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東方交鏡録  作者: シン
4/10

人を癒すは漢女(オトメ)道~宝塔探して何千里?~


~白蓮 Side~


「はい。それでは本日の修行はここまでと致しましょう」

「ふは~、疲れた~……」

「こーら村紗、だらしないですよ?」

「だってさ~一輪、流石に座禅で瞑想を1時間はきついって~」

「あはは。確かに結構疲れましたね」

「ご主人様は全然そんな風に見えませんがね」

「そんな事ありませんよ。いつつ……よいしょ……立つのだってそこそこ大変なんですから」

「なっさけね~な~。それでもこの寺の代表の一人かっての」

「ぬ~え~?あなたはやりもしないでそんな事を言うんじゃありません。大変なんですからね?」

「あたしはやらなくたって強いからいいんだよ~だ」

「ふふふ、皆仲が良くていいですね。素晴らしいことです」

「ご主人様も大概だけど、こっちもこっちで大概だな」


 命蓮寺の大講堂、御仏様の前での座禅修行が終わり、皆思い思いに疲れを取っていますね。今日は前半の修行も厳しかったのもありますし、仕方ないかもしれません。明日はもう少し軽めにしましょうかしら?そんな風に考えている内に、講堂の入り口の扉が開かれる。


「はぁ~い、皆お疲れ様~。村紗ちゃんと一輪ちゃんは、お風呂用意してあるから先に汗を流してらっしゃい?星ちゃんと白蓮ちゃんは、慣れてるでしょうからお先にご飯いただいちゃってね。腕によりをかけて作っちゃったんだから」

「ありがとうございます、フィルさん」

「や~んもう。フィリーって呼んでって、いっつも言ってるじゃないの~」

「わ~いおっふろ~。ありがとね~フィリー!」

「う~ん、村紗ちゃんは素直でいい子ね~。後でいっぱい撫でてあげちゃうわ」

「相変わらず濃いな、君は」

「あ~らやだ、そんなにお化粧濃かったかしら?気をつけなきゃ!ありがとね、ナズちゃん」

「いや、絶対そこじゃないだろ。分かってて言ってるだろ」

「ん~?そ~んないけずな事言っちゃう口はこの口かしら~?あ~んまり酷いと、あたしの口で塞いじゃうわよ~?」

「ヒッ!」

「わぁっ!っとと……大丈夫ですよ、ぬえ。フィリーさんは本気で嫌がることをしたりしない人ですから、ね?」

「きゃ~!さっすが星ちゃん!あたしのこと分かってるじゃないの~。お礼におかず、皆よりちょっと多くしてあげちゃうわ」

「相変わらず、お強い御仁じゃのう」

「雲山。それ本人からしたら褒め言葉じゃ無いと思うわ」


 今入って来られたのは、2ヶ月前から命蓮寺に住み込みで働いてくださってるフィルさん。とても独特な喋り方をされていますが、性別はれっきとした男性で、対格は地底の星熊勇儀さんより二周りほど大きく、とてもガッシリとした方です。2ヶ月前に別の世界からこちらに来られたそうで、その体格と性格で元いた世界では受け入れられず、紫さんの計らいでここ、幻想郷に来られたとのことです。


「うふふ、ここの皆はいい子ばっかりで、あたしも頑張りがいがあるわ~」

「いつも本当に助かってます。特に修行終わりなんかだと、皆へとへとですからね」

「あはは、本当はこれくらいで疲れてちゃあダメって笑われちゃいそうですけどね」

「そんなことないわよぉ。あたしからしたら、頑張ってる子たちはみ~んな素敵で、カッコイイのよ」

「ほ~ん。こんなののどこがかっこいいんだか。ま~だ弾幕ゴッコやってる時の方がマシでしょうに」

「あ~ら、お嬢ちゃんにはまだわかんないかしら?でもいいのよ。そういう我関せずな我が侭な所もかわいいんだから」

「要は君はなんでもいいというわけだ」

「そ~んなことないわよぉ。例えば、そうねぇ、ど~んなに綺麗だったりかっこよくても、人の悲しむことしか出来ないやつは、大っ嫌いよ」

「大体の人がそうだと思うけどね」

「村紗、揚げ足取りは感心しませんよ?」

「んふ、いいのよ。そういう素直な所だって良さの一つだもの。さ、ゆっくりしてるとお風呂もご飯も冷めちゃうわ。ほ~ら動いて動いて!」

「そうだお風呂!おっさき~!」

「こら村紗!廊下を走ってはいけませんよ!」

「ふふ、では、私達は先にご飯をいただきましょうか」

「はい。ナズーリンとぬえも一緒に来ますよね?」

「僕は別に修行したわけでもおなか空いてるわけでも無いからどっちでもいいんだけど」

「私はあるなら食べるぞ」

「だ~いじょうぶよぉ!皆が3回くらいおかわりしたって食べきれないくらい作ってあるんだから。遠慮せず食べなさい」

「そ、それは多すぎるんじゃないか?」

「楽しみですね。さ、行きましょう」


 村紗と一輪はお風呂に向かい、残りの5人は食事場へと向かいます。こんな風によくしてくださるフィルさんですが、これにはしっかり理由があって、フィルさんの能力に関係してるんです。フィルさんの能力は「癒す程度の能力」。フィルさんは、誰かを癒すという事において、誰よりもすごい力を持ってらっしゃるんです。


「はぁ~い、4名様ご案内よ~」

「おおお、これまた凄い量ですね。食べ応えがあります」

「確かに、この量はここの者だけだと多すぎるな」

「そうよ。だから安心してナズちゃんやぬえちゃんも食べてちょうだい」

「ま、あたしは最初からそのつもりだけどな」

「ふふ、それじゃあ皆でいただきましょうか。せーの」

「「「「いただきます」」」」

「はい、召し上がれ」


 うん。やっぱりフィルさんのお料理は美味しいですね。さっきまでの疲れも飛んで行ってしまいそう。というのも、これもフィルさんの能力の一端なんです。フィルさんの能力を細かく説明すると、①フィルさん本人が取った行動で、相手が癒されたと感じた時、その効果がより強く発揮され、心身の回復作用が発生する。②魔法等と違い、直接的な癒し(傷口を即時治療する、病気を即座に治すなど)は普通では使えない。③回復作用は受け取る人によって優先度や回復の勢いが変わり、同じを癒しを受けた者でも、回復作用は異なる。④この能力は、フィルさん本人が『癒したい』という意志を持っての行動にしか反映されないが、識別は出来ないので関係ない者が回復作用の恩恵を受けることもある。となっており、簡単にまとめると、フィルさんが我々を癒したいと思って用意してくださったお風呂やご飯をいただくと、自分や他の人が用意した時以上に披露などが回復するということですね。本当に、とても優しい、フィルさんらしい能力です。


「あ、そういえば星ちゃん、この間探してたあれ、見つかったのかしら?」

「うっ……えぇっと……実はまだ……」

「今回はその報告も兼ねてご主人様のとこに来たんだけど、これが全然なんだよね」

「あらそうなの。大変ねぇ~。あたしでよかったら、探すの手伝うわよ?」

「い、いえ!!ここまでよくしていただいてるのに、探し物の手伝いまでなんて!!」

「探してるのは僕なんですけどね」

「いいじゃありませんか星。せっかくこうおっしゃってくれてるんですから、お言葉に甘えてみては?」

「白蓮まで……うぅ……」

「だ~いじょうぶよぉ!別に何か危ないことするわけじゃないし、いざとなったら、ナズちゃんが守ってくれるんでしょ?」

「まぁ、探し物してる最中に襲われたことなんか……うん。あれは状況が状況だったからな。うん。1回くらいしかないから大丈夫だよ」

「ほらぁ、ナズちゃんもこう言ってくれてるし、あたしにも手伝わせてちょうだいよ」

「うぅ……分かりました。それじゃあ、お願いします」

「んふ、素直なのは良い事よ。それじゃ、ご飯食べて少しゆっくりしてから行きましょうか」

「ぬえも一緒に行ってみてはいかがですか?」

「ん~。面白そうかもだけど、今回はパスかな~。ゆっくりしてたい気分だ」

「あ~ら残念。せっかくぬえちゃんと仲良くできると思ってたのに~」

「うん、行かなくてよかった」

「ふぃ~、いいお湯だった~。あ、ご飯私も食べる~!」

「ありがとうございました、フィルさん」

「やぁねぇ、いいのよぉ。それより、フィリーって呼んでって言ってるじゃないの」

「一輪はこれでもわしに似て頑固じゃからのぉ。恩義を感じとる相手をそんな気さくには呼べんのじゃろう」

「雲山ちゃんがそう言うなら仕方ないわねぇ。でも、いつか呼んでくれるの待ってるわよ?」


 最近ではこんなやり取りもいつもの光景になってきましたね。最初の頃は、皆どこかぎこちなくて、フィルさんも頑張って歩み寄ってくれてたけど、やっぱり距離があった。そんな中で最初にそれを変えてくれたのはナズーリンで、彼女の何に気兼ねること無い態度と行動が、私達の中にあったぎこちなさを緩めてくれて、気付けば今みたいに、フィルさんをすんなり受け止めて、フィルさんからの好意に甘えるようになった。自分勝手なようでいて、いつもしっかり気にかけてくれてるナズーリンらしいですね。そんな風に思い出している間にも時は過ぎ、どうやらそろそろナズーリンとフィルさんの二人は出かけるようですね。


「ん~、どこに行こうかしら?」

「ご主人様、大体どの辺りに行ってたとかって無いんですか?」

「心当たりのありそうな場所はすでに自分でも回ってみましたので、特には…もしかしたら、誰かが拾ったりしてる可能性もありますし」

「そうなって来るとめんどくさいですね……ダウジングしても何かの影響か上手くいきませんし……」

「まぁ、そういう時もあるわよね。それなら仕方ないわ。まだ行ってない場所で、拾って帰ったりしてる可能性がありそうな場所から順番に回ってみましょ?」

「例えば?」

「そうねぇ。あ、ほら、幽々子ちゃんの所の庭師の妖夢ちゃん!あの子だったら持って帰ったりしてもおかしくないんじゃない?」

「あぁ~……確かにどことなく天然っぽいところもあるし、無くはないかもしれない……」

「よし!決まりね!まずは幽々子ちゃんのところに行ってみましょ!違ったらまたその時に考えればいいんですものね」

「結構遠いけど大丈夫?船だそうか?」

「もぉ~そのくらい平気よ~。でも、ありがとね。お礼にお土産買ってきてあげちゃう」

「もう、フィルさん、あんまり村紗を甘やかしたら駄目ですよ?」

「そうだぞ~お土産はこっちにもくれ~」

「ぬえ?」

「いいのいいの。ちゃ~んと皆にお土産用意しちゃうから。さ、ナズちゃん。そろそろ行きましょ」

「はいはい。それじゃあご主人様、行ってきます。まぁ期待せずに待っててください」

「行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」


 行ってしまいました。白玉楼までは少し遠いかもしれませんけど、ナズーリンもいますし、大丈夫でしょうね。それにしても……


「星?また失くしてたんですか?」

「あはは……気をつけてるはずなんですけどね……」

「まぁ、今に始まったことじゃないからね」

「言われて治るなら、ナズーリンはいらない、ですね」

「散々な言われようじゃが、仕方ないのぉ」

「やーいドジ」

「うぐ……」


 まぁ、なくても困らないと言えば困らないですけど、何かに悪用されても困りますからね。さて、後の時間は掃除や命蓮寺の布教のために回らないと。いろんな方に教えを広めないといけませんからね。


~Side Out~



~フィル Side~


「ん~。やっぱりこの辺にはないみたいねぇ」

「一応僕もそれなりには探したからね。そんなあっさり見つけられたら僕の立つ瀬がなくなっちゃう」

「大丈夫よぉ。ナズちゃんはいてくれるだけであたしのこと癒してくれてるんだからぁ」

「いや、君の役に立ってもだな……」

「なぁにぃ?あたしじゃ不満かしら?」

「不満というわけではないが……まぁ、見つからないのに見つかった時の話をするというのも不毛だね」

「そんなつれないこと言わないでよぉ~」

「はいはい。ごめんごめん。ただ、今から能力を使うから集中したいんだ。ま、最近はなぜか上手く機能してくれないんだけどね」

「そうよねぇ。それが上手くいってたら、そもそも探すなんて必要がないんですものねぇ」

「……嫌味かい?」

「んも~違うわよぉ~!こうやってナズちゃんと仲良くできて喜んでるんだからぁ!」

「そうかい。それはありがとう」


 ナズちゃんってば、あたしがそんなに嫌味なこと言っちゃう人に見えたのかしら?失礼しちゃうわねぇ。でも、あたしが命蓮寺の皆と打ち解けられたのも、ナズちゃんがいつもどおりに接してくれたからなんですもの。そういうところも含めてナズちゃんのこと大好きなのよねぇ。でも、『探し物を探し当てる程度の能力』なんていう便利な能力のはずなのに、なんでか今はそれが上手く機能してないみたいなのよね。他の探し物でも上手くいってないみたいだし、何か原因があると思うけど……。白蓮ちゃんや星ちゃんも分からないみたいだし、もしかしたら紫ちゃんなら分かるかもって思って、紫ちゃんと仲良しの幽々子ちゃんのとこに行くようにしてみたけど、どうなのかしら……


「う~ん……ダメだね。やっぱり反応が出ない。これはもう足を使って探すしかないみたいだ」

「仕方ないわねぇ。でも、これでナズちゃんといっぱいお散歩できるし、あたしは嬉しいわよ?」

「僕は困ってるんだけどね。まぁいいか、君にはご主人様もお世話になってるし、今日は僕もご飯をいただいちゃったんだし。このくらいで喜んでもらえるなら、使えないのもたまにはいいかもね」

「やぁ~ん!そんな風に言ってくれるナズちゃん、ほんっとに大好きよぉ~。今度特製のチーズ作ってあげちゃう!」

「いや、ネズミだけどチーズが好物ってわけではないから。まぁ、もらうには貰うけど……」

「素直じゃないんだからぁ~。さ、そろそろ進みましょ。ゆっくりしてたらお夕飯までに帰れないわ」

「そうだね。確かこっちだったかな」


 一応道みたいなものもあるみたいだけど、舗装もされてないし、通るのには不便なのよねぇ。妖怪の子たちは皆空を飛べるから関係ないみたいだし。あたしもなんとか飛べるようになったりしないかしら?にとりちゃん辺りに頼んで、何か作ってもらうのも面白そうねぇ。あ、でもあの子の所にも別の世界から来た子がいたし、あんまりお邪魔しちゃうのも良くないかしら?それにあの子、すっごく好みの顔なんだけど、あんまり喋らないクールな子だから、どうしたらいいのか分からないのよねぇ……。あの子と一緒にいるにとりちゃんって、実はすっごい精神力なんじゃないかしら?


「あっれ~?こんな所にめっずらしい人が!」

「あらほんと、どうしたの?こんな所まで」

「それに、そっちは確か人間でしょ?よくこんな所に来たね」

「おや、騒霊三姉妹じゃないか。そういえばこの変をよくうろついてるんだったね」

「あら~ルナサちゃん!覚えててくれたの~?あたしも嬉しいわ~!」

「宴会であれだけ目立てばね……」

「リリカちゃんにメルランちゃんも久しぶりね~!元気にしてたかしら~?」

「もっちろん!演奏さえ出来てれば、いつでも元気だよ!」

「ふふふ。ハッピーな音色を出せば、気分もハッピーですからね~」

「あ、ちょっと聞いておきたいんだけど、白玉楼の庭師が里から帰るとき、買い物袋とか以外で何か持ってるのを見たりしなかったかい?」

「妖夢?いや、特にそういうのは見た記憶はないけど……」

「何々?なんかあったの?面白い話?」

「こっちからしたら面倒な話なんだがね。実はうちのご主人様の落し物を探しててね、思い当たる場所は探したんだけど見当たらなくて、もしかしたら誰かが持って帰ったのかも、ってね」

「なるほどね。一応私たちも毎日ここにいるわけじゃないけど、私たちが見た限りでは何か変なもの持ってたりはしなかったわねぇ」

「う~ん。見当違いだったかしら?」

「ま、とりあえず行ってみれば分かるさ。ありがとう」

「どういたしまして」

「あ!また宴会とかあったら声かけてね~!いっぱい演奏しちゃうから!」

「いいわねぇ~期待してるわよ~?」

「任せてね~」


 やっぱりここの子たちは皆可愛い子ばっかりね~。素直でいい子が多いし、何よりこういう話し方でも嫌ったりしてこないんですもの。あたしからしたらここは天国ね。だからこそ、いっぱい癒してあげなくっちゃ。あっちで出来なかった分までね。あぁ~んもう!頭の中で暗い話考えるのはもうおしまい!せっかく大好きなナズちゃんとお散歩してるのに、暗いこと考えてちゃ勿体無いじゃない!


「ふぅ……普段は空を飛んでるから、こうして歩いているといかに普段体力作りなんかをしていないかが露見されてしまうな」

「疲れたかしら?それなら軽くマッサージでもしてあげるわよ?」

「いや、そこまでじゃないから大丈夫だよ。でも、そうだね……帰ったら、デザートの一つでもお願いできると嬉しいかな」

「もっちろんよ!任せてちょうだい!腕によりをかけて、ほっぺたが落ちちゃうくらいのを作ってあげちゃうわぁ~!」

「うん、それは楽しみだ。そんな楽しみが出来たんなら、がんばらないわけにはいかないね」

「うふふ。そうね。それで、後どのくらいなのかしら?」

「さっき騒霊三姉妹と出くわしたってことは、もうそろそろ階段が見えてきてもいい頃だけど……」

「あら?言ってる間に見えてきたあれかしら?」

「だね。相変わらず、見てるだけで疲れてきそうな階段だよ」

「ほんとねぇ。いったい何段あるのかしら?」

「前に聞いたら、200から先は数えてないんだってさ」

「だったらこの際、数えてあげてもいいかもしれないわねぇ」

「やめといた方がいいと思うよ。無駄に疲れるだけだろうし」

「んも~冗談よぉ~。そんなことするよりも、ナズちゃんとお話してる方が何十倍も楽しいんだからぁ~」

「それは光栄だね。さ、面倒ではあるけど上ろうか」

「そうね。待ってても何も起こらないでしょうし」


 そう言って並んで階段を上り始める。ほんと、先を見れば見るほどびっくりしちゃう長さの階段だけど、綺麗に作られてるし、周りの景色も綺麗で飽きないように作られてるのよねぇ。素敵だわぁ~。そ・れ・に、あたしが1段飛ばしくらいで歩いてるのを、ナズちゃんが1段ずつでちょこちょこ追いついてるのがすっごく可愛いのよ!これを見れただけでもう来たかいが有ったわぁ~!普段は私が癒す側だけど、こういうの見てると私も癒されちゃうし、いくらでも頑張れちゃうわ~!


「ふぅ……5分近く上ってるのにまだ着きそうにない。これは君を抱えてでも飛んだ方が良かったかもしれないね」

「やぁだぁ!あたし重いの気にしてるんだから、そんな恥ずかしいこと出来ないわよぉ!」

「これでもこっちは妖怪なんだから、そのくらいわけないんだよ?まぁ本人が嫌だって言うことを無理してやろうとは思わないけど」

「むしろ疲れたのなら、あたしがおぶってあげるわよ?これでも体力には自信あるんだから」

「いや、妖怪が人間に体力で助けられるなんて、それこそ恥ずかしいって。まだまだ大丈夫だよ」

「あらそ~う?残念ねぇ……」


 せっかくおんぶできると思ったのにぃ……まぁいいわ。これでまた可愛いナズちゃんが見られるんですもの。そのまま他愛ない話をしながら階段を上がること数分。付近の景色は少しずつ変わっていって、今は桜の花がチラチラと降ってくる桜並木みたいになって、本当に素敵ねぇ。で、今目の前にはとっても大きな門があって、どうやら階段も終わりみたいね。少し疲れちゃったけど、その分ナズちゃんで疲労回復できたし、いい運動になったわぁ~。


「お~い、誰か~!」

「は~い!今まいりま~す!」

「よし。それにしても、本当に長かったね。頭の中で数えてたけど、500を越えたらもうどうでもよくなっちゃったよ」

「ナズちゃん本当に数えてたの?話しながらでもそんなこと出来ちゃうなんて、凄いわねぇ~」

「ま、まぁ。このくらいならね。っと、もうそろそろかな?」

「お待たせしました!あ、ナズーリンさん。それにフィルさんも。お久しぶりです」

「久しぶりだね」

「久しぶり~妖夢ちゃん。相変わらずちっちゃくて可愛いわ~!で~も、あたしのことはフィリーって呼んでって言ったでしょ?」

「いや、その……まだ、男性の方をそんな風にあだ名で呼ぶのはどうにも恥ずかしくて……」

「んも~可愛いんだから~!いいわ、許しちゃう!でも、今よりも~っと仲良くなったら、ちゃ~んとフィリーって呼んでね?」

「は、はい!それで、ここに来られるのはずいぶん珍しいですけど、今日はどういったご用件でしたか?」

「おっと、忘れる所だった。実はうちのご主人が落し物をしてしまったんだけど、それらしい場所を探し回ったけど見つからなくてね。もしかしたら、誰かが持って帰ってしまったかもしれないから、順番に訪ねてるんだよ」

「なるほど……それで、探し物ってなんなんですか?」

「あぁ、宝塔って言って、まぁ簡単に言えば、手のひらに乗るくらいのランタンみたいな物だと思ってくれればいいよ」

「えっと……それって真ん中が丸くて中に青い光があって、上にお寺の屋根みたいなのが付いてるやつ、ですか?」

「そうだね。そんな感じの……って、もしかして」

「……ごめんなさい!!それ、今うちにあります!!」

「あらやだ!本当に当たっちゃったじゃない!」

「はぁ……いや、ここは拾ってくれていたお礼を言うべき所だろうね。悪用とかがされない場所でよかった」

「あわわ……そ、そんな大事なものだと知らずに……ほ、本当にごめんなさい!すぐお返しとお礼をしますので、どうぞ上がってゆっくりしていってください!」

「あら、それならお言葉に甘えちゃおうかしら?」

「まぁ、見つかったのなら急いで帰る理由も無いからね。上がらせてもらおうか」

「はい!こちらへどうぞ!」


 嘘から出た、とは言わないけど、まさか本当に妖夢ちゃんが持って帰っちゃってるなんて驚いたわねぇ。でも、見つかったのなら良かったし、そんな妖夢ちゃんのドジっ子な所も見れて嬉しいし、いい事尽くめね。ナズちゃんは疲れた顔だけど、どこか安心したようにも見えるし、やっぱり星ちゃんのこと大好きなのねぇ……本当に良かったわぁ~。


「それでは、しばらくお待ちください!すぐにお持ちしますから!」

「ゆっくりでいいわよぉ~」

「少し休ませてもらうからね」

「あら?フィリーちゃんじゃない。久しぶりね~」

「あ~ら幽々子ちゃん!久しぶり~元気してた~?」

「えぇ、楽しく毎日過ごしてるわよ~」

「一気に会話のペースが遅くなった気がするな」

「んふふ、ナズーリンちゃんも久しぶりね。うちの妖夢が迷惑かけちゃったみたいで、ごめんなさいね?」

「い、いや!別に大丈夫だよ」

「ありがとね~。あ、そうそう。ちょうど良かったわ~。1週間後に、また新しい子の紹介のための宴会をするらしいから、近い所に声をかけておいてほしいのよ~」

「あ、それって1ヶ月前に来たって子かしら?」

「そうなのよ~。まだ色々と慣れてなかったから、あんまり人前には出たくなかったけど、もう大丈夫だろうって」

「分かった。命蓮寺の皆と騒霊三姉妹には伝えておこう」

「里の方にも伝えた方が良かった?」

「そっちは妖夢がこの間買い物に行ったときに伝えてあるから大丈夫よ~」

「あらそうなの?なら安心ね」

「お、お待たせしました!こ、これですよね?」

「あぁ、間違いない。うちのご主人様の宝塔だ」

「本当にごめんなさい!!うちの見た目に合いそうだったから、つい……」

「いや、いいんだよ。元はといえば、そんな大事なものを落としたうちのご主人様のほうが問題だ」

「……お互い、大変ですねぇ……」

「あぁ、まったくだね……」

「妖夢~?聞こえてるわよ~?」

「ひゃい!」

「んっふふ。可愛いんだから~」


 それにしても、宴会ってなったらまた皆集まるのよね~。それなら何か用意しておこうかしら?軽くつまめる物とか、酔い覚ましにスッキリするものも用意しておいた方がいいかもしれないわねぇ……。ここの世界の子たちは皆可愛いけど、あたしと同じように別の世界から来た子たちも、可愛かったりかっこよかったりで、より取り見取りなのよねぇ~。今から楽しみだわぁ~。


「ふふ、楽しそうね、フィリーちゃん」

「分かっちゃう?と~っても楽しいわよぉ~」


~Side Out~


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