1年の変化、姿無き変化~力を持つ者の集う世界~
~OUT Side~
この世界……幻想郷の中には、特殊な力『~程度の能力』と呼ばれる力を持った者達がいる。それは妖怪だったり、吸血鬼だったり、妖精だったり、はたまた人間だったりと、ごく一部ではあるが、様々な種に存在している。
そんな『力を持つ者達』を巻き込み、幻想郷を混乱させ、後一歩でパワーバランスが崩壊しかねない程の事件が起きた。だが、幻想郷に住む者達の結束により、その崩壊は食い止められた。その後、この一大事件は『交換異変』と……呼ばれることは無かった……。
この事件の事を覚えている人物は、たったの3人。一人は幻想郷の統括者の一人、マヨヒガに住む境界を操る大妖怪『八雲 紫』。一人はその協力者として異変の手伝いをした鬼『伊吹 萃香』。そして最後の一人。この一人こそ、その異変を起こした張本人である異世界から来た名も無き妖怪。萃香によって『ミクス』と名付けられた者である。
事件後、ミクスは紫の協力者として行動することを決め、自身の存在、及びその異変の記憶と痕跡を、紫と萃香以外の幻想郷の全てから消し去った。幻想郷には、今まで通りの日常が戻ったのだった。
そしてその異変から一年が経過した現在。幻想郷の『何も無かった』数日間を皮切りに、定期的に幻想郷に新たな『力を持つ者』が現れ始めた。ある者は記憶を失っていたり、またある者は酷く怯えていたり、はたまたある者は内に狂気を宿していたりと、境遇は様々だが、全てに言えるのは『幻想郷の外から来た』ということだ。
幻想郷とは本来『忘れられたモノの流れ着く場所』だが、それにしてはあまりにも力を持ちすぎた者達。住人達も不思議ではあったが、それを可能とする力を持つ存在を知っているため、深くは考えなかった。
新たに増えた住人達は、それぞれに居場所を作った。ある者は吸血鬼の屋敷の従者として、ある者は薬師の見習いとして、ある者は人里の一員として、何事もなく。そう、力を持っているのにも関わらず『何事もなく』居場所を作っていった。
何事もなく始まり、幻想郷での毎日として、何事もなく日々が過ぎていく。それは紛れも無く幸せで、これ以上望む必要も無いほどのモノだった。だが、気をつけなければならない。幸せのすぐ後ろには、それと同じだけの不幸もまた、寄り添っているのだということを……。
~Side Out~
~霊夢 Side~
「はぁ……」
おかしい。最近、というかここ1年、新顔が増えすぎてるわ。勿論この近辺に越して来ただけの連中もいるけど、問題はそれ以外のべつの世界から流れ着いたやつらよ!しかもそのほとんどがなんかしら能力を持ってるし、オマケに何か問題を抱えてるなんて。もはや異変と言っても差し支えないレベルだわ。
「それもこれも、全部あのスキマが悪いのよ!毎度毎度『また一人送ったからよろしくね~』じゃないわよ!」
「まぁまぁ霊夢、そうカッカすんなよ~。別に悪いことってわけじゃね~だろ?」
「そうですよ。落ち着いてください。我々も迷惑かけないようにお互い気をつけてますから」
「分かってるわよ。あんたたちは概ね悪くないの。一部厄介なのもいるけどね」
「あはは……」
今ここにいるのは私といつもの白黒こと魔理沙。それからもう一人。これも話に上がった新顔の一人で、名前はプール。中性的な顔立ちだけどれっきとした男で、さっきのとおり真面目で人当たりのいい性格をしてる。新顔組の中でも早めに来ただけあって周りに馴染んでいて、何か起きた時も対処を手伝ってくれたりもする。今は魔理沙の家に居候してるらしいけど、本人的には早く一人でなんとかしたいところを、魔理沙が最初に助けた恩を盾にして魔法の研究の手伝いをさせてるとか。
「にしても、相変わらず誰もこねぇなぁこの神社は」
「うっさいわね。あんたこそ来たんならお賽銭の一つでも入れていきなさいよ」
「別におまいりに来たわけじゃないんだぜ~。それに、神様なんて碌なもんじゃないって知ってるしな」
「なんて罰当たりなのかしら」
「でも、確かにこの世界には神様もいらっしゃいますからね。ありがたみが薄いというか、なんというか……」
「本人が聞いたら怒るわよ?」
「あわわ!な、内緒にしててくださいよ!?お賽銭もちゃんと入れていきますから!」
「いいわよ~。素直な信者には優しいから」
「あくどい商売だぜ」
人聞きが悪いわね。こっちは善意で人助けをしたってのに。ちなみにプールの能力は『物を引き寄せる程度の能力』。引き寄せられる物の条件は、①重さ100kg以内であること。②直径3立方メートル以内であること。③自分から半径20m以内で、視認できる物であること。④同時に引き寄せられるのは5つの物まで。この4つ。生きてる物でも引き寄せられるから、実験に使いたい虫やら動物なんかを集めるのに使い勝手が良いって魔理沙が自慢してたわ。
「さて、プール、これから紅魔館まで行くぞ」
「また何か盗むつもりですか?ダメですよ?」
「あれは盗んでるんじゃなくて死ぬまで借りてるだけって言ってるだろ?それに今日はフランと弾幕ゴッコする約束があるんだよ」
「もう……分かりました。それじゃあ霊夢さん、これで失礼します」
「はいはい。さっさと帰った帰った。これでようやく掃除が出来るわよ」
「どうせ誰もこねーけどな」
「よーし良い度胸ね。フランとやる前に私と弾幕ゴッコをしていくかしら?」
「遠慮しとくんだぜ~。ほら、プール逃げるぞ!」
「えぇ!?ちょ、うわ!?」
そう言いながら魔理沙はプールを箒の後ろに無理やり乗せて飛び去って行った。危うく落ちそうになってたプールもなんとかしがみついて少し飛んだ先で魔理沙を怒ってるみたいね。ざまぁみろだわ。
にしても、最近は萃香も静かだし、うちには新顔は居付かないから本当に暇ね。異変でも起きてくれたら、解決してまたお賽銭貰うチャンスなのに……。
「はぁ……考えてても仕方ないわね。さっさと掃除すましちゃいましょ」
~Side Out~
~魔理沙 Side~
「ひゃ~おっかねぇおっかねぇ。霊夢ってばほんと怒りっぽいよな~」
「どう考えてもさっきのは魔理沙さんが悪いんですけどね」
「お?怒りっぽいのは否定しないんだな?」
「そうやって揚げ足取るのやめてくださいよ」
「お前が固すぎるのが悪いんだぜ」
今はプールと二人で優雅な空の旅を満喫中だ。って言ってもものの数分くらいで着くんだけどな。最近は妖精たちも新しい遊び相手を見つけたとかって絡んでくることも減ったし、気楽でいいぜ。
「にしてもプール。お前もずいぶんと慣れてきたよな」
「この世界に、ですか?」
「あぁ。私なんて自分が他の世界に行ったらなんて考えられないぜ」
「まぁ、確かにそうですね……でも、向こうの世界よりも、今はこっちの世界の方が好きですよ」
「可愛い子がいっぱいいるもんな~」
「ちょっ!そういうのじゃ無いですから!!」
「そ~んな顔真っ赤にして否定しても説得力ないんだぜ~」
「違いますってば~~!!」
ほ~んとこいつは、こうやってからかうとす~ぐ面白い反応くれるから面白いな。でも、こういう時に普通は肩を揺するとかで無理やり止めようとしたりするもんだけど、こいつはそれも無いからなぁ。こんな顔つきしてるくせに、女に対する免疫が無さすぎるよな。
「ま~だ女が苦手なの治ってないのか?」
「いやだから、苦手ってわけじゃないですから」
「なら、無理やりにでも止めたらいいんじゃないか?」
「む、無理やりって……そんな風にすると失礼ですし、何より今の状況でそんなのすると落ちちゃいますからね?」
「ほんっとお前は固すぎるんだぜ」
「固くて結構です。ほら、もう着きますからそろそろスピード落としてくださいよ」
くだらない話をしてる内に紅魔館が見えてくる。いつもなら適当な窓から入るんだけど、今日は約束があって来たから玄関に向かうとしよう。プールからの視線もきついし。
門の前に下りると、いつもは寝てるはずの門番、美鈴が珍しく、本当に珍しく起きて筋トレをしていた。今日はこっから雨でも降んのか?
「499、500…っと。ん?おや、魔理沙さん。それにプールさんも。話はお嬢様から聞いてますので、ちょっと待っててくださいね」
「はい」
「別にフランのとこへの行き方なら覚えてるんだぜ?」
「勝手に入れるなって咲夜さんから言われてるんですよ。もうすぐ来られると思うので」
「もういますよ」
「うわぁっ!?」
「ふふっ、毎度いい反応をありがとうございます」
「お、脅かさないでくださいよ~……」
「な~にやってんだか。それよりほら、さっさと行こうぜ」
「失礼。妹様もお待ちですし、行きましょうか。美鈴、予定してたお客を通し終わったからって、サボって寝たりしないようにね」
「そ、そんなことしませんってば!」
「出てくるときには寝てるのにここの本5冊かける」
「それ魔理沙さん外しても被害ないじゃないですか」
「寝ませんってば!!」
後ろから聞こえる叫び声を無視して、案内にやって来た咲夜に連れられて建物の中を歩くことこれまた数分。地下にあるフランの部屋まで到着した。やっぱり目立ちたがりってのは無駄に家がでかくて面倒なんだぜ。そんな風に考えながら扉を開けると、待ちかねたかのようにフランが飛び込んで来る。
「も~!魔理沙遅いよ~!」
「悪い悪い。ちょっと霊夢んとこに寄り道してたら遅くなっちまったんだぜ。でも、その分相手はた~っぷりしてやるから、安心しろよな!」
「わ~い!あ、プール!」
「こんにちは、フランさん、元気そうで安心しました」
「えへへ~フランはいつも元気だよ!ねぇねぇ!今日はプールも相手してくれるの?」
「いや~フランさんの相手できるほどじゃないですから。魔理沙さんの付き添いで来ただけですよ」
「ちぇ~っ、つまんないの~。ま、いいや!ほら魔理沙、隣の部屋いこ!」
「おう!そんじゃプール、よ~く見とけよな!」
「はいはい。あ、咲夜さん、もし良かったら、後でレミリアさんとパチュリーさんにもご挨拶をしたいのですけど、大丈夫ですかね?」
「かしこまりました。お二人にもお伝えしておきますね。多分、彼もゆっくり話したいでしょうし」
「はい、お願いします」
「プール~!まだ~!?」
「もう始めちまうぞ~?」
「はいは~い!すぐ行きますよ!」
ったく、隙あらば誰かと長話してんだからな~あいつ。せっかくまだ弾幕ゴッコに慣れてないあいつのためにお手本を見してやろうと思ってんのによ。ま、フランが相手だったらあんまり参考になんないかもしんねぇけどな。
「よし!じゃあ始めるか!」
「うん!今日はどのスペカ使おっかな~」
「二人とも頑張ってくださいね~」
~Side Out~