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第八章 第四節


◆伊澄正義


 良かった、本当に良かった。心の底からそう思う。


 僕の親友はようやく、自分自身のために行動して、充実感を得ることが出来たみたいだ。


 自分本位で動くような振りをして、その実、いつも他人を優先して、自分の事は2の次になる。

 それが僕が認識している、虎上青葉という人間だった。


 まず最初に違和感を感じたのが、青葉がトラックに引かれかけた時だった。青葉は、引かれかけたのにも関わらず、トラックの運転手を責めなかった。

 それよりも、僕に対しての感謝や詫びの言葉を言うのに徹していた。


 普通、引かれかけたのだから、運転手に文句の1つでも言うべきだろうに、青葉はそうしなかった。

「幸い、助けてもらって無事だったので、謝る必要はないですよ」

 そう、運転手に告げていた。


 超が付くほどの、相当なお人好し。

 その時はそう思った。その後も青葉と付き合っていて、時折違和感を感じつつも、その印象は変わらなかった。


 だが、それが間違いだったことを確信する出来事が起きた。


 それが、静音先輩と出会った時だった。


 あの時は、想定外の事態が2つあった。

 被害者だと思われていた女性が、危害を加えようとしていた男達をスタンガンで倒していたこと。

 その女性が今度は、僕達に危害を加えようとしてきたこと。


 その2つが重なり、あの時の僕は先手を打つことが出来なかった。……いや、それだけじゃない。とても美しい女性がスタンガンを持つという非日常の光景に、僕が見とれてしまった、というのも理由の1つだろう。


 とにかく、その時の僕は、ほんのわずかな時間だが、硬直してしまった。

 もしあそこで、青葉がすぐに動いてくれなかったら、やられていたのは僕だったかもしれない。


 でも、後に思ったんだ。


 何故、青葉はあの場ですぐに動けたんだろう、と。


 これまで、青葉と一緒にパトロールをしてきて、危険な状況になった時、僕より青葉が先に動いたのは、後にも先にも、あのときだけだった。

 そしてあの時が、青葉とパトロールをしていて、もっとも危険な状況になった時だった。


 人は普通、危険な状況になればなるほど、動きが取りにくくなるはずだ。にもかかわらず、これまでで一番危険な状況で、青葉はすぐ動けた。


 それはつまり、これまでの危険な状況全てにおいて、青葉は動こうと思えば、すぐに動けた事になる。


 それを踏まえて考えると、青葉は、このままだと僕がやられてしまう、そういう時だけ、すぐに動くようにしていた。そういうことではないだろうか?


 だとするなら、あの時、トラックに引かれかけた時はどうだったのだろう?


 青葉はあの時硬直して動くことができなかったように見えたけれど、硬直していたのは一瞬であって、本当は動く事が出来たんじゃないか?


 青葉にとってあの時の状況は、死が差し迫った凄まじく危険な状況ではあるが、身動きがとれないわけではなかった。ということになる。


 もしそうだとすれば。







 青葉はあの時、このまま轢かれて死んでも構わない、そう思っていたんじゃないのか?






 そうならば、青葉は一体、どれだけの絶望を抱えているのだろう。


 だから思ったんだ。青葉を救いたいと。


 こんな芝居じみた真似をしてでも、青葉に生き甲斐を与えたかった。








 たとえ、青葉が死にたがっていたとしても、僕は自己中だから。青葉の親友だから。


 青葉に、生きていて欲しい。







 ……ああ、でも、良かった。結果的に、青葉は充実感を得ることが出来たようだ。

 けれど、だからといって僕は負けるつもりはない。わざと負けるのは意味がないからだ。



 最後まで本気で、青葉と戦う。それが、彼に対する礼儀だと思うから。




本日もう1話分投稿する予定です。

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