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第七章 第四節


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 多分、これまでの人生で一番の、驚愕の声が出

た。


 勢いに続けて言う。

「いや、いやいや。無理だろう!? あの正義に殴り合いで勝つなんて出来る訳がない。正義は多人数相手でも勝てるくらい強いんだぞ!」

「でも、兄ちゃんは正義先輩のそういう強さも、優秀だと思ってるんでしょ? その、強さという優秀さに勝たないと、兄ちゃんは、正義先輩とつりあうようになったって思わないよね?」


 ……確かにそうだ。

 物凄く端的に言えば、強さ。優しさ。人望。顔。

 これらが、俺が正義を優秀だと思う理由。

 俺が正義をつりあうためには、これらのどれか1つでも勝たなければならない。

 全くその通りであるが……。


「……」

 現実味が湧かず、沈黙してしまう。

「確かに、難易度はもの凄く高いよね。でも、ある意味これが、一番兄ちゃんが、正義先輩を超えられる可能性が一番高い方法でもあるんだよ」

「……本気で言ってるのか?」


「うん。他の方法もあるにはあるよ。例えば、正義先輩以上に人助けをするとかね。でも正義先輩は、これまでに数えきれないほどの人を助けてきた訳で。

 今から兄ちゃんがそれを超えようとすると、どれだけ時間が掛かるか分からない。むしろ、実現できるか分からない。正義先輩も人助けをこれからも続けていくわけだし。

 普通にやってたら、追いつけない可能性の方が高いよね?」

「……まさしくそうだな」


 正義は、俺とパトロールをする以前から、数え切れないほどの人を救っている。とてもじゃないがその人数に追いつける気がしない。


 では、他の優れた点で対抗しようとしても、勝てる気がしない。


 例えば、顔。正義はイケメンだ。対して俺はフツメン。戦う前から勝負がついている。


 例えば、優しさ。これはそもそも勝敗が付けにくい。個人的に優しさとは、人それぞれ感じ方が大きく異なると思うため、どちらがより優しいかなんて、客観的には判断できない。


「その点、殴り合いならすぐに決着がつくよ。勝った負けたの白黒もはっきり分かるし」


「それはそうだが、顔での勝負と同じ位、俺と正義には大きすぎる身体能力の差があるぞ」


「そんな卑下しなくても……。俺からすれば、兄ちゃんは割とかっこいい方だと思うよ。ただちょっと目つきが鋭かったり、身近な人以外には感情表現が乏しいから、他人をあまり寄せ付けない感じの雰囲気になってるだけで。兄ちゃんはもっと自信を持っていいと思うよ」

 あれ? 予想外なところで褒められた。嬉しい、照れる。どうしよう。御世辞だとは分かってはいるが、本気にしちゃいそうだ。しかし、だ。


「だとしても、俺と正義の身体能力には、埋められない差があるのは事実だ」


 そう、仮に龍弥の言う通り、俺の顔がそれなりに良い部類だとしても、正義の顔とは大きな差があるのは当然のように、身体能力にも覆せない差がある。


「うん、差はあると思うよ。でも、身体能力に関してなら、一時的に差を埋めることくらいは出来ると思うよ。そういうポテンシャルを兄ちゃんは秘めてると思う。なにせ、正義先輩のハードモードなパトロールに付いていけてるんだから」

「ハードモード? そんな事はないぞ。俺はたいしたことをしてない」


 超能力でのサポートについては、超能力自体を家族には内緒にしているため言わないが、それを抜きにしても俺は、特別なことはしてない。だというのに、龍弥は、

「いやいや。兄ちゃん、謙遜しすぎだって。正義先輩のパトロール、超有名だよ。週に1回は乱闘騒ぎになるって」


「まあ、そうだろうな」

 正義は今までにとても多くの人達を助けてきた。それは言い換えれば、その人達に危害を加えようとした、クソ野郎達と敵対してきたとも言える。

 逆恨みとしか言えないが、正義は、そういうクソ野郎達に恨まれている。


 そしてそういうクソ野郎達は大抵、深夜に行動したがる。そこにパトロール中の正義が通りかかれば、何回かに一度、起こることがある。


 逆恨みによる暴力行為をふっかけられるのだ。


 その度に、正義はそれを制圧する訳だが。


 俺はそんな正義の邪魔にならないように、物陰にひそひそ隠れる。時には隠れることが出来ずに、無理やり暴力行為をふっかけられそうになるが、その度に俺は、攻撃を全力で躱して逃げ回っている。戦う事は出来なくても、逃げ回ることは出来るから。


 そうして逃げ回っている内に、正義が俺を狙ってきた奴を倒してくれる。

「――だから、ハードモードなんてことはない」

 そういう事実を、龍弥に説明したのだが。

「うん、やっぱり俺の目に間違いは無かった。それが出来ることをハードに感じてないなら、兄ちゃんには正義先輩を倒せる可能性があるよ」


「何故!?」

 その自信はどこから湧いてくるのだろうか?

「ドッジボールと同じだよ。ドッジボールで絶対に負けない方法って何だか分かる?」

「? さっぱり分からない」

「答えはね、味方チームの全員が、相手チームからのボールに当たらない、だよ」

「……まあ確かに、それが出来れば絶対に負けないだろうな」


「そういう訳で、兄ちゃんも正義先輩の攻撃を躱し続ければ負けることはないし、いつか勝てると思うよ」


「無茶振りすぎる」


 つまり、正義の攻撃をひたすら躱し続け、隙を見てこちらも攻撃を行う。そうすればいずれ勝つことが出来る。そういう事なのだろう。

 あまりにも無茶だ。しかし……。

「それがどれだけ難易度の高い事か……は、分かってるんだっけか」

「うん」


 先程龍弥は言っていた。難易度がもの凄く高いが、これが正義に勝てる可能性が一番高い方法なのだと。


 無茶も無理も承知。けれど、他に有力な方法はなし。


 ならば、覚悟を決めるしかない。


「……分かった。やるさ、やってやる。正義に勝って、正義と涼香につりあう男になってやる!」

「その意気だよ、兄ちゃん!」

「ああ」

 だが、ここでふと、ある事に気づく。




「けどそもそも、正義が殴り合いの勝負を了承してくれないと、この方法って意味がなくないか?」




 勝手に盛り上がっといて何だが、

 正義が嫌だと言えば、そもそも勝負にすらならない。

 というか、嫌だと言う可能性の方が高いだろう。

 別に正義は戦闘狂じゃないのだから。

 そう思っての発言だったのだが、




「それについて問題ないと思うよ? だって正義先輩、兄ちゃんと戦いたがってたから」




 龍弥は、自信満々にそう言った。

 意味が分からない。

「それってどういう……? そもそも、龍弥は正義と話したことないはずだろう? 何で、本人が戦いたがってると言えるんだ?」

 そんな俺の疑問に対し、


「あ、ごめん。実は俺、正義先輩とは結構前に知り合いになってたんだ。連絡先も交換してる」


 と、事も無げに告げた。俺は驚愕する。

「い、いつの間に知り合ったんだ?」

 正義から、龍弥と知り合いになったなんて聞いてないぞ!?

「うーん、悪いけど、それについては説明すると長くなりそうだから、違う機会に話すよ。それに、多分そろそろだと思うし」

「そろそろ?」


「うん。姉ちゃんと正義先輩、ここに呼んだからね。そろそろ来ると思うよ」


「な、何でここに呼んだんだ!?」

 2人はディナー中のはずだろう!?

「善は急げってやつだよ、兄ちゃん。正義先輩に勝つ。そう決心した今が、一番兄ちゃんの中でモチベーションが高い時なんだ。少しでも勝率を上げるなら、そういうメンタル面も意識したほうが良い。

 だから2人をここに呼んだんだよ、探す必要が無くなるし。そういう訳で兄ちゃんは、ここに来た正義先輩を、殴り合いが出来そうな場所に連れていってね」

「お、おう、マジか……」

 いくら何でも準備が良すぎるだろう。

 しかし、ディナー中の二人をどういう理由(建前)でここに呼んだんだ?

 ……と、困惑した矢先の事だった。


「あっくん、大丈夫!?」


 バンッ、という、ドアを開ける大きな音と共に涼香と正義が現れ、部屋の中に入ってきた。2人が俺に近づく。

「涼香! 正義!」

 ホントに来ちゃったぞ。ところで、俺に対して大丈夫?って言ってたが、それはどういう事なんだ?


 俺がその疑問を問う前に、

「りゅー君から、あっくんが倒れたって内容のメッセージが届いたから、急いで帰ってきたよ!」

 汗をかき、すごく慌てた様子で、涼香はそう言った。


「た、倒れた? 俺が?」

 困惑しつつも、何となく状況が分かってきた。

 涼香を呼び戻すために、わざと、俺が倒れたというメッセージを携帯で送っていたのか。いくら何でも、ここまでやらなくても……。

 そう思い、涼香達の後ろにいる龍弥に目を向けると、両手を合わせ、ごめんなさいというポーズをしていた。


「寝てなくて大丈夫なの? 病院には行った?」

 心配そうな表情で正義が問いかけてくる。

 ……。どうしよう。何も返答しない訳にはいかないので、とりあえず何かしら答えようとしたら、

「ごめん、姉ちゃん、正義先輩。俺の早とちりだった。ただ単に立ちくらみで体勢を崩しただけで、兄ちゃん、何ともないって」

 と、龍弥が言った。


 それを聞いた涼香は、心の底から安堵したと分かる笑顔になった。


「そ、そうなの? 良かったあ〜!」

 その笑顔を見て、俺は思う。


 ああ、やっぱり好きだ。


 改めてそう確信した。だからこそ、俺は言う。


「涼香、俺、今から少し出かけてくるよ」


 対決をしなくては。


「……あと、帰ってきたら、聞いて欲しい事がある」

「聞いて欲しい事?」

「ああ、大切な話なんだ。正義、頼む。ちょっと俺に付いてきてくれ」

 そう言って、俺は駆けだした。


「あっくん!?」

 本当は、今すぐにでも好きだと伝えたい。

 でもそれは駄目だ。

 まだ俺にはその資格がない。戦って、その資格を得るしかない。


 家から出て、ある場所を目指す。

「青葉、どこに行こうとしてるんだ!?」

 すぐ後ろには、正義が付いてきてくれていた。

「悪いけど内緒だ」

 俺は走るスピードを上げ、目的地へと急ぐ。




 そこで俺は、これまでの人生で、最大の勝負に出る。

以上で第七章は終了です。次の第八章が実質的な最終章となります。その後の第九章で、エピローグ的な話を1話分予定しています。

いよいよ、完結が近くなってきました。最後までどうぞよろしくお願いいたします。

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