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第八章 第七節


◆虎上青葉


「「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」

 どうしてそうなった!?


 俺はそう心の中で叫んだ。正義もきっとそう思っているだろう。

 だがそれ以上に謎なのが、どうして呪いが効果を表さないんだ?

 キスという愛を示す行為をしているのにも関わらず、呪いが効果を表す気配がない。


「つまりどういうことかというとね」

 俺の心の中の疑問を察したのか、静音さんが語り始める。

「青柳ちゃんの呪いって、割とガバガバで、抜け道があるの」


 ……はい? ガバガバ? 抜け道? 


「青柳ちゃんから、正義君に告白をしようとした女の子の話を聞いて思ったんだ。その女の子って、正義君に告白しようとしたら、呪いに掛かっちゃったんだよね? それで思ったの、告白ってどこからどこまでがセーフなのかな?って」

 ……? どういうことだ?


「告白って、単語の意味的には『心の中で秘密にしていたことを打ち明けること。また、その言葉』って意味だよね。今回は、その秘密にしていたことっていうのが、正義君への愛ってことになるんだけど、それってどこからどこまでを愛として捉えるの?

 それに、言葉じゃなくて、行為ならどうなのかな? 抱きつくとか壁ドンとかは? それで気になって、青柳ちゃんに呪い、というか超能力の正確な定義を聞いてみたの。そしたら、

『好きな人に、自分もしくは他の人が、恋愛的な意味の好意を【言葉】で伝えた場合、その好意が消失する』

 って、ことらしくて。つまり、正義君に抱きつくのも壁ドンするのもセーフなんだよ」

 

 そうか、盲点だった。

 俺達超能力者は、自身の超能力がどういうものかを知っている。どういう効果で、どのように使用するのかを。定義について把握している。

 静音さんはそこに目を付けたのだ。その定義に、抜け道がないか、を。


「けど、そういうのだと、言葉無しで愛を伝えるのには弱いよね。じゃあ、キスはどうかなって思ったんだけど、キスという行為を、呪いが告白と同義だと解釈しちゃうと、呪いが発動しちゃうかもしれないじゃない? いくら言葉ではないとは言えさ、普通にキスするのは怖いよね」


 なるほど。

 抱きつくのも壁ドンも、ネタとして冗談で済ますことは出来る。事実、ラブコメ漫画などではよくネタとして使われている。

 が、キスはそうもいかない。

 海外ではキスが挨拶がわりなところもあるが、ここは日本なのだ。日本人の女の子である青柳さんから生み出された超能力なのだ。キスが愛、恋愛的な好意を伝える告白の1つとして捉えられる可能性はあるだろう。恋愛的な意味の好意を、言葉で伝えないとしても、何が起こるか分からない怖さがある。

 ただでさえ、超能力の穴を利用するのだ。俺の超能力の応用技のように、別の効果(呪い)が生み出されないとは言い切れない。普通にキスなど出来ない。







「だからね。正義君に嫌いって言って、これは苛めだってことでキスすればいいんだって閃いたの! なんていうかこう、SMの女王様的感覚でやればいいんじゃないかって!」






 一気に理論が飛躍した!?


 突然の超展開理論に、俺は一時的に限界を超え、口元を抑えていた静音さんの両手を振り切って叫んだ。

「おかしいでしょう!? 一体何のプレイですか!?」

 正義を何かに目覚めさせるつもりなのか!? 途中まで理解しかけていただけに、俺の驚愕と困惑が凄まじいことになっている。

「そうかな? 良い方法だと思ったんだけど」

「むしろ、正義に嫌われる可能性があるとは思わなかったんですか……?」


 確かにその方法なら、流石に呪いも恋愛的意味の告白だとは捉えないかもしれない。けれども良い方法だとは全く思えない。静音さんはそうは思っていないようだけど。

 静音さんは俺を諭すように言う。


「青葉君、よく考えてみて。嫌いって言ったのに、キスをしてくる人ってどう思う?」


「頭おかしいのかコイツ、って思います」

 心からそう思う。


「まあそう思うけど、それだけじゃないでしょ? もしかして、嫌いって言うのは照れ隠しなんじゃないかって思わない?」

「……ツンデレ行為、って事ですか?」

「そうそう。で、その行為をされた正義君は思う訳。どうしてこんなことをするんだ? もしかして、本当は僕の事が好きなんじゃないか?ってね」

「でもそれって……、」

 と言いかけたところで、


「あ、彩矢! ちょっと待って! こんな突然、キ、キスをするなんて、一体どうしたんだ!? 嫌いって言ってたけど、本当は僕の事が、す、好きなんじゃ!?」


 正義が、俺が思っていた事を言った。俺は静音さんに、「正義に、自分の事が好きなのかと聞かれたら、青柳さんはどう返答するつもりなんですか? 当然、それは聞いてくるでしょう?」と、聞きたかったのだ。そんな俺の疑問に対し、青柳さんは、

「勘違いするなよ、あたしはお前が嫌いだ」

 顔を真っ赤にしながらそう答えた。


「な、ならどうしてキスをしてくるんだ!? 好きじゃないならする必要ないだろう!?」

「お前を苛めるためだって言ってんだろ! お前を辱めてやりたいんだよ! だから、ここから怒涛のキ、キス攻めをしてやるっ!」

「ちょ、彩矢、ま、待って、あっう!?」

 ……まあ、そうするしかないよな。

 静音さんに質問しようとしといてなんだが、俺はこうすることが想像出来ていた。「好きだから」と答えれば呪いが発動してしまう。なので、何を言われようが好きだということは否定するしかない。キスはするけど。


 つまりだ。

 俺は確認のため、静音さんに問いかける。

 青柳さん達の行動の最終目的は。


「キスで、正義に意識させるだけ意識させ。

 本当は恋愛的な意味の好意を持ってるけど、照れ隠しでこんな事をしていると思わせ。

 正義に、青柳さん達に対する恋心を芽生えさせる。

 そうなれば正義は、涼香へ告白するかどうかを考え直すことになる。

 って事ですか?」

 あくまで告白かどうかは超能力(呪い)自体が判定するため、超能力自体が告白と判定しなければ問題ないのだ。前述の青柳さん達の行動により、正義が恋愛的な意味の好意を持つことも、問題はない。


「正解! で、正義君が考え直してるうちに、私と風子ちゃんと青柳ちゃんのことだけしか考えられないくらいに調教するの」


 ……おう。とんでもないことを考えるなこの人。それに今、調教って言ったぞ。

 でも、正義の涼香への告白を止める方法が他にあるかと言われれば、これしかない、という気もする。しかし、だ。




「これは、正義への恋を諦めるというリスクを背負ってまでやることだったんですか?」




 先程、似内さんは言っていた。失敗したら一蓮托生ですし、と。

 それは、青柳さんが失敗したら、静音さんも似内さんも、正義への恋を諦めるということだろう。


 静音さんは、恋する事を奇跡だと言っていた。そう言っていた静音さんが、恋を諦めるリスクを取る理由が分からない。以前、似内さんに対しても同じようにリスクがある発言をしていたが、あれは正義へ告白させるために、似内さんを勇気づけるためのパフォーマンスだと(俺自身で勝手に)解釈した。


 だからこそ、分からない。


 静音さん達が行動しなければ、正義は確実に涼香に告白しただろう。そうなれば、その告白の成否に関わらず、(青柳さんがどう思い、どうするかは分からないが、)静音さんと似内さんは、正義に告白出来るようになったはずだ。

 そんな俺の困惑に対して、青柳さんはきょとんとした顔になる。





「え? さっき風子ちゃんも言ったでしょ? 私はね、正義君の悲しむところを見たくないの。それを防げるなら、リスクなんていくらでも取るよ」





「あ……」

 そうだった。初めから言っていた。


 正義の悲しむところが見たくない。だから私達は来たのだと。

「……は、ははっ」

 同時に思い出した。それでつい、笑ってしまう。


 悲しむところを見たくない。


 俺の尊敬する人間も、同じセリフを言っていたことを思い出したのだ。

「ああ、本当に、静音さんも似内さんも、正義とお似合いだ」

 そして、リスクを承知で真っ先に行動した青柳さんもお似合いだと、心から思う。

 3人が正義と結ばれて欲しいと切に願う。


「ありがとね」

 そう言って静音さんは笑う。

「さてと、じゃあそろそろ、次行こうかな。という訳で、風子ちゃん。そろそろ自分の世界から帰ってきてほしいな」

 静音さんは俺との密着を止め、似内さんに近づき、ぽんっと、似内さんの肩に手を置いた。

「は、はい!?」

 似内さんが慌てて反応する。似内さんは、青柳さんが正義とキスをした辺りから、両手で目元を覆って(といっても、目は指の隙間から見えていた。というか、キスをガン見していた)、顔を真っ赤に染めながら、あわあわと震えていた。


 時折、「す、すごい」とか「ひゃあああ」とか言いながら。そのため、俺と静音さんの会話に入ってこなかったのだ。

「次は風子ちゃんの番だよ」

「そ、そうなんですけど、実際にこういうのを見てしまうと、緊張とか恥ずかしさとかで足が竦んじゃいました……」

「さっきは一番が良いって言ってたのに?」

「ごめんなさい、私は臆病者ですぅ……」

「あらら。じゃ、一緒に行こっか。……でも、その前に」

 静音さんが、何故か俺に近づいてきた。しゃがみこんで、覗き込むように俺と目を合わせた。

「忘れないでね、青葉君」

「? 何をですか?」

 訳が分からず、きょとんとした隙に、







「私は、君の事も大好きなんだよ?」







 俺の唇に、静音さんの唇が重ねられる。目線の端に一瞬だけ、驚愕している似内さんの姿が見えた。




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