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第二章 第一節

本日から第二章開始となります。よろしくお願いいたします。


◆虎上青葉


「はじめまして、似内(しない)さん。急に呼び出して悪いね」

「全くです。虎上(こがみ)さんのお兄さんが、私に何の用ですか?」


 俺は似内さんを、似内さんの家から近い神社に呼び出した。

 もう21時を過ぎているので、景色はだいぶ暗い。

 頼りない星空の明かりだけが、この空間を照らしている。

 一応、神社内にいくつか電灯が設置されているが、この時間になると消してしまうらしい。夜の神社が不気味なせいもあるのだろう、人通りが全くない。とても静かだ。


 それでいい。だからこそ、この場所に似内さんを呼び出したのだから。この方が、似内さんも本音を出しやすいだろう。


 だが警戒されているのか、俺と似内さんの間には、心的なものだけではなく、物理的な距離も開いていた。俺は無理に距離を詰めず、数メートルの距離間を保ちつつ、会話を進める。

「俺が言わなくても、予想はできてるんじゃないかな? 俺が言った日付に反応して、こんなに暗くて遅い時間に、ここに来たんだから」

「いえ、全然。私としては、身に覚えがないのに、急に意味深な感じの日付を告げられて気持ち悪いので、それが何の意味を持つのか確かめたかっただけです。電話でもそう伝えたじゃないですか。まあ結局は、直接会わないと教えてあげられないと言われたので、こうしてここにきた訳ですが」


 毒舌めいた言葉を言われるが、特に不快には感じなかった。いやむしろ、

「なるほど、涼香の友達なのも納得だ。似内さんは優しいね」

 そう思ったのだ。

「は? いきなり何ですか? おだてたって、気持ち悪いのは変わらないですよ?」

 似内さんが半目で言う。

「ははっ、口厳しいな。優しいと言ったのは、俺がその日付の日に、正しく何が起きたかを知らずに君を呼びつけたという可能性を、君が考慮してくれたからだ」

「何言ってんですか? 意味分からないです。もしかして馬鹿なんですか?」

「つまり、何が言いたいかって言うと……、」





「5月22日。この日君は、ナイフで猫を刺しただろう?」





 そう言った次の瞬間、俺は激しい痛みに襲われた。

 なぜなら、いつのまにか腹部にナイフが突き刺さっていたからだ。

 激しい痛みが俺を襲い、血がとめどなく流れ出る。体勢を崩し、地面に膝を付けた。

 歯を食いしばって痛みを耐えつつ、似内さんの方を見る。

 似内さんはまるで、ボールを投げたかのような恰好をしていた。似内さんは、俺がその姿を見たのを確認した後、その恰好を解く。


 この事から察するに、俺の腹に突き刺さっているナイフは、似内さんが投げたものなのだろう。この暗闇のせいもあるのだろうが、動きが全く見えなかった。


 人間離れした身体能力。それを似内さんは持っている。


「せっかく、何か別の事と勘違いしてここに来たほうに賭けたのに。無駄になっちゃった」

 似内さんがうっすらと笑みを浮かべる。これは……やはり。

 俺は、なんとか必死に痛みを堪え、言葉を発する。

「隠す気は……無くなったみたいだな」

「ねえ、お兄さん。どうして私がやったことを知っているのかは知らないですけど、知ったからには、口封じをするしかないですね」




----------




 ここまでが2時間前から、現在までにあった出来事だった。

 俺は、死なないはずだとは思いつつも、目前の似内さんに向かって、確認のため問いかける。


「……殺すのか?」

 俺の言葉を聞き、似内さんは笑みを浮かべるのを止めた。淡々と言葉を述べていく。

「やだな。殺したりなんてしませんよ。私がやったことを知ってるなら分かるでしょ、私は、殺しはしません。ただ、私のことを見たり考えたりするだけでトラウマになるくらい、刺しまくるだけです」

「普通は……生き物は、ナイフで刺されると死ぬんだぞ?」

「大丈夫です。私は生き物を殺さずに、何度も刺すことが出来ます。その証拠に、痛みがちょっとマシになってきたでしょう?」

「……あっ」

 そう言われてみると、相変わらず痛いことには変わりがないが、刺された当初に比べて、痛みが引いてきた気がする。依然、ナイフは突き刺さったままであるのに。


 良かった。


 実際に自分が刺されるまで、にわかには信じがたかったけれど、これでほぼ確定した。

 似内風子(しないふうこ)さんは、人や猫を刺しても殺さずに済む、特殊な技能を持っている。

 それはすなわち、現実的にはありえない超常的なもの。


 いわゆる、超能力。

 

「……なんで、にやけてけてるんですか。もしかしてマゾなんですか? 気持ち悪いです」

 似内さんが心底引いた顔でこちらを見る。俺はいつの間にかにやけていたらしい。気づかなかった。

「いや、マゾじゃないよ。想定通りだったことが嬉しくてね」

「刺されても死なないって事がですか? でも、今からお兄さんは、本当なら死ぬレベルの痛みを、何度も味わうことになるんですよ? それでも笑うんですか? とんだ変態ですね」

「猫を刺してる時点で、君もだいぶ変態の部類に入ると思う」


「……うるさいですね」

 似内さんが一歩ずつ距離を詰めてくる。

「ホント気持ち悪いので、私が少しはまともになるように矯正してあげます。その代わり、私や刃物を見るだけで発狂するくらいのトラウマを植え付けますが」

「ははっ。それは困る。料理を作るのが、俺の数少ない趣味の1つなんだ。刃物が使えなくなったら、作れる料理のレパートリーが格段に減ってしまう」

「別にいいじゃないですか。どうせお兄さんみたいな人は、あと何年かすれば、料理するのが面倒くさくなって、外食やコンビニ弁当だらけの不健康な生活を送るようになるんですから」


「どこの疲れた1人暮らしのサラリーマンだよ」


「サラリーマンじゃなくても、そういう食生活を送ってる1人暮らしの大学生も沢山いるそうですよ? アルバイトやレポート、研究に疲れて、料理をつくることは2の次になるらしいです。お兄さんもあと2年以内に高校を卒業するんですから、覚悟しといた方がいいですよ?」

「そんな覚悟は要らないと思う。あと、高校卒業後にで1人暮らしをするかは未定だ」

「そうですか。まあ、それならそれでいいです。私にはお兄さんの将来なんて関係ないですしね」


 似内さんが俺のすぐ目の前に立った。

 ここまで近いと景色が暗かろうが、相手の顔立ちがはっきりと分かる。目鼻立ちは整っており、薄いブラウンのショートボブヘアが良く似合っている。美少女と断ずるにふさわしい容姿であることを、俺は再確認した。また、小柄な身体の割に胸も大きい。

 そんな美少女が、俺の腹に突き刺さったナイフを素早く引き抜く。その際、酷い痛みが再び俺を襲う。

 マゾもしくは人生の上級者であれば一種のご褒美だと感じられていたんだろうが、残念ながら俺には苦痛にしか感じられなかった。

 似内さんは、引き抜いたナイフの切っ先を、ゆっくりと俺の方へと向ける。

「じゃあ、話すのも面倒臭くなってきたんで、そろそろめった刺しにします」


 ……まずい。ホントにめった刺しにされても困るので、そろそろ本題に入るとしよう。


「似内さん、1つ確認したいことがあるんだけど」

「は? 何ですか? 切りつけ方についてですか? 流石、マゾの変態は違いますね」

「マゾじゃないんだけどなあ……」

 似内さんの中では、俺はもうマゾであるらしい。つらい。


 ナイフが俺の首筋に突き付けられる。このままだとあと数秒以内にめった刺しにされるだろう。

 それを防ぐため、似内さんの目を見て、はっきりと言う。


「似内さんは、伊澄正義(いずみまさよし)のことが好きだよな?」


 それを聞いた似内さんは、数秒間の沈黙の後、顔を赤らめ、慌てながら言う。


「は、はい!? な、なな、何を言ってるんですか? わ、私が、伊澄先輩を好きだにゃんてそんにゃ!?」


 ……分かりやすい。

 すっっっごく、分かりやすい。


 動揺を隠しきれない感じが、とてもよく伝わってくる。

 滅茶苦茶言葉を噛んでるし、ナイフも地面に落としてしまっていた。


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