つや二つ、誰だってあるもの。それを忘れるのも、乗り越えるのも、そこで止まり続けるのも、本人次第よ」
「お嬢様のおっしゃる通りです。そうして悩むのが、プールさんらしいのかもしれませんね」
「あはは……もっとしっかりしなきゃ、ですね」
「ほら、そういう暗いのは終わり終わり!っと、そういえば霊夢が、1週間後に宴会するから準備しとけってさ」
「宴会!?お姉様!私も行っていい!?」
「えぇ、もちろんよ。それにしても、ここ1年ほどは定期的に宴会が起きてるわね」
「僕やルドアさんみたいに、外から来た人の歓迎会も兼ねてるみたいですから。今回も同じようなものらしいですし」
「どうせまーた変な能力持ってるやつが来るんだろ>」
「へ、変なって……」
「だってそうだろ?プールのだっておかしなもんだし、ルドアに関しては、自分だけじゃなくて他人にまで直接影響するんだしな」
「言われてみれば、自分でもおかしなものだとは思いますね」
「でも、ルドアの能力って人の役に立ついい能力だもんね!」
「えぇ、私もたびたび助けられていますから」
「ありがとうございます。そう言っていただけて何よりです」
今話しに上がったルドアさんの能力は、この世界風に言えば『力を増幅する程度の能力』。残念ながら他の人の能力にまでは干渉できないみたいですけど、それ以外の力……筋力や瞬発力、能力を使わずに出したものであれば、火力や風力、その他様々な力を増幅させることができる。その分制約もあるそうで、①増幅させられる対象は一つ、又は一人まで。②増幅できるのは増幅前の5割増まで(無限に増幅できるわけではない)。③増幅できる時間は一度に10分までで、それ以上になると対象とルドアさんに負荷がかかる(人の場合は増幅した箇所が痛む、自然現象等の場合は不安定になる等)。④一度解除してから次に使うまでに5分のインターバルが必要。とのこと。強い力の反面、どうしても扱いは難しいみたいです。
「ま、弾幕ゴッコできるやつが増えるなら、それはそれでいいんだけどな」
「魔理沙さん、そればっかりですね」
「だっていっつも退屈なんだぜ。最近じゃ霊夢んとこ行ってもなんにもおきねぇし」
「そんな言い方してるとまた怒られますよ?」
「誰かが言わなきゃばれないんだぜ~」
「ほんとにもう……」
「ふふっ……」
「ルドアさん?」
「いえ、失礼。とてもお似合いだなと」
「お、お似合いって!」
「そうね。猪突猛進な魔理沙と、それを上手くコントロールするプール。悪くないんじゃないかしら?」
「うん!さっきも言ったけど、プールと魔理沙、すっごい仲良しだもんね!」
「ここで違う意見言っても良いのだけど、面白そうだから私もお似合いの方に票を入れておこうかしら・」
「そ、そそそんなこと!!あぁいや!決して魔理沙さんが悪いとかじゃなくて!むしろ僕としては嫌じゃないというか!魔理沙さんに申し訳ないというか!あれ!?僕今何言おうとしてるの!?」
「……少々、やりすぎましたかね」
「あはは!プール壊れちゃったみた~い!」
「相変わらず、こういうのに免疫は無いのね」
「だーめだこりゃ」
~Side Out~