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第九章(終章)


◆虎上青葉


 それから一夜が明け。時刻は朝の6時50分。


 俺は、行きつけの喫茶店にいた。この喫茶店は朝から営業しており、待ち合わせに使うのにはピッタリだ。……そう、俺はここで、人を待っている。


 正直、昨日の今日なので、身体中が死ぬほど痛い。今すぐにでも布団に潜って寝込んでいたかった。けれどそれ以上に、しなければならないことがあるから、今ここにいる。


「おはよう。ごめん、待ったかい?」


 さわやかさを感じさせる、透き通った声がした。俺はその声がした方向に目を向ける。そこには予想通り、正義の姿があった。正義も俺ほどではないが、色んな意味でダメージを負っているはずなのに、それを全く感じさせなかった。流石、正義である。


 俺は首を横に振って言う。

「いや、全然」

 いつもの通り、俺はそう言い返す。実際、まだ待ち合わせに決めた時間より10分程早いのだから。

「さて、じゃあ何から話そうか?」

 正義は席に座ってそう言った。いつもならパトロールの事を話すのだが、今日は流石にその話はしない。


 昨日起きた、一連の出来事。

 それに関することを聞くために、俺は正義を呼んだのだ。


 昨日はとてもじゃないが、正義に質問できる空気じゃなかった。気絶から回復した正義も、似内さんも、青柳さんも、自分がしたことや、されたことが恥ずかしくなったのだろう。顔を真っ赤にしつつ無言で帰宅していったからだ。

 ただ、そうでなくとも、俺も疲れのせいで意識が朦朧としていたので、質問は出来なかっただろう。


 けれど、(体力的な意味で)死にそうになりながら帰宅する直前、静音さんが笑顔で、「青葉君。私の告白、絶対忘れちゃ駄目だよ?」と言っていたのは覚えている。現在は、寝たことで体力を少しだけ回復出来たため、意識ははっきりしていた。

 なので、正義に早速、一番気になっていたことを聞く。




「一応確認しておくけど、正義って本当は、涼香の事が好きじゃないよな?」


「はい。嘘をついてすみませんでした」




 そう言って、正義は頭を下げた。

 やっぱりそうなのか。

 今日の早朝、目を覚ました後、龍弥にそう聞いてはいたものの、念のため確認をとっておきたかったのだ。

「嘘をついたのは、俺に生きがいを与えたかったからか?」

「そうだよ。それも龍弥君から聞いた?」

「ああ」 


 龍弥は、正義と手を組んでいた。


 正義は俺に、戦いによる充実感を与えるため。

 龍弥は俺に、恋愛による充実感を与えるため。


 正義も龍弥もお互い、俺に充実感という生きがいを与えるため、行動していたようだ。


 実行計画は龍弥が立てていた。計画のきっかけは、偶然、正義と涼香がこの喫茶店で会ったことだったらしい。

 正義と龍弥は以前からSNSでやりとりをしていたらしく、偶然涼香に会ったことを、正義は龍弥に伝えていた。それを知った龍弥はそれを利用できると思ったそうだ。

 正義に、涼香に一目惚れしたと俺に伝えさせ、俺の危機感を煽る。その上で、俺に涼香ヘの恋を自覚させ、正義との勝負に勝てば涼香に告白出来ると、龍弥は誘導した訳だ。


 ただ、正義は、静音さん達が勝負に乱入してくるところまでは教えられていなかったらしい。

 龍弥は独自に静音さんと連絡を取り、俺と正義が勝負することとその理由について伝え、静音さん達に神社に行くように伝えたそうだ。


 ちなみに、どうして静音さんの連絡先を知っているんだと聞いたら、

「兄ちゃんと交友がある人の連絡先だったら、似内先輩以外は把握してたから」と、真顔で返された。

 やだ、弟が怖い。ガチで俺の信者……というか狂信者やん。……俺もあまり人の事は言えないけど。


「やっぱり、怒ってるよね?」

 正義は、見るからに申し訳なさそうにそう言った。俺は正直に、それに対して言う。

「まあ、多少は」

 俺個人を騙していたことは全然許せる。2人とも、俺のためにしたことであるから。

 でもそれで、結果的に問題なかったとは言え、静音さん達に呪いを受けるかもしれないリスクを取らせることになったのは、尊敬する正義といえど、簡単に許すことは出来ない。





「だから正義には、これから日替わりで、正義の事が全然好きじゃない、むしろ嫌いと思ってる女の子達とデートしてもらう」


「!?」





「正義の事が嫌いらしいから、何をされるかは全く分からないが、まあ頑張ってくれ」

 呪いはまだ解けた訳じゃない。

 正義が心から誰かを好きになって、その誰かに告白しなければ、呪いは解けない。

 なので、女の子3人組には、どんな手を使ってでも正義をオトしてもらう必要がある。それで、調教なりなんなりして、正義の方から告白するように仕向けるのだ。

 ……正義には、青柳さんの呪いの事を誰も伝えてないそうだから、正義からすればなんでこんなことをされるのか、訳が分からないだろうけど。

「ま、待って、青葉。それはいくらなんでも……、色んな意味で僕の身体が持たない!」

 うん、やはり一種の恐怖を感じているみたいだ。そんな正義に俺は言う。




「大丈夫、俺は正義を信じてる」


「今までで一番いい笑顔で返された!?」




「いいじゃないか。可愛い女の子3人とデート出来るんだぞ? 正義の好きなハーレムそのものだろう?」

「……あ、ハーレムで思いだしたんだけど、どうしてあのゲームタイトルを知ってたの? 青葉に教えたことないはずなのに」

 少し恥ずかしそうにして、正義はそう言った。

 正義と戦った時、正義に隙を作らせるために発言したことを言っているんだろう。


 クラス全員(ピー)ませハーレム! 僕と29人の花嫁(クラスメート)達。


 これはいわゆる、エロゲ―のタイトルだ。最近発売されたばかりの。

 なぜ知っていたか。それは、


「正義の家に遊びに行った時に、こっそり勉強机を調べたら、出てきたから」


「なんでそんなことを!?」


「いや、だって、親友の家に遊びに行ったら普通、そういうエロいものがないか探すだろう? ベッドの下はベタ過ぎるから、勉強机のどこかかなと思ったら大正解だった」

「少なくとも普通ではないよ!? そんなことされてたなんて知らなかったし!」

「でも正義って、ホント、ハーレムものが好きなんだな。かなり多くのエロゲ―があったけど、見事に全部ハーレムものだったし」

「完全に趣味嗜好を把握されてる!?」


 まあでも、だからこそ、正義のハーレムを作ろうと、心から強く思ったんだ。

 確かにきっかけは、静音さんから聞いた、好きになった人全員と付き合いたい理論だった。

 しかし、正義がハーレムについて理解がなかったり、嫌いだったりしたら、正義ハーレムを作ろうとは思わなかった。

 けど、静音さんから話を聞いた後、正義の趣味趣向を調べるためにエロコンテンツ探しをしたら、正義がとんでもなくハーレムものが好きだと分かった。それで、正義ハーレムを実際に作ることを心から決心したんだ。

 それにまあ、エロゲ―が好きなのも、主人公らしいと言えば主人公らしい。某ラノベの生徒会副会長だって、エロゲ―好きだ。

「29人じゃなくて3人だし、何とかなるだろう? (ピー)ませるのは社会人になってからにしてほしいけど。学生が子供を育てるのはキツいだろうし」


 そう言うと、正義は赤面した。

(ピー)っ……! 青葉、そんな堂々と良く言えるね……」

 いや、俺だって普段は堂々と口にしない。じゃあ何故言ったのかと言えば、ノリとしか言えない。恐らく、昨日殴られ過ぎたせいでテンションとか羞恥心とかに異常をきたしてるのだと思う。……たぶん。


 そう思っていたら、いつの間にか顔色が元に戻った正義が半目で言う。

「……でも、僕のことばっかり言うけど、青葉だってハーレムじゃないか。涼香ちゃんと静音先輩に求愛されてるんだろう?」


「………………そうなんだよ。一体どうすればいいんだ……」


 俺は頭を抱える。

 涼香の事は大好きだ。愛している。それは間違いない。

 けれどあの日、静音さんからキスをされたことで……いや、それだけじゃないか。好きな人のためにリスクを恐れず行動する姿を見て……これまで意識してこなかった静音さんの事を、意識するようになってしまった。

「でも、涼香ちゃんには告白したんだろう?」

「した。でも、好きだと告白しただけだ。後はなにもしてない」


「なんで? キ……キスくらいはしなかったの? それともあれかい、静音先輩の事も好きになったから、躊躇してるのかい?」

「躊躇……ではないな。本当は手を出したい。でもそうしないのは、静音さんの事が理由って訳じゃない。むしろ正義、お前が理由なんだよ」

「僕が理由?」




「ああ。俺はまだ、正義に勝ってない」




「いやいや、勝ったじゃないか」

「それは静音さん達の力があったからだ。俺自身の力じゃ、正義に勝っていない。負ける寸前だった。それなのに、涼香に手を出すのは違うと思った」

「……変なところでピュアというか、律儀だね」

「似内さん達にも同じようなことを言われたよ。けど、もう決めたんだ。正義に勝つまで、涼香には手を出さない」




 それに、俺は自信を持ちたい。

 自分が尊敬している人間に、1つだけでも、自分が勝てるものがある。

 それがあれば、俺にも自信が持てると思うのだ。その自信も、生きがいになるに違いない。


 死にたいという気持ちは心から消えないけれど、それ以上の生きがいがあれば、この先も生きていけると思うから。そうすれば、涼香を一生支えていけると思うから。


 ……静音さんについては、まだ色々考えなければならないけれど。


 それでも俺のやる事は変わらない。


「俺は俺の幸せのためにも、正義に勝つ。いつか必ずお前を、自分の力だけで倒してみせるよ」


 俺の宣言を聞いて、俺の尊敬する人間は、少し驚いた表情をした後、





「ああ! 楽しみにしてるよ!」





 心の底から嬉しそうに、そう言ってくれた。



約1か月間投稿してきましたが、以上で完結です。

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!


色々至らない点があったかと思いますが、皆様のおかげで無事完結させることが出来ました。


この小説はこれで完結ですが、今後に活かしたいため、意見や感想があれば教えていただけると幸いです。また、もし少しでも面白いと感じていただけたのであれば、評価をしていただけると大変嬉しいです。


それでは最後になりますが、本当に、本当にありがとうございました!


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